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カエルの池に毬を落とす

拙作

『悪役王妃になりたくなくて変装したら、ラスボスの妻になれそうです』(N1090IJ)

のスピンオフ作品です

 

 

 

「今日必ず、アリーニン伯爵家の娘と踊りなさい」


 大広間に備え付けられた王族用の控えの間で、華やかに着飾った母はそう私に言い含めた。


「アリーニン伯爵の娘ですか」


 記憶を探るが、会った覚えのない相手だった。伯爵夫妻は覚えている。美しい金髪の伯爵と、黒髪巻き毛の伯爵婦人。息子をふたり連れていて、息子はどちらも黒髪だった。


「ええ。アリーニン家の末の子。三男一女の末娘です。領地外にはほぼ出ない箱入り娘を、今日はどうにか連れ出しましたから」

「それは、私の婚約者として?」

「そうです。彼女は今十二歳と言うことですから、年齢としてもあなたにちょうど良いでしょう。ほかの家に取られないように、くれぐれも注意するのですよ」


 私が会ったアリーニン家の子息たちは、私よりも五つほどは歳上だったと思う。おそらくその下に、弟と妹がいるのだろう。アリーニン伯爵は美しい金髪だが、その上の息子ふたりが黒髪だったのだ。下のふたりが伯爵のような綺麗な金髪とは思えない。

 結婚するなら、金の巻き毛の娘が良かった。


「母上は、その子に会ったことがあるのですか?」

「いいえ。本当に、箱入りにされたお嬢さんのようですからね。ただ、伯爵と婦人に似て、美しい娘と噂ですよ」


 確かに伯爵も婦人も整った顔立ちをしていた。そのふたりの息子も。

 あの血を引いた娘が不細工とは、考えにくいけれど。


 母を見上げる。色白で、豊かな金の巻き毛の母。

 残念ながら母以上に美しい娘には、今まで会ったことがない。



   ё  ё  ё  ё  ё  ё



 王族用の控えの間からは、広間を覗くことが出来る。


「アリーニン家の兄妹が、到着したようです」


 母の言葉に覗き窓へ目をやる。

 広間の入り口、遠目にうかがえたのは、色白で、金の巻き毛が美しい少年と。


「……あれ、ですか?」


 汚ならしく日に焼けた、貧相な短い白髪の、まるで老婆のような女だった。遠目で顔立ちはわからないとは言え、とても美しいとは思えない。

 母もそのみすぼらしい姿には、驚いたようだった。


「エスコート役は確かにアリーニン家の三男ですから、彼女がルーフィ・アリーニナです。すぐ上の兄にそっくりな、美しい娘と聞いていたのですが」


 確かに兄は美しい。これで女であったならすぐにでも求婚していただろうと思うような、完璧な美しさだ。その兄に似た妹だったなら、文句のつけようもない美貌だったことだろう。

 しかし実際は、よくもまあ美しい兄の横に恥ずかしげもなく立てたものだと、呆れるほどに不美人な娘。


「哀れんで同情した評価だったのでは?」


 思わず漏れた一言に、母が、そんなはずはと呟く。


 私はダンスの始まった会場を見渡した。色とりどりに着飾った少女たち、そのなかでもひときわ目を惹く美貌のアリーニン家の三男。そして、その手を取り踊る枯れ枝のような娘。

 母は本気で、私とアレを結婚させようと思っているのだろうか。

 口振りと表情で私が乗り気でないと察したのだろう。母が困惑した顔ながら、告げた。


「外見はともかく、功績は確かです。ルーフィ・アリーニナを、手放す手はありません」

「ほかの人間の功績を、乗っ取ったのではなく?」

「だとしても」


 母はきっぱりと言う。


「ひとを動かした結果だとしても、動かしたのは彼女です。ひとを動かし成果を上げる力こそ、王族に必要なもの。彼女の力は確かです」

「あの娘が上に立って」


 王族や、高位の貴族はべて美しい。ひとを率いるのに、外見がひとつの武器たりえるからだ。


「国民は動きますか?」


 私ならば、あの娘に従おうとは思えない。


「少なくとも」


 母がアリーニン家の娘を見つめて言う。


「アリーニン家の治める二領地は動きました。領地を与えられてからたった三年で、アリーニン家の財政は回復を見せています。あんな、極貧領地を押し付けられたにもかかわらず。その下支えをしたのが彼女だと。彼女がいれば、我が国の貧困層が消し去れるかもしれません」


 貧民の姫、と言うことか。

 なるほど。貧民であればアレより日に焼け、髪も美しくはないだろう。小綺麗な身なりをしているだけで、姫君扱いしてくれるはずだ。


「親しみはあるのかもしれませんね」

「貧しかろうと、我が国の民です。王族として、守る義務があります。それに、最下層が押し上げられればそれだけ、国が豊かになるのですよ」


 曲が終わり、アリーニン家の兄妹が広間の端に向かう。


「さあ、行きますよ。誰より先に、手を取らなくては」


 母が私に命じる。拒否する権利はないようだ。


 重い足を引きずって、私は母に従った。



   ё  ё  ё  ё  ё  ё



 アリーニン家の三男が、妹から離れる。

 三男はすぐさま令嬢たちに追われたが、残った妹に声を掛ける者は、


「な、」


 母が顔色を変える。その目が見つめるのはアリーニン家の娘に近付いた男。

 会場内で頭ひとつ飛び出た長身。長い黒髪。白蝋の肌。真っ赤な目。まるで魔王のような見た目の男だ。


 あれは確か、国賓として訪れているエーデルシュヴァルツの。


 母が慌てた様子で、歩む速度を早める。

 男がアリーニン家の娘に話し掛け、ちらりとこちらを見る。

 アリーニン家の娘もまた、こちらを見た。

 吸い込まれそうに澄んだ、晴れ空の瞳。

 呑まれて息を吸い込んだ、瞬間瞳は逸らされて。


 流れるように娘の手を取った男が、手を引いて娘を連れ去る。

 去り際まるで威嚇するように、赤い瞳が今一度こちらに向けられた。


「なんて、こと」


 母が呆然と呟く。


「まさかエーデルシュヴァルツに目を付けられていたなんて」


 頭痛がするとでも言いたげに、母が扇を広げて顔を隠す。

 目当ての娘を横取りされた。そう言うことなのだろう。

 ならば私は、あの醜い娘との婚約を避けられるのだろうか。


「でも、アリーニン伯爵にはもう話を持ち掛けてある。いくらエーデルシュヴァルツとは言え、強引な手は使えないはず。今日中に、ルーフィ・アリーニナを頷かせてしまえば」


 期待も儚く、私の未来は私不在で決められて行く。

 扇を閉じた母が、私を見下ろした。


「良いですか、レオニート」


 母のなかで、もう私の未来は決まっているのだ。


「ルーフィが戻ったら、必ずダンスに誘いなさい。必ずです。それまでは、側近候補との交流を深めていなさい。ああそうです。アリーニン家の三男、アルノリト・アリーニンもまだ十四歳とは思えないほど優秀と評判ですから、話してみると良いでしょう」


 妹がいないなら、兄から切り崩せと言いたいのだろう。


「わかりました」


 妹の方はともかく、兄は美しかった。交流するのも、悪くはない。

 私が頷けば、母は頷いて私から離れ。


「……はぁ」


 束の間の不自由な自由に、私はひっそりと息を吐いた。

 

 

 

つたないお話をお読み頂きありがとうございます


続きも読んで頂けると嬉しいです

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悪役王妃になりたくなくて変装したら、ラスボスの妻になれそうです』(N1090IJ)から ε=ε=(ノ≧∇≦)ノ来ちゃった♡
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