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サキュ学

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/05/16


――はい。

では、ここまでについてまとめます。


つまり、人間が淫魔と呼ぶ人型の魔物。

いわゆるサキュバスは一般的な生物や魔物とは違うものを栄養にしています。

彼女たちはそれを得るために官能的な姿をするわけです。


この栄養とは長い間ずっと『精液』であると考えられていました。

いえ。

今、私が講義をしている『サキュ学』が普及している今でさえ心無い者達は『サキュバスは精液を求めている』なんて思っています。


なんでしたら、私がこのように講義をしている事さえも『どーせそういうプレイでしょw』、『おっ、今日は教師ものですかww』なんて言われていますが、そんなことはありません。

これはれっきとした講義です。

仮にも一流大学で教鞭を取っている以上は私もまた知識の奴隷なのです。


ごほん。

話がそれましたね。


とにかく。

サキュバスが求めている栄養は『精液』などではありません。


良いですか。

私たちが求めている栄養。

それは『多幸感』――即ち、幸せなのです。

誰かと笑う。

誰かと抱きしめあう。

そして、誰かと愛し合う。

彼女たちの栄養はそんな些細な幸せ。


しかしながら、彼女たちは仮にも魔物。

故に簡単かつ確実に栄養を摂取するために選んだ手段・技術が極まった結果が今日における淫魔という幻想なのです。


性行為は非常に分かりやすい幸せを得る手段です。

事実として愛し合う者達がする行為であり、同時にそんな愛を疑似的に得るために最古の職業として成立したと言われることもある。


彼女たち。

いえ、私達の求めているもの。

それは皆さん人間たちと同じ、ただの幸せなのです。


――これにて講義は終わります。

今日得た知識が相互理解に多少なりとも役立てばこんなに嬉しいことはありません。





「先生。あの話って本当なんですか?」


後日。

生徒に問われた美しい女教師は答えた。


「そう聞いてくる事自体が答えです」


深そうで深くない。

はぐらかしともとれる言葉。

教師はくすりと笑顔を向けて片手をひらひらと振る。


「繰り返しになるけれど、あの知識が相互理解……パートナーとの生活に役に立てばうれしいです。相手が人でも、魔物でも、獣でも、精霊でも――」


そう言って。

おそらく現存する生物の中で最も愛を見てきたであろう生き物の末裔は立ち去った。

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