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7/12

そう全てを信じて


 オレンジ色に光り始めた私は、慌てて神殿の中に戻ろうと振り向いた。


「リル!!」

 そこには血相を変えて駆けてきたロロがいた。

「行かないで!」

 外にまで飛び出してきたロロが、私にしがみつく。


 おそらくロロは、ちょっと前から私の様子を(うかが)っていたのだろう。

 外に出た途端に光り始めた私を、本能的に神殿の中へと引っ張り込む。


 そして無事に中に入ると、私を逃さないかのようにギュッと抱きついてきた。

 私もここに残れますようにと祈りながらロロを抱きしめ返した。


 すると願いが通じたかのように、オレンジ色の光が徐々に収まっていった。

「…………」

 私とロロは無言で抱きしめ合いながら、完全に光が無くなるのを待つ。


 無事に光が消えたのを確認すると、私はロロを抱きしめる力を弱めた。

「……ビックリしたぁ」


 さっきまで私の手のひらの上で輝いていた光が、行き場をなくして辺りをクルクル回っていた。

 私がそっと手のひらを上に向けると、光がフワフワと戻って来てくれた。

 その優しい精霊の光を見つめて、ホッと安堵のため息をつく。

 そして私に抱きついたままジッとしているロロの、フワフワ頭を優しく撫でながら声をかけた。


「もう大丈夫だよ」




 けれどしばらく経っても、ロロは私を抱きしめる力を弱めてくれなかった。


「……ロロ?」

 私が優しく呼びかけると、彼は俯いたままモゴモゴと喋った。

「ごめんね。こんな危ない所に呼び出して。嫌になって帰りたくなったの?」

「え? 違うよ。外に出てみたら、たまたま光り始めただけで……全然帰りたくないんだけど」

 フルフル、フルフルと思わずたくさん首を振る。

 

 私はエトバール国王の所になんか帰りたくないから、全力で否定した。

 そんな私にロロがゆっくり顔を上げて聞いてきた。

「じゃあなんで一緒に眠らずに、こんな所に来ていたの?」

 彼が眉を下げて泣きそうな顔をした。


 こっそりベットから抜け出したから……

『ロロが気付かない内に私が帰ろうとした』

『〝試練〟を手伝うのが嫌になって離れようとした』って疑っているのかもしれない。

 

 私はロロの前髪を優しく撫でた。

「私は導く者として呼ばれたのに、上手く導けてないから……ヒントとか無いかなって探してたの」

 自分が情けなくなって、疑いの目で見る彼に向けて、弱々しい笑みを浮かべた。

 1つは食料確保が目的だったけれど、もう1つの大きな目的はそれだった。


 小さい体で頑張る、この優しい王子様の手助けがもっとしたかった。


 ロロが痛ましそうに私を見る。

「……リルはたくさん導いてくれてるよ。それに……ごめんね。嘘をついたんだ。あの魔法陣はソウルメイトを呼べる効果があるんだ」

 ロロがそう言いながら私から体を離して、そっぽを向いた。


「…………ソウルメイト!?」

「うん……」

 ロロが顔を背けたまま答えた。

「…………」

 私も顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。


 ーーソウルメイト。

 相手の魂と深い結びつきがある人。

 それは前世から続く、魂が求める相手。


 同性の場合は無二の親友。

 異性の場合は……運命の人!?


 ま、まぁロロは藁をもすがる思いで、誰か助けになる人を呼び出したんだろうし……

 今は変に意識する問題じゃないはず。

 

「そ、そっか。じゃあ力を合わせて頑張ろう! 2人で挑めば何でも出来るよ」

「……うん」

 ロロはまだ頬を赤くしていたけれど、フニャッと笑ってくれた。




 それから私たちは、せっかくだからと夜のフェニックスの様子を見に行った。

 

 昼間にも使った扉から大広間の2階のフロアに入り、端から1階を覗き込む。

「……フェニックスが台座の上で眠ってるね」

 私は見ているだけで暑い光景に顔を歪めた。


 フェニックスがあの轟々と燃え盛る大きな聖なる炎の中で、目を閉じて眠っている。


 眠っている隙に攻撃とかは出来なさそうだ。


 ロロはジッとフェニックスが眠る炎を見つめていた。

「……炎の中で再生……新たな生命を得る。生まれ変わる?」

 何か思いついたのか、ロロがブツブツ言っている。

「どうしたの?」

「……何でもないよ」

 私が聞くと、ロロが首を振って答えた。

 



 ーーーーーー


 フェニックスの観察を終えた私たちは、あの小さな噴水の部屋に帰るために、神殿内の廊下を歩いていた。


 すると私の手のひらの上の明かりが、徐々に弱まっていき……

 光が消え失せてしまった。


「うわぁぁ!! 真っ暗になっちゃったー!!」

 暗闇が大嫌いな私がパニックに陥る。

「リル!? どうしたの?」

 近くでロロの焦った声がして、ガシッと腕を掴まれた。

「え? え? ロロだよね? 今私の腕を掴んだのはロロだよね??」

 私は掴まれた腕をたどって、ロロの顔と思われる部分をペタペタ触った。

「うん。ボクだよ! 大丈夫?」

 ロロが文句も言わずに私を心配してくれた。

 

 腕を掴んだのが私より背の低い人物だと分かると、私はようやくロロに説明した。

「うぅぅ……暗闇が怖くって……光の精霊を駆使しすぎたから疲れちゃったみたいだね……」

 そう言って、そろそろとしゃがみ込み自分の膝に顔をつけた。

 ロロが掴んでくれている右腕は上げたまま。


 精霊が休憩に入ってしまい、もう光を灯すことができない私は途方に暮れた。

 じっと動かなくなった私の頭上からロロの声がする。

「目が慣れると薄っすら見えるけど……」

「…………ごめんね、目を凝らしたくないの。暗闇を見つめたくなくて……」

 私は反対にギュッと目を閉じた。


 目を凝らして、もし近くであの幽霊が見えるかと思うと……

 発狂しそうだった。


 そして暗闇だけじゃなくて、幽霊も怖いだなんて……情けなさすぎてロロに正直に伝えられない。


「ロロは大丈夫?」

「ボクは大丈夫だよ。暗い所の方が、お兄様たちから隠れやすくて好きだから……」

「…………」

 ロロの悲しい生い立ちに思わず押し黙ってしまう。


「ボクが連れてってあげる」

 ロロが私の手を握って力強くグイッと腕を引っ張ってくれた。


「……ありがとう」

 私は何とか立ち上がり、小さな王子様に連れられて行った。

 

 けれど途中で、自由な左腕をガツンと何かにぶつけてしまう。

「痛っ」

「リル、大丈夫?」

「……うん、何も見えてないからぶつけちゃっただけ」

「え? もしかして目をつぶってるの?」

 前から珍しく、ロロの呆れた声が聞こえた。


「……う、うん……」

「リルにとって暗いのがそんなに怖いんだね。ぶつからないように歩くね」

 ロロがクスクス笑う声が聞こえた。

 優しい彼は、私と繋いでいる手にギュッと力を込めてくれる。


 ……今ごろ目をハの字にしているのかもしれない。


 小さな王子に頼り切っているこの状況が、なんだか気恥ずかしくて、私は長いお喋りを始めた。

 

「ずっと、この怖がりを克服しようと頑張ってたんだけどね……」


「私にもお兄様がいて、怖がりな私によく言い聞かせてくれていたなぁ」


「あれ? これロロだよねぇ? ロロいるー?」

 私は不安になって、繋いでる手を少しだけぐいっと引っ張った。

「あはは。いるよー。こんなボクでもリルを守れて嬉しい」

 ロロが楽しそうに体を揺らして笑う。


 私は照れ笑いしながらも続きを喋った。

「……それでね、怯えすぎていると、自分の心が限界を低く作ってしまうんだって。勇気を出してみれば、思ってた限界なんか突破できるよって」

「うんうん」

「だから勇気を出して暗闇でも大丈夫って頑張ってみたんだけど、大人になっても治らなかったんだよね……」


 そこでロロの意外そうな声が響いた。

「え? リルってもう大人なの??」

 目をつぶっているけれど、前を歩くロロが振り返って私を見ているのを感じた。

 

「……最近成人の祝いをしたばかりだけど、立派な大人の女性ですよー」


「そうなんだ……」

 

 賢いロロは、それ以上何も言わなかった。


 

 


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