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記憶と呼ばれた何でも屋  作者: 四葉ちゃば
第0章 無知こそ最大の罪
6/18

File4-0.1.『』

 鬱陶しい日差しに目を覚ます。日に日に痛みを増す身体を無理矢理起こして、ズレた包帯を直す。

朝食を食べて、両親の心配を聞いて、嬲られた鞄と共に学校に行く。


『……ああ、やだやだ。見ているだけで気が滅入っちゃう。』

『せめてもっと可愛げがあればねぇ……ホープさんの家、可哀想。』


わざとらしい曇天に反吐を吐いて。


 質素な村に蔓延した針の目を潜り抜けて学校に到着すると、見慣れた男子生徒等が嫌な笑みを浮かべている。


よおと声を掛けられた少し後には、体の至る所に激痛が走っていた。


『うげ……がっ、はっ……。』


 迫り上がった朝食を何とか飲み込み、地に倒れ伏した僕を見て、ある者はけらけらと(わら)い、ある者は痛罵(つうば)した。


その中で鞄の中からじゃららと音を立てた小袋が、彼等に取られる。

再び取ろうと両手を地面に置いたら、途端背中に大きな重りが乗っかって、顔面から勢い良く叩き付けられた。


『一、二、三……椅子の癖に悪くないな。』


 喧騒(けんそう)が一層激しさを増し、先生までそれに加勢し始める。

__至極無骨な行為。


などと昔は考えていたが、好意の裏は無関心なのだ。

それよりずっと良い。

 まだ御人に、どなた樣に興味を持ってくれているだけで、有難いと思わなければ。



 教室で独り包帯を巻いていると、焼けた肌と赤髪が特徴的な親友が慌てながら僕に駆け寄ってくる。


『レイ……!また殴られたのか?』

『……あ、おはようカイト。……うん、少しね。少しだけ。』

『少しじゃないだろ、貸せ。』


 僕の時代を(さかのぼ)った見窄(みすぼ)らしい制服とは異なり、親友の物は新品で艶が目立ち、美しい。

彼に従い大人しく包帯を巻かれていると、青色の髪を一本に結んだ女の子と、長い紫の髪を優雅に揺らす女の子達が僕等の目の前に現れる。


『……エミリー、と、ミラティア……。』

『私達も手伝うよ、どこが痛いの?』


 そうして彼等の治療を受けていると、あっという間に授業が始まる。


まだ舞える格闘術の評価はそこそこ、しかし魔法は相変わらず零点。満点ではないテストに顔をしかめて(しかめられて)、なあなあと過ごしていると日は橙色に染まっている。

 


 家に帰り、朝よりやつれた母は僕を出迎えてくれる。


『また傷……大丈夫?別に学校に行かなくても良いのよ。』

『うん、大丈夫。……友達もいるし、成績も上がってきたし、学校には行かなきゃ。』


 “学校に行かなくても良い。”は、いつしか母の口癖になっていた。


 あんな場所に毎日自ら進んでいくなんて、自分でも滑稽だと思う。しかし数少ない友達も居るし、ここで行かなくなってしまっては噂話がどう発展するか分かったものじゃない。


 軽く流して母の手伝いをし、仕事から戻った父と一緒に夕飯を食べ、勉強をして眠る。



鬱陶しい日差しに目を覚ます。日に日に痛みを増す身体を無理矢理起こして、ズレた包帯を直す。

朝食を食べて、両親の心配を聞いて、嬲られた鞄と共に学校に行く……。


 その毎日を、繰り返す。


 思えば、この魂を与えられてから誰かに迷惑しか掛けていなかった。

 親友は僕の怪我を治す為にわざわざその時間を使ってくれたし、両親も忙しい中で僕を鍛えてくれた。


 人間から乖離した僕を見て、両親は何と言うだろう。


 何故親友は僕をあんな風にしたのだろう。


怨嗟なんて馬鹿馬鹿しい事は考えない。その思考すら、おこがましい。


 ただ、気になるのだ。

 だから、帰らないと。


『……包帯は痛くないね。よし。』


何故あんな事をしたのか、両親がどう思うか、確かめないと。


『せめて薬の一つでも飲めたら良いのだけど、人間も大変ね。』


 どれだけ吐露したからと言って、彼等は恐れるべき魔物なのだ。もっと言えば、吸血鬼にされた復讐に彼等を殺したところで、きっと誰にも責められない。


『年齢ほとんど同じ!?ならこれからレイ君って呼んでも良いですか?折角だからその敬語も外して……あ、私のは癖なんですけど。』


 僕に振りまく優しさが偽物だとは、誰にだって否定出来ない。もしかしたら明日は死んでこの体が食べられているかもしれないし、何の話も無く猛獣の檻に閉じ込めて喜劇にさせられるかもしれない。


だから、早く離れないと。


『うん、やっぱり子供は笑っているのが一番可愛い__それじゃあレイ君、私のジョーカーを引いてもらおうか。』


この、この。

きっと普通な空間の、常識を捻じ曲げた存在から。

〜*


「クラノスのカード、もう無くなるじゃない。」

「え、あがりですか!?」

「フィーズが引いてくれたら、ね。さあ盟友、この私の手の内にあるたった一枚のカードを取ってもらおうか。」

「ジョーカーを見せながら言わないでくれ、全くどんな手を使ったらそんな事が出来るのやら。」

「それは秘密。」

「……やっぱり、絶っっっ対に一対一でクラノスさんと戦いたくないです……。レイ君もそう思いません?」

「ふふ、うん……そうかも。」


 それが解っているのに、何故、まだここに居たいと思ってしまうのだろう。







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