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嘘をついた

作者: 美界
掲載日:2025/12/24

私は小さい頃からよく嘘をついていた。


小学校の給食の時間、

(ゆい)ちゃん、トマト好きだったよね?私のあげる」

「……そうなの、ありがとう」

本当は嫌いだけど、今さら嫌いだなんて言えなくて我慢して食べた。


中学生の時のある休み時間、

「唯、アイドルの◯◯君って格好いいよね」

「……うん、格好いいよね」

本当はアイドルに全然興味ないけど、 仲間外れになりたくなくて話を合わせた。



高校生のある日、私が嘘をついているのがお母さんにバレてすごい怒られた。途中まで覚えてないけど、最後にこう言われたっけ。


「嘘をついても誰も幸せにはなれないんだよ」


その言葉の意味はわからなかったけど、この時からだった。






私は、『何か』に取り憑かれた。






姿は見えないけど、『それ』はずっと私の耳元でブツブツ呟いていた。お経のような感じだったが、何を言ってるかさっぱりだ。

でも『それ』は毎日続いた。朝起きても、学校にいても、家にいても。四六時中ずっとブツブツブツブツ呟くだけだった。

そんなことがずっと続くと、さすがにノイローゼになりそうだ。

私は聞こえないふりをするために、学校の授業中や家族と過ごす以外の時間ずっとヘッドホンをつけることにした。効果があるわけないが、気休めだ。



「ねぇ唯、なんで授業以外ずっとヘッドホンしてるの?」

ある日の放課後。私はいつもようにヘッドホンをつけて机にうつ伏っていると、友人の雅子(まさこ)が不思議そうに聞いてきた。

この感じだと、雅子には『それ』の声は聞こえないらしい。


「…私、音楽好きだからさ。音楽聞いてないと落ち着かなくてね」


本当のこと言っても雅子にはわからないだろう。私は当たり障りない嘘でなんとかごまかした。

幸い雅子は疑う素振りをせず、ふーんと答えた。


「へぇー。あんたって音楽好きだったんだ」


私と雅子の会話に割って入ってきたのは、クラスメイトの絵里花(えりか)だ。

絵里花はクラスのギャルグループのリーダー的存在で、自己中心的な性格の嫌な女だ。


「ねぇ、そのヘッドホン貸してよ」

「えっ……でも……」

私の歯切れの悪い態度に絵里花はムッとなり、

「いいから貸せよ!!」

私の首に掛けていたヘッドホンを無理やり引っ張って奪った。引っ張られた勢いで、私は椅子ごと思いっきり倒れた。

「唯!大丈夫!?」

倒れた私を心配する雅子。それに対して絵里花は謝らないどころか倒れている私を嘲笑うように見下していた。本当に卑劣な女だ。


「ちょっと絵里花!謝りなさいよ!!聞いてるの!?」

雅子が怒っているのにもお構い無しの絵里花は私のヘッドホンを耳に掛けて聞こえないふりをする。

「絵里花!!」

雅子がもう一度言うと、絵里花は急にヘッドホンを外した。


「何これ!?変な女の声とか、気持ち悪いんだよ!!」


絵里花は私にそう怒鳴り付けると、ヘッドホンを私に投げつけて教室から出て行った。


「全く絵里花の奴、謝らないどころかヘッドホン投げるとか信じられない!」

雅子は私の手を引いて起こしてくれた。そして絵里花が投げ捨てたヘッドホンを自分の耳に当てると、何故か首を傾げた。


「ってか女の声するとか言ってたけど、ヘッドホン何にも音しないじゃん」



……あれ……?



さっきまで絵里花のことでイライラしてたから気づかなかったけど、いつの間にか耳元で呟く声がピタッと止まっていた。

それと同時に、絵里花の言ってたことが気になった。


『変な女の声とか、気持ち悪い』




……まさか……ね?



私はちょっぴり不安だったけど、気にも止めず雅子と一緒に帰った。





次の日。あれから『それ』声はしなくなった。昨日まで『それ』のせいで全然眠れなかったけど、久しぶりにぐっすり寝ることができた。

体も軽くなってスッキリと朝起きれた。機嫌良く起きた私にお母さんは少し驚いてた。


学校に向かう途中雅子と会って、そのまま一緒に教室までお喋りしながら歩いた。

教室に入ると、真ん中辺りで人だかりができていた。場所からして絵里花の席だった。


私はクラスメイトをかき分けて覗いてみた。机には絵里花が座っていた。でも、その絵里花は真っ青な顔して耳にヘッドホンを掛けてガタガタ震えていたのだ。


『何々?絵里花どうしたの?』

雅子は近くにいたクラスメイトに聞いた

『それが、絵里花が昨日の放課後からおかしくて。変な声がずっと聴こえるって』


その話を聞いて、私はやっぱりと思った。絵里花がヘッドホンを付けた時、『それ』は私から絵里花に乗り移ったんだと。


私と雅子の存在に気づいたのか、絵里花が顔を上げて勢い良く立ち上がると、私の前に詰め寄ってきた。


『唯!!あんた何か知ってるんでしょ!この声一体何なの!?教えてよ!!』


絵里花は私の肩を掴んで叫んだ。鬼のような形相で詰め寄る絵里花に私は答える暇もなかった。

その時、私は絵里花の背後にいる『それ』を見てしまった。どす黒いオーラに包まれた髪の長い青白い顔をした女が、目をギョロっとさせて私を睨んでいた。そしてまた、あの声が聴こえ始めた。














『……声なんて、聴こえないけど?』




そして私は、今日も嘘をついた。

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