窓の青空より
小さな空。
それが私の世界。
綺麗な雲の掛かるときもあれば、星が見えるときもある。
私の世界は小さい。
部屋の一角だけ。
私は動けないから、そこだけでいい。
天井の一区画が窓になってて、そこから空が見える。
私は雨を知らない。
見えるだけで体験したことはない。
きっと冷たいのだけはなんとなくわかるのだけど。
「今日も咲かないのかい?」
「気分が乗らないのよ。日も当たりが悪いし」
「そう言われると申し訳ないね。君を外に出すと周りがうるさいからね」
「毎回それね。私はいつも窓の光しか知らないんだわ」
「見えない所でなら出してあげられると思うから、許可を貰ったらね」
どうせまた許可は出ない。
私は空を見上げる。
外はどんなものなのか思いを馳せて。
その日の月は綺麗だった。私は体を伸ばす。
少しずつ、上へ上へ。
何処まで伸びるか私も解らない。
でも、体を伸ばして、欲しいものを貰えるように。
でも、私の欲しいものは手に入らない。
満天の空を両の手を広げて背中に地面を付けて見てみたい。
そんな願いは叶うはずがないけれど。
想うだけなら自由でしょう?
「許可が出たよ」
そう言いに来た男の人は初めて見る顔だった。
私の鉢を抱えて、私を布で巻いて運んでくれる。
「何処まで行くの?」
「ああ。温室までね。外には出してあげられないけど」
置かれて、布を剥がされると、そこには空が広がっていた。
「凄い!!凄いわ!!」
「わ、倒れる倒れる!!」
「だって、凄いわ!!」
満天の空がガラス窓に広がっていた。
広い空だった。
綺麗な青色の透き通った空が広がってた。
「今日からここが家だよ。水がほしい時は近くの職員に言ってね」
そう私のおでこに口をつけた。
「何それ?」
「おまじないだよ。これから、お願い事がいっぱい叶うおまじない」
「そんな凄い事だとは知らなかったわ。貴方はなんていうの?」
「俺? 俺は大澤 空。ただの研究員だ」
「空。空が大空を見せてくれたって何だか素敵な響きね」
「何処のギャグかと思ったけどね」
笑ってホースで水をやり始めた。
それを見てから空を見上げる。
私の空はこの時少しだけ広がったのだと、嬉しく想った。