2人でいれば何でも出来るよ
「リルが傷付くのは絶対嫌だ」
またまたあの可愛らしいロロに、きつく言い切られた。
様子が少しおかしいなと思って彼を注意深く見ると、私をキッと力強い眼差しで見ているロロのその目に、涙が溜まり始めた。
「なのにさっきは何も出来なかった。ごめんね」
そう言って私をジッと見つめたまま、ロロが涙をポロポロこぼす。
そして我慢できなくなったのか、うわーんと大声を上げて泣き始めた。
「だ、大丈夫だよ」
私はあわあわしながらロロに近付き、抱きしめた。
泣き止まない彼のフワフワ頭を優しく撫でる。
「……ボクが弱いから……もっと強かったら良かったのに……」
えぐえぐとしゃっくり上げながらロロが喋る。
「ロロは弱くないよ。良いところも沢山あるよ」
「……そんなの無いもん」
ロロが私を少し拒絶するかのように、突き放して体を離した。
不貞腐れて口を尖らせている彼が、俯いて涙を流す。
「こうやって失敗したと感じたことを、深く反省できるでしょ? 次に活かせばいいんだよ。それに他者を思って心を痛めてくれる。もし王様を目指すならとても大事な心だと思うよ」
私は優しく笑いかける。
ロロが涙で濡れたまつ毛を数回上下させると、私をゆっくりと見た。
「……そんなこと誰も言ってくれなかった」
「じゃあ私が教えてあげる。ロロは今のままでもとっても素敵な王子様だよ」
私が穏やかな気持ちでそう告げると、彼は照れて頬を赤くした。
私はそんなロロを見て、可愛らしいなとクスッと笑った。
「ロロは本を読んだから、フェニックスのことを知ってたんだよね?」
「うん。戦うことより本を読むことが好きなんだけど……お兄様たちにはバカにされるんだ。知識をつけてもボクには無駄だって……弱すぎるから、何も出来ないって……」
ロロの表情が一気に曇る。
どうも彼の暮らす環境は、ロロにとって良いものではなさそうだ。
「そうかなぁ? 賢い方が戦うことも有利になると思うけどなぁ。それにロロは魔法陣の古代語を読み解いて、私をここに呼んでくれたんでしょ? とってもすごいことなんだよ」
おそらく古代語の知識も、本を読んで身につけたのだろう。
この年で古代語を理解しているのはすごい。
私?
私はのほほんと過ごしていたからな〜
古代語は全く出来ない。
ロロが静かに私を見つめ、続きを待っていた。
私もロロをしっかりと見つめ返して言葉を紡ぐ。
「実はね。私、怖い王様と結婚させられそうになっていたの。ロロに呼ばれたから免れたんだよ。助けてくれてありがとう」
「え? そう、なんだ……」
ロロが目を見開いて驚いた。
私は柔らかく笑いながら頷いた。
「ロロが古代語を勉強していたから……〝試練〟をどうにかクリアしたいと考えて行動したから、私を助けることが出来たんだよ」
「…………うん」
ロロが照れながら目を伏せた。
そしてしばらくしてから、顔を上げて真っ直ぐ私を見る。
「ボク〝試練〟をクリアして力を授かりたい理由が出来たよ。強くなって、リルを守れるようになりたい」
ロロはそう言い切ると、目をハの字にさせてニッコリと笑った。
私は思わずロロのほっぺを両手で包み、ムギュムギュした。
「うぅ〜目は落ちないから、大丈夫だよ〜」
照れくさそうにしたロロからの苦情が聞こえた。
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ロロが赤い神殿の〝試練〟を始めて2日目の今日。
結局この日は、あのあと何も出来ずに日が暮れてしまった。
だから、私たちはあの小さな噴水がある部屋で眠ることにした。
私は植物の精霊に祈りを込めて、荒技で牧草を用意した。
そしてそれをたまたま見つけた天蓋で包んで形を整え、簡易的なベットを作る。
石の床でなんて寝れません。
「わぁ。すごいね……フカフカベットだぁ……」
もう眠さの限界なのか、ロロがうつらうつらしながら歓声を上げた。
……なんて不憫なのかしら。
王族だから、多分いつもはもっと豪華なベットで寝ているはず。
なのにこんな何もない所に放り込まれて、こんな粗末なもので喜んでくれるなんて……
「ぐっすり寝て元気になろうね」
私がベットに横たわると、ロロも隣で丸まってくっついた。
もうすでに目は閉じられており、何とか「おやすみ〜」と挨拶してくれた。
「……ロロは明かりがついてても眠れる?」
「…………すぅ……」
ロロからの返事はすでになくて、彼は寝息を立てて眠っていた。
「ごめんね。私は真っ暗が苦手だから……」
私は魔法で灯していた明かりを弱めた。
けれど消すことはせずにそのままにする。
「…………」
そして寝入ったロロを確認してから、ベッドをそっと抜け出した。
ーーーーーー
私は手のひらの上に魔法で光を灯し、神殿の中を散策していた。
……うぅ。
慣れてない所だから怖い。
奥の暗闇が怖い。
でもこんな所まで、あの黒髪の幽霊は出ないだろうから……
…………
何ならフェニックスに鉢合わせした方が怖くない。
フェニックスは明るいし……
そんなことを考えながら歩き回っていると、神殿の外につながる門が見えてきた。
「やった! 外に出れる」
私は思わず声に出して喜んだ。
ロロを置いて散策している目的の一つが、神殿の外に行くことだった。
ここは食べ物が無い。
もしもっと長期戦になった場合、食べ物が無いのはとっても辛い……
精霊の力で、木の実とかなら出せるかもしれないけれど、あんまりお腹は膨れなさそう。
それにあんな子供がお腹を空かせているのは、可哀想すぎる。
私は食べ物を得られる期待をこめて、意気揚々と外につながる門をくぐった。
その途端に、私の体がオレンジ色に光り始める。
この光は……ここに召喚された時の魔法陣の光と一緒!?
戻される?
エトバール国王の元に!?
そんなつもりの無かった私は、焦って叫び声を上げた。
「え? え? 何これー!?」