~少女と子鬼の口論~
放課後の埃っぽい図書室。そこで出会った不思議な……というよりは若干不気味だといった方が良いかもしれない。そんな双子の子供。
いや、ただの子供じゃない。自身から名乗っている通り、「鬼」らしい。額からの角がそれを証明している。
『そなた、鬼になる気はないか?』
ぴったりと揃う声。少年と、少女。緋色の髪が風もないのに揺れていた。
『どうした。答えぬか』
これまた気持ち悪いくらいにぴったりとハモっている。
答えろ、と言われても困る。
「兄様、この者我等に怯えているのでは?」
少女の方が少年の方に言う。
「人間の子よ、怯える必要などないぞ。我等は害など与えん」
人間の子って。私はこれでも14歳で、この子達はどうみても10歳から12歳くらいにしか見えないのだが。
それなのに上から目線って、一体どういうことだ。
『ほれ、何か答えてみよ』
子供特有の無邪気そうな笑みを浮かべ、相変わらずの上から目線で自称鬼は言った。
「あの、」
やっと私が喋ったのが嬉しいのか、鬼は顔をぱぁっと綻ばせる。
「わたしは人間のままで良い」
一応答えろと言われたから答えたのだ。
この目の前にいる自称鬼どもがたとえどこかの神様だろうが精霊だろうが本当に鬼なのだろうが、そんなことは別にどうだっていい。好きにしてくれ。
けど鬼にならないかと問われても、そんなの私にとって何のメリットにもならないし、それどころかデメリットだろう。
面倒事に首を突っ込むのは更々ごめんだ。ややこしい話は勘弁してくれ。
「ということでとりあえず消えてくれ、鬼」
もうこの話は終わろうじゃないか。鬼よ、他を当たってくれ。オカルト好きな奴は意外にもこの学校多いんだぞ。オカルト同好会なるものもあるくらいだしな。
『鬼に、なってはくれぬのか?』
これまた声をぴったり揃えて言う。ああもう、そのハモり具合は最高だと褒めてやる。だからもう良いだろう。私の前から早く消えてくれ。図書当番という名目の読書おサボりタイムが私を待っているんだ。
『母神様が、悲しむぞ』
誰だよ母神様って。そんな人知りません。いや、人じゃなくて神様?まあどちらにしろ私はその母神様っていうお方を存じ上げぬのさ。
私のママンは口うるさい元銀行員の唯子さんだけで十分なのだよ。
『帰って、母神様に大層怒られるのであろうな。我等は』
そんなの知ったことか。とまでは流石に言わないが、まぁ心中お察ししてやるからとりあえずお帰りください。
『そなた、本当に鬼に――』
ブチっ。頭の中のどこかの配線が切れる音がした。
「しつこい。私は面倒なことが嫌いなの。たとえば私がその君たちと同じ鬼とやらになったとして、そこで私には何のメリットもないだろう?メリットのないことは私にとって面倒でしかないのさ。面倒は嫌いだ。君らが何でそこまで私に対して執着するのかは知らない。いや、知りたくもないんだけど、その母神様とやらには申し訳ないと伝えてくれ。じゃ、あでぃおっす」
少々酷い対応だったかもしれない。が、変な物語に巻き込まれるのはごめんなんだ。このくらい冷たく言ってやらないと、向こうも諦めてはくれないだろう。
『我等がそなたに執着するのにはちゃんとした理由がある』
「理由とか言う前に、人にお願いするときはちゃんと敬語で話せ。私は君らよりも年上だぞ」
『そなた、いくつじゃ』
「14だけど」
『ふん、小童め。我等はこの星が出来た直後に母神様によって生み出されたからな。当然そなたよりも生きている時間の桁が違う。この場合、そなたが敬語を使うべきであろう』
子供の姿でそんな壮大なスケールの話を語られても、説得力の欠片もないのだが。
「今のこの世は外見年齢がものをいうんだよ」
『そんなの屁理屈じゃ。っと、そんなことを言い争いにきたのではない。そなたに鬼になってほしい理由があるのだ』
理由なんかどうだっていい。
もうどうでも良いから、この口うるさい鬼どもを早く消し去りたい。今なら私の全財産1560円でスナイパーを雇ってやってこいつらを殺させてもいい。
っていうか1560円で雇われるスナイパーって、一体どんなんだ。
『そなた、この部屋にある書物の中で「九神失踪伝」というのを読んだことはあるか?』
双子の片方、少女――確か名前は那智と言ったか。那智は部屋の奥の棚にあった一冊の本を私の手元に持ってきた。
一体この本が何だっていうんだ。
はい、申し訳ないっす。若干ギャグに走った自分を悔やんでます。