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未来にこの想いを繋げて


 次の日の朝。

 牧草ベッドの上でぐっすり眠っていた私は、腕の中の温かいものがモゾモゾ動く感覚で目が覚めた。


 薄っすら目を開けると、白くてフワフワしたものが揺れて私の鼻をくすぐった。

「ふわぁぁ。ロロ起きてるの? おはよー」

 私は上半身を起こして、両手を突き上げて伸びをした。

 ロロもひょこっと起き上がると、私を見上げる。

「おはよう。リルが一緒に居てくれたから、よく眠れたよ」

 ロロが目をハの字にして朗らかに笑った。


「…………」

 この王子はとにかく可愛い。

 毎朝、目覚めて1番に見る人は、こんな人がいいなとふと思ってしまうほどに。


 …………

 私もエトバール国王の幼い子好きをとやかく言えないかも。


 はぁ。

 ……エトバール国王かぁ。


 いろんなことを一気に思い出してしまい、ずーんと肩を落として沈んでいた。


「どうしたの?」

 きょとんとしたロロが聞く。

「……前に言った、結婚相手の怖い王様を思い出しちゃって……」

 私は遠い目をして答えた。


「リルは帰らないでしょ? ボクと一緒に暮らそうよ」

 可愛らしいロロからの、可愛らしい申し出だ。

 

 私の頭の中では、いろいろなことがよぎった。

 けれど、目の前にはムンと胸を張って、頑張って言ってくれたロロ。

 彼を見ていると、悲しませるようなことは言えなくなった。


「うん!」

 私は一緒にいられるように、願いを込めながら力一杯頷く。


 私も可愛いロロといられるほうがいい。

 断然いい。


 


 私はそうして、神殿から出ようとすると帰されそうになった事実から目を背けた。




**===========**


 ロロが〝試練〟に挑んで3日目の朝。

 

 私はまた植物の精霊に祈りを込めて、ヤマモモに似た、マリーニ国では有名なカリュオンを実らせた。

「昨日から沢山力を借りてごめんね精霊さん。本当にありがとう」

 緑の光の粒が、心なしかフラフラしながら飛んでいった。


 そしてそのカリュオンを、牧草ベッドにロロと並んで座り、頬張った。

 行儀が悪いけど、この神殿には椅子なんてない。

 あるのは神殿のデザインの一部である、硬い石の出っ張りだとか。


 そんな場所に、長時間座るなんて出来ません。


「リルが出してくれたこのカリュオン? 甘酸っぱくて美味しいね〜」

 ロロがニコニコ笑って歓声を上げた。


 ……なんて不憫なのかしら。

 王族だから、多分いつもはもっと豪華な朝食を食べているはず。

 なのにこんな何もない所に放り込まれて、こんな粗末なもので喜んでくれるなんて……


 私は牧草ベッドの時と同じことを思った。


「けど、これが続くと流石に辛いね。いったんやめるとかは出来ないの?」

 私が尋ねると、カリュオンをもうひとかじりしようと口を開いていたロロが、ピタッと固まった。

 それから気まずそうに目を逸らす。

「……今日が〝試練〟に挑める最後の日なんだ」

「え……」

「ごめんね。言うの忘れてた……」


〝試練〟はまさかまさかの、時間制限付きだった。

 

 そりゃそっか。

 いつまでもここに居続けるなんて、最悪死んでしまう。

 そこまでロロの一族も非情じゃないらしい。


 でも……

 こんなに頑張っているのに、残された時間はあとわずかなんて……


 …………

 


「リル?」

 考え込んでいる私が怒っていると勘違いしたロロが、首をかしげて愛想笑いをする。

 そんなロロを見て、どうにか〝試練〟をクリアさせてあげたいと強く思った。




 ーーーーーー

 

 私とロロは扉の前に立っていた。

 2人して手を繋ぎ、扉を見据えている。


 この扉の中に入ると、フェニックスがいるあの大きな広間の2階のフロアだ。


 その扉を見つめたまま、私は隣のロロに声をかけた。

「これで最後なんだから……挑戦するしかないよね」

「……うん」

「作戦通りにやってみよう。大丈夫。ロロならうまくやれるよ」

「……うん」

 緊張しているロロの元気がない。


 私は1度ロロに向き合った。

「ロロ。自分を信じて。私はロロを信じてるよ」

「……ありがとう。ボクもリルを信じてる」

 ロロがゆっくりと扉の方を向いた。


「強くなって、リルを守れるようになってみせる!」

 ロロがそう高らかに宣言して、一歩踏み出した。




 私たちは大広間の2階のフロアに入った。

 その中でも1番天井が低く狭い空間に、フェニックスを(おび)き出す作戦だった。

 ロロが壁際に立ち、剣を鞘から引き抜く。

 そして一度だけ深呼吸をしてから剣を構えた。

 私はその間に、ロロとは反対側の吹き抜けに面したフロアの端に立つ。


「……いいよ!」

 ロロが私に向かって大きく頷いた。

 私も彼に頷き返すと、1階にいるフェニックスに手を掲げた。


「倒しにっ! 来ましたっ! よっ!!」

 掛け声のように言葉を発するたびに、風の魔法をフェニックスの顔にぶつけた。


 すぐさま私に気付いたフェニックスが、目を爛々とさせて飛び立った。


 なぜ私を見て嬉しそうなの!?


 ギョッとしながらも、素早くフェニックスから死角になる柱に隠れた。


 それと同時に2階のフロアと同じ高さに舞い上がったフェニックス。

「こっちだよ!」

 ロロが自分を注視させるために叫んだ。


 ロロはやっぱり怖いのか、歯を噛み締めて少しだけ剣を握る手が震えていた。

 けれど逃げ出すなんてことはせず、ロロは勇気を振り絞ってフェニックスと対峙していた。


 そんなロロに向かって、フェニックスは数回羽を羽ばたかせると滑空して突っ込んでいく。

「お母様を安心させるんだ。お父様に認めてもらうんだ。勇気を出して、怖いと思っている気持ちを乗り越えるんだ!!」

 ロロが自分を鼓舞するために叫んだ。


 見ることさえ怖がっていた彼からしたら、大きな成長だ。


 もういいじゃん。

 これで〝試練〟をクリアにさせてよ。


 ロロに激甘判定な私は、そんな不満をフェニックスにぶつけるように風の魔法を発動させた。

 フェニックスは私に背中を向けてロロの方へ飛んでおり、尾羽の火の玉を消すのは簡単だった。


 それと同時に、フェニックスの全身からも炎が消えた。




 その瞬間を待っていたロロが、フェニックスに向かっていく。


「やぁ!!」

 走り込みながら剣を振り下ろし、フェニックスの胸を切り裂いた。

 そして低く飛ぶフェニックスのお腹の下を、スライディングするようにすり抜けた。

 ロロがすれすれで抜け切ると、間一髪でフェニックスの体に炎が蘇る。

 ロロはすぐさま身を起こしてフェニックスが飛んでいった方に向き直り、体制を立て直した。


 ……あれ?

 ロロ普通に強いじゃん。

 これで弱い弱いって虐められるなんて、どれだけ屈強な一族なの!?


 けれど、これで一撃は喰らわせた!




 私は期待を込めてフェニックスを見た。

 フェニックスは狭い空間でも器用に旋回して、2階のフロアの壁沿いを飛び続けていた。

 ロロがつけた胸の傷もみるみる内に再生し、何食わぬ顔をして飛んでいる。


 それを見たロロが思わず嘆いた。

「やっぱり、一撃当てるだけじゃクリアにならないんだ……」

 構えていた剣も、ヘナヘナと下に向けてしまう。


「諦めないで! もう一度やってみようよ!」

 私がそう言って魔法を発動させようと構えた時だった。

 なんとフェニックスは、私目掛けて猛スピードで飛んできたのだ。

 相変わらず目を爛々とさせながら。


「えぇ!?」

 私はあっという間にパクッと胴を(くわ)えられると、ぽーいと吹き抜け部分に放り投げられた。


 落ちる先は……

 もちろん台座の上で燃え盛る大きな聖なる炎。


「キャー!!」

 風を切る音が耳元で聞こえる。

 私は下へ下へと背中から落ちていった。

 

 精霊の加護があるけれど、この高さとあの炎……

 無事じゃいられない気がする!!


「わぁああ!! どうしよう!?」

 一気に恐怖が爆発しパニックに陥った時、上から声がした。

「リル!?」

 見るとロロが私を追いかけるように、2階から飛び降りてしまっていた。




 ダメだよ!

 ロロには加護がないから。


 私が彼を……守らなきゃ!!

 

 冷静になった私は、ロロを守りたい一心で手を組んで祈りを捧げた。


「精霊様。彼に……私の愛するロロに、この加護の力を授けて下さい!!」


 怖がりで泣き虫だけど、可愛くて人一倍優しい王子様。

 困難にも勇気を出して立ち向かい、立派な王子になろうと健気に頑張るロロ。


 そんなロロを……

 絶対ぜったい死なせはしない!!




 そう強く願った時、体全体がじんわり暖かくなった。

 それがジワジワと外に出ていくと、空に向かっていくのを感じた。

 その先には、必死に私に手を伸ばすロロ。

 

 ……良かった。


 私は安心して目を閉じた。

 熱い炎に全身を包まれながら……


「リル!? リル!!!!」

 ロロの悲痛な叫び声が聞こえた。





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