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たとえ暗闇の中を彷徨っても


 次に意識が戻ると、体がどこかに放り出されて落ちていく感覚がした。

 身の危険を感じてパチッと目を見開くと、落下先に白いフワフワ髪の男の子がいた。


「ぅわぁぁ!」

「きゃぁ!」


 見事にその男の子の上に落ちる。


「あいたたた……ごめんね。大丈夫?」

 私は慌てて体を起こし、下敷きになった男の子を見た。

 男の子はムクっと起き上がると、泣きながら私に抱きついてきた。


「やった! 成功した!! ……1人でとっても怖かったんだ」

 えんえん泣いている男の子に初めはビックリしたけれど、私はゆっくりと彼の背中を撫でた。


 私より小さな子が泣いていると、自分がさっきまで怖くて泣きそうだったことなんて、気にならなくなっていた。


「どうしたの? 何で1人なの?」

 柔らかく抱きしめ返しながら、フワフワの白い髪をそっと撫でた。

 自分が何でこんな所にいるのかも気になったけれど、ひとまず置いといた。


「……あの、あのさ。ボクっ……」

 男の子はしゃっくりあげてしまい、上手く喋れなくなっていた。

「ゆっくりで大丈夫だよ。私はリル。あなたは?」

 男の子を落ち着かせるために、私はニッコリほほ笑んだ。

「……ボクはロロ。この神殿で〝試練〟を受けているんだ」

「〝試練〟?」


 少し落ち着いてきたロロが、こっくりと頷いてから一生懸命説明してくれたーー




 ロロは、とある一族を取りまとめる王様の7番目の息子らしい。

 その一族の王族には変わった風習があり、男の子は8歳になると〝試練〟を受ける。

 それをクリアすると大きな力が与えられ、大人になったと認められるそうだ。

 なかなか厳しい決まりのある一族だ。


 ロロはもうすぐ9歳になるというのに、まだ〝試練〟をクリア出来ていないようで、涙ながらに語ってくれた。


「ボクだけが上手くいかないから……お母様が悲しそうで」

 ロロが抱きついていた私からそっと離れて、目を伏せた。

 綺麗な涙がポロポロこぼれる。


 ロロの父親である王様には、王妃が4人いて、その中でロロの母親は1番若い4番目の王妃だそうだ。

 そして1人息子のロロが〝試練〟になかなかクリア出来ないために、肩身が狭い思いをしているらしい。


「ロロは頑張ってるんだね。その気持ちはお母様に伝わっていると思うよ」

 私は健気なロロに心を打たれて、切なげに笑った。

「……そうかなぁ?」

 素直なロロが、少しだけ表情を明るくさせた。


 白いフワフワの髪に、大きな青い瞳。

 年の割には小さな体に大きな剣を携えて、立派なマントを羽織っている。


 小さな戦う王子様だ。




 こんな子が〝試練〟を受けるって……


「ロロ。〝試練〟ってどんなことをするの?」

 私は聞きながら、今いる空間をキョロキョロ見渡した。


 朱赤で染め上げられた美しい神殿。

 直線的な縁取りの白に、天井付近の壁には植物の蔦模様が描かれており、それも白で彩られていた。

 床には大きな魔法陣が。

 エトバール国王と対面していた部屋の床に浮かび上がったものと同じだ。


 今はもうオレンジ色には光っておらず、その中心に私とロロは座り込んでいる状況だった。


 ロロは、私が辺りを見渡し終わるのを待つと、ゆっくり口を開いた。

「〝試練〟はね、この神殿の奥にいる聖獣を倒すことだと思うよ」

「聖獣!? 倒す??」

 私は思わず素っ頓狂な声を発した。


 こんな子供にハードすぎな試練じゃない!?


 ロロがジワッと涙を浮かべながら続ける。 

「……しかもここは〝赤の神殿〟で、4つの中で1番難しいんだ。誰もクリアした人はいないって聞いてる」

「えぇ? …………」


 ロロの説明からすると、複数神殿があり選べたようだ。


 私は眉をひそめて〝なんでそんな場所を選んだの?〟というような表情を彼に向けてしまった。

 その気持ちを汲み取った賢いロロが答える。

「ボクのクリアが遅すぎるから……一発逆転してこいって、お母様が」

「…………」

 言葉を失った私は、ロロの青い瞳をじっと見つめる他なかった。


 ロロの一族……怖い。

 

 何?

 子供の時から強戦士を目指させるのが普通なの?

 

 黙っている私が怒っていると感じたのか、ロロが悲しげに眉を下がらせた。

 フルフル唇を震わせて、大泣きするのを我慢しているようにも見えた。

「昨日から頑張っているんだけど、どうしても怖くって……だから、元々ここにあったこの魔法陣に書かれた古代語を読み解いて、魔法を発動させてみたんだ」

「……それで私がここに来たんだね。どんな魔法なの?」

 私は優しく笑いながら首をかしげた。


 ロロはさっきからすごく人の顔色を気にしている。

 極力笑ってあげなきゃ。

 

 私は彼がそうなってしまった境遇を考えて、可哀想になり胸を痛めた。


「それは……」

 ロロが言い淀みながら、何故か頬を赤くして喋った。

「…………導いてくれる人を呼び出す魔法だよ」

 そしてセリフの後半に向けて、どんどん声が小さくなっていった。

 白いフワフワ頭のてっぺんを私に向けて、ロロが(うつむ)く。


 導く……

 こんな難しそうな〝試練〟をかぁ……


 突然の大役だ。

 けれどロロのおかげで、エトバール国王から逃れられたから……

 

 ここは頑張るしかないかな。

 何よりもこの小さな優しい王子様を、助けてあげたい。


 


 私がそう決意した時だった。


『ぐぅぅ〜』

 ロロのお腹が可愛らしく鳴った。

 彼が慌てて自分のお腹を押さえて真っ赤になる。


「フフッ。お腹すいたよね? 昨日からここにいるってことは、食べ物はどうしてるの?」

 私はロロに優しく笑いかけた。

「……昨日から食べてないんだ……小さな噴水はあるから、水は飲んでるんだけど……」

 ロロが心底悲しそうに目線を下に向ける。

「えぇ……それは戦うにしても力が入らないわね。その噴水の場所に案内してくれる?」

 そう言いながら私が立ち上がると、ロロもゆっくり立ち上がった。


 ロロは私より頭ひとつ分、背が低い。

 彼は目元にずっと溜めていた涙を手の甲でグイッと拭うと、私を見上げた。


「うん」

 ロロが目を薄めて、少しだけ笑ってくれた。


 


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