第1話「婚約破棄? ふん、私が悪役令嬢ならチートで逆転よ!」
私が、悪役令嬢? ふん、テンプレすぎるわ!
大広間の空気が凍りつく。
王太子レオンの声が、学園のメインホールを突き刺した。
「レイリア・フォン・エルミナ! 君との婚約を、ここで破棄する!」
は? 何? 頭がクラクラする。学園中の生徒が私を凝視し、嘲笑と同情の目が絡み合う。
私のドレスの裾が、微かに震えた。
「レイリア、君は魔力ゼロの落ちこぼれだ。アメリア・サリスこそ、私の真実の愛!」
レオンの隣で、アメリアが聖女スマイルを浮かべる。天真爛漫を装った、あの腹黒い目。
私を「嫌がらせの悪女」と告発した証拠を、彼女がでっち上げたって話よね? ふん、よくもまあ、こんな茶番を。
「待って…何これ?」
頭の奥で、何かがチラつく。前世? 図書館? 乙女ゲーム? いや、落ち着け、レイリア! でも、この展開、どこかで…。
「レイリア・フォン・エルミナ、悔い改めなさい!」
アメリアの声が甘ったるく響く。
「あなたの罪は、聖女の私が浄化します!」
罪? ハッ、冗談でしょ。私、政略結婚の駒としてレオンに尽くしただけよ。なのに、この公開処刑? ふざけないで!
「衛兵! 彼女を拘束しろ!」
レオンの命令で、数人の生徒が私に近づいてくる。剣の鞘がカチャリと鳴る。まずい、捕まるわけには…!
その瞬間、頭の中でバチッと火花が散った。
「待って! 思い出した!」
私は…図書館司書だった。30歳、地味な人生。乙女ゲーム『星輝のプリンセス』をやりこんだ記憶。この世界、そのゲームの舞台じゃない! 私、悪役令嬢レイリア・フォン・エルミナ!?
なら、この婚約破棄、テンプレの第一幕よね。ふん、こんな男、こっちから願い下げよ!
「レイリア、観念しなさい!」
衛兵の一人が私の腕をつかもうとする。
「触らないで!」
私はドレスの裾を翻し、一気に跳んだ。学園の剣術訓練、ムダじゃなかったわね! 衛兵の隙をすり抜け、窓の縁に飛び乗る。大広間のガラス窓が、夕陽をキラキラ反射してる。
「何!?」
「令嬢が…逃げる!?」
生徒たちの驚きを背に、私は窓から飛び降りた。ふん、テンプレの悪役ならヒステリー起こして終わりだけど、私、違うのよ!
地面に着地し、息を整える。学園の裏庭から、すぐ近くの森へ突っ込む。ドレスの裾が草に引っかかるけど、そんなの知ったことじゃない。
さて、自己紹介の時間ね。私はレイリア・フォン・エルミナ、18歳。ルミエール王国の公爵令嬢で、ヴィルトス魔法学園の3年生。
いや、だった、か。さっきの婚約破棄で、たぶん私の立場は地に落ちたわね。
この世界、『星輝のプリンセス』の舞台。ヒロインのアメリアが聖女としてチヤホヤされ、悪役令嬢の私が破滅する乙女ゲーム。
ふん、テンプレすぎるでしょ。前世の私は、こんなゲームを徹夜でクリアしてたっけ。司書時代、図書館の奥でこっそり攻略本読んでたの、懐かしいな。
「はあ、でも、なんで私がこんな目に…」
って、愚痴ってる場合じゃないわ。森の奥に逃げたのは、ただの勢いじゃない。
この世界の森には、噂の「星輝の塔」がある。ゲームの裏設定で、隠しアイテムやチートが眠る遺跡よ。どうせ破滅ルートなら、そこで何か掴んで逆転してやる!
ルミエール王国は、魔法が全ての世界。貴族は魔力で序列が決まり、魔力ゼロの私は笑いものだった。
いや、正確には「魔力ゼロと誤解されてた」だけ。ふふ、アメリア、覚えてなさいよ。あなたの偽聖女っぷり、絶対暴いてやるんだから!
木々の隙間から、苔むした石塔が見えた。星輝の塔! ゲームのスクショより、ずっとボロボロだけど…間違いない!
塔の入口は、蔦に覆われたアーチ。ひんやりした空気が、私の頬を撫でる。
「よし、入るわよ!」
自分に気合を入れるけど、正直、ちょっとビビってる。だって、魔物とか出たら、私、今のままじゃ戦えないし!
中は薄暗く、床の石板がカツンと響く。壁に光る模様がチラチラ。…待って、これ、なんか未来的? 司書時代に読んだSF小説みたい。いや、考えすぎね、レイリア!
「グオオ!」
突然、闇から唸り声。赤い目が光る。
魔物!? ゲームだと「シャドウウルフ」ってやつ!?
「うそ、1話目からボス戦!? テンプレすぎ!」
メタツッコミしてる場合じゃない。どうする、私! 武器なし、魔法なし…でも、司書の知識なら!
「落ち着け、シャドウウルフは光に弱い!」
ゲームの攻略本、脳内でパラパラめくる。
床の光る石板、さっき踏んだら何か反応したよね? よし、賭けてみる!
私は一気に走り、石板をガンガン踏む。カチカチッ! 壁の模様がビカッと光り、塔全体が振動。
ウルフが怯んだ隙に、私は奥の通路へダッシュ!
「ハア、ハア…なんとか!」
通路の突き当たり、金属のドアが見える。制御室っぽい雰囲気。ゲームだと、こういうとこにチートアイテムよね?
ドアに触れると、ジジッと光が走る。
「認証…継承者、確認」
って、機械の声!? 何これ、めっちゃSFじゃん! でも、考えるヒマなし。ウルフの足音が近づいてる!
「開け、早く!」
ドアがスーッと開き、私は中へ滑り込む。バン! ドアが閉まり、ウルフの唸り声が遠ざかる。
「ハア…セーフ…」
息を吐き、辺りを見回す。部屋の中央に、キラキラ光るペンダントが浮いてる。星輝の宝珠! これ、絶対チートアイテムよね!?
「ふん、テンプレ展開、嫌いじゃないわよ」
私はニヤリと笑った。この世界、私が変えてやる!