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記憶と呼ばれた何でも屋  作者: 四葉ちゃば
第0章 無知こそ最大の罪
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File9-3.再会(3)

「助けて下さい!自首だって何だってします、貴方達の事は誰にも話しません!だから助けてください!」

「はあ!?お前馬鹿か!?」

「どうせお縄なら話した方が良いだろ!このままいっても死ぬだけだぞ!」

「だからと言って……!」


 その口論を止めるように、クラノスさんが爪で優しく首を撫でる。


「ひ……ぃっ!?」

「詳しく話を聞かせてもらおうか。」


 互いに目を見合わせ、しばらくの後全員がうんと頷くと、中央の男が口を開いた。


「お、俺達……今日までに出来ないと殺されるんです。」


 話によると、元々一般的に過ごしていた彼等は“ディスカル”という組織から大量のヒール(違法薬物)を購入していたらしい。


 知人の紹介で手を出し、一回始めるともう止められなくなったと言う。金を搾取され、友人を失い、それでも手に入れたかった末に頼まれたのは宝石泥棒。トップの愛人が宝石好きだという理由だけで命じられ、武器の使い方も碌でないまま、遂行出来なければ殺されると脅された。


「気の毒だけど、貴女達も完全に擁護出来ないわね。」

「それは勿論理解しています……でも、でも、助けてほしいんです!何だってします、釈放したら何事に使ってくれたって構いません!みた、見たんです……鉛玉が貫通した、焼き死体を。あんな場所はしらない、香りだっておかしかった!あんな、あんな血の……!」


 その命乞いは、生来知る魔物からはまるで想像も出来ない姿だった。

気が付けば荒いでいた二体も口をつぐみ、あの怪力に抵抗していないのにも関わらずわなわなと震えていた。


「そりゃ……あ、そう、だけど……。」


 見下ろせる彼は濡れていた。


「つまり、依頼って事?」

「..は、はい!依頼です!依頼!」


 これで助けなかったらきっと後悔するのだろう。


「アスター。仕事をするにあたって、もう一つ大切な事を教えよう。」


そうしたら、隣のクラノスさんが声を掛けてきた。


「依頼って言うのはね、誰かが居ないと始まらないんだよ、だから私達は必ず__依頼者主義でなければならない。」


〜✳︎


 そうして案内されたのは、人里離れた所に建てられた煉瓦の家だった。

どんな時間帯でも擬態するには丁度良く、窓が完全にカーテンで隠されている事を除けば普通の民家に見える。


「ここ?」

「……はい。中には組織の奴らが恐らく十体以上、最奥に親はいると思います。単純な構造ですが、少し部屋数が多くって……そ、その中には……。」


 それっきり黙って、仮面の下に手を入れた。


「もう大丈夫、ありがとう。」


 言葉に合わせ、カーミラさんがうなじに手刀を当てて次々と気を失わせる。


「……さらっと凄い事を……。」

「そうですか?ありがとうございます。」


コートを脱がないと。


「あら、貴方達仕事服で来たの?」

「何があるか分からないので。」


 コートの下にはこの間()が選んだ緑色のベストと白いワイシャツが目に映った。茶色のズボンも、同じ色のブーツも、全ても新しいこれこそ__僕の仕事服。


「早く終わらせよう。スペード、クラブ、エース、そして……アスター、行くよ。」


 手馴染みの良い双剣を渡された。



「お邪魔します!」

 清々しいまである正拳突きでエースさんが扉を破壊すると、鉄の香りが強い中には同じ仮面を被った魔物が数体立っていた。


「げ……な、何だお前ら!?」

「酷い事してるってお聞きしたので!ボスを出しやがれ下さい!」


彼女の言葉にそれぞれ武器や爪を構えたりして、一斉に緊張が走る。

先手を切ったのは、何でも屋の方だった。


 

 凄まじい勢いで構成員が投げ飛ばされる!

部屋が一気に寒くなり、飛ばされた彼等は糸で囲まれた。


「薬物依存なんて、堪忍出来ないわね。」


 怪力で殴られた構成員は一発で地面に倒れ、エースさんに踏ん付けられて何かを吐き出す。


「ほんとですよ!危ないんですから!」


 左手の剣で武器を吹き飛ばしたスペードさんは壁に彼らを押さえ付けて、目先に剣先を突き付けた。


「もう溶けていると思うけど。」


そんな事に慣れていないのであろう、怯えて一気に力が抜け、その場にへなへなと力を失って座り込む。


「か、覚悟してください!」


僕も闘わなければ。


「ナイトメア!」


 構成員の全身を紫色の霧で包むと、小さな斬撃の合間に苦しそうな声が聞こえてくる。

……やっぱり効いている!

しかしそれも束の間で、切り傷が付いた彼は霧を払って再び襲い掛かってきた。


「もしかして、この音で逃げちゃったり!?」

「可能性はあるだろう。」


 どうにかこうにか構成員の武器を飛ばすが、同時に右手の剣も宙に舞う。


「……ええと、おらっ!」


自分でも笑ってしまう程不恰好に殴ると、肩にダイヤさんの手が置かれた。


「よしアスター、行こうか。」

「え?」

「トップの所に行くよ。社会経験、社会経験。」



 最奥の部屋には、赤いソファが置かれていた。


「えェ?何か弱そうなんだけど。」

「だから言っただろ?大丈夫だって。」


何だかその豪華な風貌が嫌に似合っていない一つ目の白い女性と、ピエロのようなメイクが施された体格の良い口が裂けた男。


「どうして僕なんですか……!」

「だから言ったでしょ、社会経験だって。」


 男がソファから立ち上がり、僕達に歩み寄った瞬間。

突如、室内に轟く大きな音と共に二体が倒れる。


「ちょっと待てよ。」


 その先から現れたのは、あの白黒写真に写っていた黒いハットの男だった。

桃色のコートと変わらない髪の毛はあの音に似合わないくらいには穏やかな色をしていて、モノクルの先の右目はかっと開いていながら笑っていた。


「そいつは俺達が殺しに来たの、薬を大量に借りて返しもせず逃げやがった。」

「性格悪い。」

「むしろ良いよ、だって殺したらリーダー怒るでしょ?」

「そりゃあ。君がいるって事は__」


 カーテンの先から僅かに差し込む月光、に作られたもっと小さい影。その黒色が伸びて、そこからメイド服の女性が現れた。


「これはこれは、こんなところまでご足労頂いて。やっぱりその能力は強いね、リンセル?」

「お久しぶりです。お言葉ですが、その二体は我々が捕獲しに来ました。」

 

彼女の黒い肌はまさに陰絵のようで、その紺色の目と短い髪がなければきっと見えていない。


「渡したら殺す?」

「殺すかどうかはコイツら次第ですが、答えは想像通りかと。」


 二体は銃口を向けてくる。


「ジャックから話されていますよね?」

「うん。でも、こっちにも大義名分ってやつがあってね。」

「そうですか。」


 その状態が続いて、視界だけが敏感になった頃。


「では、分かっていると思いますが。」


鉛玉が僕の顔を掠めて、嗅覚が意識を取り戻した。


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