金平糖一粒の幸せ
世界が変わった瞬間に金平糖の様な大きさの雪が降った。
夏にも関わらず、その日は大雪でいつからこんな風になってしまったのかと嘆く声がテレビやラジオから聴こえるのを祖父の隠し部屋で聴いていた。
この部屋は誰にも言えない秘密がある。
発掘調査を行っていた冒険家の祖父の最後の発掘で出てきた、この世を変えかねない財宝の中にあったという宝箱だ。
ちょっとしたジョークの好きな祖父の事だ。事実では無いかもしれない。
でも、確かに今は私の手の中にある。
その中には真っ赤な宝石の原石が入っている。
血よりも赤く。透き通っているその姿に私は赤い目の猫を思い出してレッドキャットと付けた。
この宝石にはこの世界では滅びた魔法の欠片が宿っている。手を翳すと少し体が浮いたりというその程度のものだ。
祖父はそれを一生持っていて欲しいと私にこの部屋と共に譲り、姿を消した。
今もどこかで生きているなら、きっとまた戻ってくるだろうともう二十年程待っているけれど、帰ってきそうにない。
「赤い目の大きな黒い猫」
口にして呟いて笑ってしまう。
この猫は私には祖父の形見で、他の人にはきっと奇跡の赤なのだ。
「おじいちゃんは何でこれをくれたのかな?」
宝石を人差し指で啄くと宝箱にぶつかった。
その瞬間だった、世界が変わったのは。
時間が止まって、空から雪が降ってきた。
そして、音楽が鳴り響く。
オルゴールの様な籠った弾くような音を響かせて、宝箱が姿を変える。
紙の様に畳まれて、また何かを形作る。
祖父が私に一人でいるときに連れて行ってくれた遊園地の観覧車が其処にはあった。
宝石が浮き上がり、その真上に落ち着くと、凄い光を放った。
思わず目を閉じて椅子ごと転がった。
そのまま目を開くと、遊園地に私は居た。
「遅かったな。二十年越しのハッピーバースデー」
皺くちゃな顔がまた皺くちゃになってこちらを見た、私は泣いた。
こんな事が起こっても許されるのかと……。
「ありがとう……ありがとう、おじいちゃん」
「ああ。幸せにおなり」
祖父は全てを知っていた。
私がずっとこれを大事に持っていることも、祖父が大好きだったことも、もうすぐ結婚する事も。
「おじいちゃんは結婚式には来れない?」
「儂は残像だ。もうこの世にない。想いだけがこれを形作っている。でもな、一目こうして会えた。こんな立派になってるお前にそれで良い」
その夜、目が覚めると遊園地は無くて、机の上に宝箱と赤い宝石の付いたネックレスが置いてあった。肩にかけてあったブランケットは祖父がよく膝掛けに使っていたもので、私はすっぽり隠れてしまう。
「ありがとう」
もうここに来ることは無いだろうけれど、この魔法のような奇跡の夜を私は忘れられないだろう。
end