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第4話 非常事態――現状、不明 その三

「………ウソだろ」




乾いた呟きが漏れ、引きつった笑みが浮かぶ。


一体なんだ、この冗談は? 現実なのかこれは?


まったく理解できない現状に零司はただただ立ちつくす。

映画の撮影? 目の前の光景は断じてそんな安っぽいものではない。


わけが分からない…自分の身に一体何が起こったのだ? 目の前で繰り広げられる等身大の食物連鎖の有様は一体何だ?


それを問おうが答えは出ない。

代わりに、再びドラゴンの吐きだした火球によって生き残っていた騎士が焼き殺された。


耳を塞ぎたくなる断末魔が辺りにこだまし、ナパームのそれに似た炎に包まれた人間と馬が、消える事のない炎を消そうと地面をのたうちまわっている。


それから僅かに離れた先では同胞の悲鳴を耳にして混乱したのか、馬車を引く馬が興奮して暴れている様子が見えた。


反射的に、「ヤバい!」と思った直後、必死に馬を抑え込もうとしていた侍従者が投げ出され、抑制を失った馬車がひっくり返る。


横転して動かなくなった馬車。

野生の肉食獣にとって、これほど恰好の『エサ』はないだろう。


言ってみれば、あれは攻撃ヘリの前で各坐してしまったトラックと同じだ。

もはや、乗っている人間たちに逃げる術がないことはあきらかだった。


だがそれよりも……




「……あぁーーーーッ! くそッ! クソクソクソ!! ったくツイてねぇぞクソったれ!!」




そう吐き捨てて零司は50式を構えた。


どうする? 焦る頭で考える。


今、自分が何をどうこうしようが現実は何も変わりはしない。

そんなことは分かっている。


誰かを救ったところで、こんな非現実な状況が回復するわけでもない。


だが、このままでは馬車の乗員は殺され、中身を食い漁ったドラゴンは間違いなくこっちを狙ってくる。


可能性の話ではない、今まで積み重ねてきた実戦まがいの訓練の直感で分かるのだ。


死ぬなんてのは御免、目の前で誰かに死なれるなんてのも御免。




ならば――――――やることは決まっていた。




視線コマンドで、背中のバックパックと脹脛に内蔵するブースターを選択。

それらを最大出力で起動し、バルディッシュは爆発的な加速をもって前方に突出した。


派手な土煙を巻き上げながら大地を滑り、手にした50式を上空のドラゴンに向ける。


マウントした光学サイトがFCS(火器管制装置)と連動してレーザー照射、エイム(照準)――――――発砲。


ライフルにしては重い破裂音が連続して響き渡り、エジェクションポート(排莢口)から硝煙と火薬で薄汚れた薬莢が吐きだされる。


状況にもよるが10mmの鉄板を貫ける7.62mm弾。

対人用としては十分すぎる威力をもつこの弾だが、目の前の生き物にはいささか威力不足だったようだ。


撃ちだした弾全てが表面の鱗に弾かれてしまい、むなしく火花が散っている。




「マジかよ! 全然効いてねぇじゃん!?」




今度はお返しとばかりに、巨大な火球がこちらに向かって吐きだされた。




「―――ッ! ぐッ!?」




真横にサーフェイシング(水平移動)を掛けてこれを回避。


急激な横Gに顔をゆがめつつも、視線で武器の変更を行う。


縦に並んだ兵装コマンドの中から『Caliber Mk-2』という項目を選択。

機体がそれを認識し、バックパックの自動兵装アームが黒いブロックを取り出して、ライフルのストック後方に装着した。


直後、手にした50式がグリップ部を基点にその姿を変え、文字通り『変形』していった。







◆ ◆ ◆







――――――BLAMEシステム。


多様化する戦場に適合できる装備として開発された、『戦場論理および多用途適合電子兵器』のことだ。


これは、全体が『電位差形質転換素子』というもので構成され、事前にプログラミングした兵装に変形することで、戦況の変化に対応することが可能な新世代兵器である。


過去に米軍で計画されていた、火器の銃身を交換することで様々な弾薬に対応できる『マルチキャリバー構想』の究極系とも言えるものだが、マルチキャリバーが対応出来たのは、せいぜい使用する弾丸のサイズの違いまで。


BLAMEシステムでは、火器そのものを数種類まで自在に変化させることが出来る。


ただし、好き勝手に形を変えられるわけではない。

世が物理法則によって成り立つように、この素子も変形には追加分の質量を必要とする。


それがストック後部に取り付けられた『ペレット』と呼ばれる追加質量体だ。


BLAMEシステムは、このペレットを取り付ける、もしくは取り外すことでようやく、その形態を大小切り替えることが出来るのである。


米軍が最初にこれを実戦配備した後は、こぞって先進国が正式採用を始めており、日本ももれなく正式配備が進んでいた。


ちなみに余談だが、このシステム一基で高級外車が2台買えるのは自衛軍の秘密となっている。







◆ ◆ ◆







それまでバトルライフルの様相を呈していたそれは、金属の組み合う軽やかな音とともに次々と形状を変化させ、数瞬後には大型のチェーンガンになった。


自衛軍内で『キャリバー』と呼ばれているこの火器は、使用する弾丸が20mmの『砲』だ。


本来ならば車載で使うはずのこれを携帯火器とするのは、強靭なパワードアシストが備わるARTSならではである。


背後の自動給弾システムが、20mm砲弾の詰まったボックスマガジンを取り出して装着。


零司は渾身の力で側面のレバーを引き、500mlのペットボトル程もある弾を装填、振り上げるようにキャリバーを構えてトリガ―を引いた。


凄まじいリコイル(反動)とともに周囲にパワーショベルの削岩機のような音が響き渡る。


FCSの精密な照準によって捉えられているドラゴンに向かって、連続した火線が延び、体表で派手な火花が散った。


だがこれすらも、目の前の敵には通用していないようだ。




「なんつー固さなんだよコイツ! 空飛ぶ戦車か!!」




降りかかる20mmを忌々しげに振り払ったドラゴンがこちらを睨み、地を震わすほどの咆哮をあげた。


続いて、かすめるだけで重度の火傷を負いそうな高熱の火球が2、3と降り注ぎ大地をえぐる。


精密にスラスターを制御してジグザグの乱数軌道を描き、連続したグライドブースト(噴射滑空)ブーストジャンプ(噴射跳躍)による長距離移動で巧みにそれらを回避。


零司は爆炎の帯をベールを身にまとい、踊るように大地を滑る。


身の丈ほどもある重火器を撃ちながら炎の中を駆け、跳び、かわす。

それはさながら、近代武装を身に着けた踊り手による舞踏に見えなくもない。


見る者によっては、ある種の芸術さすら秘めているだろう。

傍から見れば、余裕をもって戦っているような光景であるが、




「ひぃッ!? あっぶな! これシャレになってねえぞ!!」




実際はそうでもなかった。


火球の爆発は想像以上の衝撃波と熱を放ち、土や固い石片が装甲を激しく叩いてくる。


至近弾が炸裂した時など、衝撃波で吹っ飛びそうなほどだ。


美しさも余裕もクソもない。

何度も悪態をつき、それでもなお、必死にトリガ―を引いているのが精一杯の現状である。


なぜ攻撃が通用しない相手に撃ち続けるのかと言えば、たとえ相手に対して効果を成さない攻撃でも、牽制としては十分に役立つからだ。


それに効果が無いのならば――――――次の手に打って出るまで。




「撃破が無理なら……」




それまで、比較的大きな的である胴体を狙っていた照準を変更。


空を飛ぶ生き物が生理的に嫌がりそうな翼や翼膜などに攻撃の重点を移し、極力この場から離れるよう牽制する。


何度か制射を行い、うまく上空のドラゴンが旋回し始めたところで、零司は射撃を中止。


大きく跳躍してグライドブーストを使い、一気に横転した馬車との距離を詰めた。


激しく地面を滑りながら着地し、勢いを殺すことなく再び跳躍。

馬車の側面に飛び乗り、ARTSのパワードアシストに任せて強引にドアをもぎ取る。


撃破はもとより、撃退も出来ないと分かった段階で考えた二つめのプラン……それは、生きてる人間を連れて可及的速やかに逃げることである。




「大丈夫か!? 生きてるか!」




馬車の中に身を乗り出し、開口一番に叫んで――――――息を呑んだ。







(女の……子?)







年齢は18、19歳ほどだろうか?

表情にあどけなさと幼さが残るも、少し大人の女性らしさが垣間見えはじめた少女が、横転した馬車の中にいた。


黒煙が立ち込め、辺りで炎がくすぶる現状には不釣り合いなほど煌びやかな白いドレスを身に纏い、絹糸のようにきめ細やかな金色の髪が背後に広がっている。


一見してわかる優美さと気品の良さ。

そんな、誰でも一瞬は目を奪われてしまいそうなほどの美しさに、零司は見とれた。


が、すぐに現実に引き戻される。


こちらに向けられた碧く透き通った瞳が、怯えきった様子でこちらを見つめていたからだ。




「ッ! マジかよ!?」




零司は一瞬だけ逡巡した。 まさか子供が乗っているとは思わなかった。


だが悠長に考えている暇はない。


自分を抑え込んでいた忌々しい射撃が無くなったことで、すぐにでもドラゴンは戻ってくるだろう。




「何でもいいから早くそこから出ろ! アレが戻ってくる前に逃げるぞ!」




少女に向かって手を伸ばしそう叫んだ直後、鼓膜を揺らすたたましい警報が響く。




『警告。 接近警報。 6時、距離50』




網膜に投影された赤いダイアログに戦慄する。


異常に距離が近い。

先ほどの牽制射撃でドラゴンは大きく旋回していたため彼我の距離は500m以上稼いだはずだ…




「バカなッ!」




叫び、上空を仰ぎ見る。

そこに――――――いた。


自分たちのちょうど真上、直上と言ってもいい高空に先ほどのドラゴンがいた。


倍率の上がったカメラが勝ち誇ったようにこちらを見降ろす縦長の瞳を捉え、零司は歯噛みする。


迂闊だった。

相手は自分の知っている生物の延長線などではないのだ。

そんな敵に、今までの感覚で対処したのが間違いだった。


そう思った直後、それまでは風に乗るように優雅に飛んでいたドラゴンが急変。 身を翻し、凄まじい速度をもって急降下してきた。


薄く開いた口元には、チラチラと覗く煉獄の煌めき。

今あの火球を吐かれたら回避など間に合うわけがない。




「ヤバい! お前、早く出てこい! 死ぬぞ!」




振り向きざまにキャリバーを構え、零司は叫ぶ。


せめてこの少女だけでも逃がさなければ…その一心でトリガ―を引く。


サウンドカットが働いているヘルメットですら消しきれない発砲音と、馬車を引っくり返さんほどのリコイル(反動)、視界を遮るほどのマズルフラッシュ。


そして吐きだされる20mmの死。


本来なら装甲車の装甲板すら撃ちぬくことが可能な砲弾だが、やはり威力が足りない。


真正面に相対しているドラゴンの顔でいくつも火花が散るだけで、目標は止められなかった。


馬も飲み込んでしまいそうなほど大きな口腔では、はっきりとした火球が形成されつつある。




――――――畜生。




零司は内心で悪態をついて考える。


どうする、どうする、どうする。


一旦馬車の中に降りて少女を救出して脱出するか?


だがこの状況で逃げるとなれば、外で投げ出されている侍従は置き去りにしなければならないうえ、そもそも逃げ切れる保証はない。


相手は僅かに顔を逸らすだけでこちらを射角に取れるのだ。


いかにARTSと言えど、人間一人を抱えて戦闘することは考えられていない。 回避機動を取りながらの戦闘はまず無理だ。


だったら自分が囮になって敵を引き付け、その間に二人を逃がすか?


完全にビビっている少女一人と、生きているかどうかも怪しい侍従の二人が、この状況下を走って逃げられる可能性は……考えるまでもない。 却下。




(じゃあどうする…ッ!)




背後の馬車の中では、先ほどの少女が頭を抱えて泣き叫んでいるのが後部カメラで見えた。


それもそうだ、と焦る頭で思う。


いきなり攻撃を受け、馬車が横転し、素性の知れない人間に怒鳴られ、挙句には戦闘に巻き込まれて……




(クソッ!)




何も出来ない自分に嫌気がさす。

胸がムカつく感覚の中、頭の隅っこは妙に冷静に動いていて様々な思考が頭をめぐる。


走馬灯を見る人間は、きっとこういう感覚なのだろう。


このまま自分は死ぬ……のだろうか?


そう考えると、無意識に胸の中がすっと軽くなった。


別に元の世界に未練があったわけではない。


両親も自分を捨てて行方知れずだし、引きとってくれた伯父夫婦もすでに他界している。 友人らしい友人は隊の仲間ぐらいのもので、恋人も失った。


〝望まれて生まれてきたわけでもない〟。


ともすれば案外、自分は軽い人間だったのかもしれない。


そんな軽い人間が一人死んだところで世界は変わりはしないだろう。


ただ、




「諦めんなよクソったれが……!」




そんな身勝手な諦めに、背後の少女を巻き込んでいいわけがない。


人種、国籍、宗教。


それらを問わず、任務中に救いを求める人間がいれば助けるのが、自分たち自衛軍の本懐だ。


それに属し、国と国民を守る兵士として訓練を受けてきた以上は、最後までその枠に嵌った職務をこなせ。


生きている限りは最善を尽くせ。


自衛官ということに誇りを持て。




「うおぉぉぉぉぉおおおらあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」




腹の底から叫び、零司は目の前に迫るドラゴンに20mmを叩きこむ。


逃げも隠れもできないのなら立ち向かうしかない。

正真正銘、最後の悪あがきだ。


網膜に投影される残弾表示がみるみるうちに減少していき、そして……ゼロ。


内部で給弾を行うモーターが空しく空回りし、過度に加熱された砲身が白煙をあげる。




「―――ッ、まだッ!」




兵装コマンドを選択、キャリバーからM84MWSへ。


変更された弾種に、バックパックに内蔵された自動給弾システムが対応。

ロボットアームが腰から70発入りのマガジンを抜きだし、自動的に装填。


零司はチャージングハンドルを力任せに引き、突き出すようにして照準、発砲。


20mmより少し軽い12.7mmのリコイルが肩を叩き、無残なほどに小さな火花がドラゴン鱗の上で散る。


そう足掻くうちに、相手の口腔で形成されていた火球が完全に出来上がり、今にも吐き出されんばかりに炎の尾を引いていた。


舌打ちとともに火器を変更。


M84にマウントした40mmグレネードランチャーにスイッチングして発射。


HEAT弾の着弾と同時に頭部で派手な爆発と黒煙が上がるも……目標は健在だ。




「――――――これで終いかよ」




射撃の合い間、ポツリと漏れた声は自分でも驚くほどに落ち着いていた。


出来ることを全てやりきったからだろうか?

ともすれば、人間の思考は案外あっけく割り切ることが出来るものなのかもしれない。


ただ、自分の背後で震える少女の存在だけが未練ではあるが…


きつく噛みしめていた口元に苦笑いが浮かぶ。




――――――――――まったく……本当に今日はツイてない。







「………ほんとにそうかよ? なぁーに勝手に諦めムード入っちゃってんのォ?」







無線越しにそう聞こえた直後――――――目の前で巨大な爆発が巻き起こった。




「なッ!?」




信じられない出来事に目を剥いた。


その後、さらに立て続けに数回の爆発が起こり、爆圧がこちらを吹き飛ばさんばかりに吹き付ける。


なんとか馬車にしがみついてショックに耐え、顔を上げた時に見たのは、逃げるように上空高くに舞い上がるドラゴンの姿。


まるで現実の出来事ではないかのようだった。

それまで自分が苦戦していた相手があっけなく守勢に回っている。


その光景と、無線越しに聞こえた馴染みのある声に知らず知らず笑みが浮かんだ。




『待たせたなァ相棒。 俺がいなくて寂しくなかったか?』


「……おっせえんだよバカが。 良いとこだけ持ってきやがって」




後部カメラが捉えたこちらと同じ灰色の機影。


それを映し出すダイアログの中には、緩やかな丘陵の上で巨大なオートカノン(小型の滑空砲)をニーリングで構える同僚の姿があった。


そしてその背後からは――――――稜線沿いに続々と姿を現す他のイエーガーや装甲車の姿。




『零司! いつまでくたばってやがる!! さっさとこっちに来やがれ!』


『急いでください灰島二曹! 背中は自分たちに!』


『クーガー! アレにブッシュマスターを叩きこめ!! 吹き飛ばせ!』


『中隊各機、兵装使用自由! 火力投射開始! 1-3-1を援護しろ』




50口径の重機関銃にオートカノン、装甲車に装備された25mmチェーンガンなどを駆使し、部隊単位での制圧射撃を再開した手塚たちに促され、零司はすぐに馬車の中に飛び降りた。


そこで、怯えきり震えていた少女に手を差し出す。




「来い!」




だが、言葉が通じないのか、それとも素性が知れない相手に従うつもりはないのか、少女はこちらの手を取ろうとしない。


一瞬だけ迷った零司はヘルメットを閉じ、顔を晒して再び言った。




「ほら、掴まれ。 俺は敵じゃない、お前を助けに来たんだ」




それが功を成したのかは分からない。

それでも、こちらに敵意が無い事を悟ったらしいのは確かで、少女はおずおずと手を伸ばしこちらの手を取った。


零司はニッと笑みを浮かべると、そのまま身体を抱き寄せて真上に跳ぶ。

耳元で短い悲鳴が聞こえたが、お構いなしに馬車の中から飛び出して外に着地した。




「1-3-1から中隊全機! こっちには俺以外にも人間がいる。 極力、至近弾は撃つな!」


『『ハァ!?』』


「いいから言うとおりにしろ! 非常時における緊急措置としてやむなく保護した民間人だ、下手に傷つけたら大隊巻き込んで問題になるぞ!」


『んだよその冗談笑えねーーーーーーー! 55mmバラ撒けないじゃんか!』


「アホか!! そんなもんばら撒くなバカ、死人が出るだろうが!」




手塚の物騒な物言いに、悲鳴を上げるようにしてツッコむ。

55mm砲弾など、脇をかすめただけで身体が真っ二つになってしまう。




『えぇ~……だってボク、格闘戦専門だもん。 接近戦の鬼だもん。 鬼が使うべきはスパイクだらけの金棒だろフツーは。 つか、死にたくないんだったら頭下げてろ…よっ!』




身を震わすほどの砲撃音。

そしてこちらの頭上で炸裂する近接信管を搭載した55mm砲弾。


こちらに飛散物を当てず、かつドラゴンにダメージを与える絶妙のタイミングだ。


おどけた様子で滑空砲を撃つ手塚に「何が近接だ、息するように嘘つくなバカ!」と怒鳴りつつ、零司は馬車の横で倒れていた侍従の元へと駆け寄った。


50代くらいだろうか?


自分よりも年上と見える男の手をとり脈拍の確認、続いて呼吸や眼球運動などを読み取っていく。


その間、助け出した少女が不安げな顔で何度も「Alfred!」と悲痛に叫んでいた。


アルフレッド――――――初めて聞いたこちらの言語だった。

ネイティブの英語とは微妙にイントネーションが違うが、そう聞こえる気がする。


たぶんこの侍従の名前で間違いはないのだろうとは思うが……考えつつ、零司は手早く男の状況を把握していく。


骨折箇所などは無し、バイタルは少し低めだが安定。

慣れた手つきで侍従の体調を確認し終えた零司は、彼をファイヤーマンズキャリーで担ぎ、少女の手を取った。




「コイツは大丈夫だから! 俺たちも逃げるぞ」




こういうときは身ぶりそぶりでなんとか意思疎通が出来るもので、今度はすんなりと少女はこちらの手を取った。


そのまま抱きかかえ、サーフェイシングで一気に手塚たちがいる丘へと向かう。


火線の隙をついて降りかかる火球を緩やかな機動で回避。

強くしがみついてくる少女と担いだ従者の重みを一身に感じながら零司は駆ける。


猛烈なスピードで背後に流れていく地面、上空で聞こえる死の羽音、爆発で降りかかってくる土片を浴びつつ爆煙のベールを引き裂く。


横列を組んで射撃を行っていた隊員の脇を高速ですり抜け、慣性を殺せずに地面を削る片足を踏ん張って叫んだ。




「中隊全機! こっちは安全圏だ! 撃て!」




直後、ビリビリと肌で感じられるほどに増した砲声。


まるで大気そのものが砲撃によって悲鳴を上げているようだった。


装甲車の陰に隠れて少女とその従者をかばう零司が見たのは、猛烈な火線を前に、なすすべもなく高空へと逃げることしかできないドラゴンの姿だった。



皆様こんにちは。


自分は戦闘描写はわりと得意な方なのですが、どうでしたでしょうか?


作中、プログラミングした情報次第で任意の形態に変形する装備が出てきますが、「それって苦しくない?」と心半ばで思いつつ作成した第4話です。


兵器は信頼性とコスト、そして…と語り始めるとキリがないので割愛しますが、ガシャガシャ変形する銃というのは面白味はあっても、実際に軍隊で採用されるかどうかは微妙ですね。


ただ、近代の戦争での技術の進化と戦術の複雑化は本当にめざましく、70年後の世界ならこんな武器がひょっとしたらあるんじゃない?と思い書いてみました。


皆様のお気に召したら幸いです。


以上で第4話は終わりです。

稚拙な文章とあとがきでしたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。



※セリフの訂正をしました。

「ばかなッ!!」→「マジかよ!?」

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