樹木の巨人と幾千年を生きる魔女
「ねぇ、この巨木人達何処に向かってるの?」
酷い地響きと揺れに耐えながら少しボコボコになった赤い車を走らせている白い髪の若い女に声を掛ける幼い少女。
「多分だけど、世界樹の森に向かってるね。その途中に村があっただけなんだろうよ」
「村の中の人間も何人か巨木人になったって」
「仲間を増やして行くのは普通だよ。でもね、人間に戻るものもいる。きっと向こうは大変なことになってるよ」
車をそのまま巨木人の向かっている場所へと走らせる。
何だか不思議な緊迫感を感じながら、大きな木の化け物である巨木人と並走して走る。
「山より大きいから踏まれたらひとたまりもないよ」
「解ってるよ。大丈夫。世界樹できっとあれをするから、それを見届けたら、巨木人をもとに戻さないと、世界樹が折られてしまう」
「折られてしまうの?」
「ああ。奴らは木に登ろうとするのさ。それを止めないといけない」
車を森の手前で止めて、二人は降りた。
歩き始めると巨木人達も先程よりゆっくり歩いている。
「でも、ラディーはいつからこんな事してるの?」
「1500年前からかな。世界樹が生まれてからそういう契約をした。でも、それ以前の世界樹は皆巨木人に壊されたらしいよ。そのたびに世界が荒れた。それを収めるために生まれてからずっとこれを行っているのさ」
「次は私も一緒にやるよ」
「そりゃあ、助かるよ。でも、契約はやめといたほうが良い。歳も取らなくなるわ、飲み食いも必要ないわでてんで面白みのない生活になっちまうからな」
「そんなの、一人でずっと生きてなきゃ行けないってことでしょう? 嫌じゃないの?」
「嫌だよ。本当にね。関わった人間皆いなくなっちまうんだから。でもね、そういう契約だったんだって割り切れるようになってきたよ」
そう笑う彼女に少女は怒る。
「そんなの、何歳になっても嫌なものは変わらないじゃん!!一人だけそんな目にあって嫌だよ!」
「ティアがそう言ってくれるから、許せるかもしれないね」
そう笑った顔は穏やかだった。
そして、巨木人を見据えた。
世界樹の前に横並びになり何かを捧げていた。
「始まっているね」
「儀式か何か?」
「あれはね、世界樹と一体化するための儀式だよ」
「でも、破壊されるって」
「そう、一体化なんて出来ないのさ。なのに懲りずに5年にいっぺん来るんだよ」
「で、どうするの?」
「儀式が終わる頃に魔法を使うよ」
「人に戻す魔法?」
「いや、人だけじゃないさ。海月も海豚も熊も巨木人になってるからね、万物を元の形に戻す魔法だよ」
「普段、魔法なんて使わないから、魔法使いだなんて忘れちゃうよね。ラディーは凄いな」
それに静かに大笑いしたが、本当に楽しかったようで暫く思い出しては笑っていた。
「ティア、魔法を使うときは私の腰にしがみついてな」
「解った」
儀式は1時間後に終わりを告げた。
「終わったよ。じゃあ、一仕事しようじゃないか!!」
大声で言うと、こちらを向く巨木人に向かって違う次元から出した杖を振り呪文を唱え始める。
そして、こちらに向かって来ようとした巨木人に向かい杖を振りかざした。
「Again」
そして、巨木人は人や他の動物に戻っていった。
「ティア、終わったよ」
「良かった。ラディーもお疲れ様」
「うん。帰ったらコーンスープ飲もう」
「いいね」
そうして、二人はまた赤い車で道なき道を走り始める。
二人の闘いはまだまだ続く。
それは魔女と巨大な樹木の巨人の闘いの記録だ。