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記憶と呼ばれた何でも屋  作者: 四葉ちゃば
第0章 無知こそ最大の罪
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File9-2.再会(2)

「尾行の基本は大きく分けて三つ。一つは距離感、もう一つは態度、そして知識。もっと言えば、“近付きすぎず”、“自然とした態度”で、“相手の癖を把握しておく”こと。例えば……。」


 僕は指南を受けながら、二人の尾行を続けていた。


「フィーズは立ち止まった時に、ちょっと辺りを確認する癖とか。」

「覚えておきます。」


距離は今にも触れそうな程近いし、ずっと笑顔だし、側から見ればただの恋人だ。


「そう言えば……レイはどうなの?私剣のことは詳しくないから、よく分からなくて。一昨日ちらっと見た限りでは、凄く酷いって事はなさそうだけど。」

「えっ。」


 そうして歩いていると、突如として僕の名前が出てきた。


「同意見だ、基礎はある程度固まっている。けど、もっと教え込む必要があるし、体力が足りない。今日はクラノスかカーミラか……まあ、そこの二人に相手してもらってると思うよ。カリファは何か?」

「ええ、まあ。だって本人が志願してるんでしょう?何か考えておくわ。きっと前と同じになるんでしょうけど。」


想像より良い評価を得ていた事に内心安堵しつつ、隅の方で小さな反省が浮かんだ。


「……ごめんなさい、すごい後つけてます。」

「これも訓練の一環だから。それにほら、最近みたいに夜やれば良いんだよ。」


 しばらく歩き、二人は“シンエラニズマ図書館”という名の施設に着いた。図書館は半球型の屋根が特徴的で、場所さえ違えば神殿に思えなくもない。


「ああ……本好きですもんね。」


中は広く、背丈よりも遥かに高い本棚が所狭しと並べられていた。が、僕達の目的は本ではなくあの二人。

吟味する二人の後を付け、読書スペースへと付いた所で、その背後に腰掛ける。


「ターゲットの真正面にいると警戒されるから、こう言う時は後ろか……少なくとも、正面以外のどこかにに座って鏡を置く。そうしたら様子が簡単に見れるから。」 


 鏡越しの二人は、時折会話をしながら別の本を読んでいた。


「最近その作者ばかりね。」

「比喩が好きで、例えばこの部分とか。」

「“結末は海の上にこそ成る”?……難しい。」


ここだけ切り取れば友達に見えなくもない。この時ばかりはアナもカーミラさんの鞄の中で大人しくなり、じっと鏡を見つめている。

 そんな状態がしばらく続いた後、二人は新しい本を取ろうと再び本棚に足を運んだ。


「危ないよ、そんなに無理して取ろうとすると。」

「このくらい平気よ。それに、落ちたら貴方が守ってくれるでしょう?」


 しかし、カリファさんは高い所にある本を取ろうと、随分高い梯子に登っている。カーペットと床の段差で不安定になっているそれは動く度にカタカタと音を鳴らし、今にも崩れてしまいそうだ。

 丁度そんな事を考えた、その時だった。


「あっ……!」


 誰かが脚立に当たり、グラッとバランスを崩してカリファさんが梯子から落ちたのだ!

そのまま本と共に落ちる__のだと思っていたら、ばさっ、と、想像とは違う音が鳴った。


「あー……っ!!」


 それを聞いて、カーミラさんは興奮した声を上げる。思わず、その音と共に写った風景に僕も声を上げそうになった。


「ほら、だから危ないと言ったんだ。」


 なぜなら、そこにお姫様抱っこが見えたから。梯子から落ちたカリファさんを、フィーズさんが抱きかかえている。


「……でも、守ってくれたじゃない。」


 辺りにはいくらか本が散乱していて、周囲の魔物も二人に注目していた。


「これ、これちょっと、ねえ!」

「気持ちは分かるけど、静かに。」


 そうこうしていると、司書さんがやって着て本を拾い始める。


「お怪我はありませんか?」

「……ええ、大丈夫。お騒がせしてしまってごめんなさい。フィーズもありがとう。」


 本拾いを手伝っているカリファさんは、少し手が震えているように見えた。


〜*

 それからは、何の変哲もないデートが続いた。


「美味しい。」

「お口に合うなら良かった。」

「貴方の来たいお店にって言ったのに。生肉はどうなの?最近流行っているみたいだけど。」

「可もなく不可もなく。少しいる?」

「気持ちは嬉しいけど、よく焼いてある方が好きなの。」


レストランで食事をしたり


「そろそろ新しいリボンでも買ったら?」

「何色が良いかな。」

「何だって似合うわよ、案外赤とか似合いそうだけど。」


買い物をしたり、行動や会話自体は友達と言われて納得出来るが、その距離はどうにもただの友達には見えない。


 そうして夜になり、僕等はあるアクセサリー店に来ていた。


「あら……ここ、こんなに閉まるの早かったかしら。」

「営業時間を変えたのかもしれない。残念だ、この間入ったらいい物を見つけたのに。帰ろうか。」

「また今度来ましょう。」


しかし、もう営業は終わってしまったようだ。その証拠に、カーテンは閉まって電気が消え、店内が完全に見えないようになっている。


「残念……このお店ならもっとやってくれると思ったんですけど。」

「やるって何?」


 相変わらず小さな悪態を付くカーミラさんをなだめて、再び歩き出した丁度その時。


「にゃあ。」


アナが絶対に聞こえる鳴き声を上げてしまった!

慌ててカーミラさんが鞄の中に押し込むが、抵抗して大人しくしまわれてくれない。むしろいつもより激しく抵抗している。


「にゃー……!」

「ア、アナ……!ほんとに駄目ですって、見つかりますって……!!」


 暴れながら、その一方に首を向けようとする動きが何だか気になった。何となく先を見てみると、道化師の仮面を付けた魔物が三体。大きな袋を持ち、もう閉まったはずの店の裏口であろう扉を開けている。


「……待って、ください。」


 僕の言葉に彼女の手が止まって、その隙にアナは鞄から抜け出して僕の肩に飛び乗ってきた。


「あっちょっと!……って、あれ……。」

「計画変更、ちょっと行くよ。」


 小さなショーケースをハンマーで破り、中の美しいアクセサリーをがむしゃらに袋の中へと放り投げる。

店と似合わない不躾な態度は、道化師にしては下手な滑稽だった。


「何してるんですか!」


 エースさんの声に驚き、強盗はその動きを止めた。


「あっ……な、何だよ!来るなら魔法を使うぞ、お、お前達なんか一発で殺せる、ハンマーを使ってやっても良い。本気だ、俺達は本気だぞ。」


彼等の手は、僕と同じように震えている。


「お店は傷付けないように。」


指示に合わせて、二人はゆっくりと彼等に近付いていく。


「来るな、来るな……やるぞ、本当にやるぞ!」


何も持っていない手から、火花のような音と共に金色の光が溢れた。残ったアクセサリーはショーケースに遮られてうるんだ輝きを吸収している。


「うわっ!?」


戦いの火蓋が切られたのは、アナが飛び降りて僕の前の一体に噛みついたからだった。



「クソッ!」


 雷鳴はうだるような重さであった。装飾品を傷付けないが為にダイヤは己の上着にわざとそれを当て、燃えたまま紫髪の一体に近付き、押し倒し、その洋服を石炭としていくらか大きい炎を作る。

マザーエンバー。一括して炎を操る能力。名前に少しの私情が込められていることを除けば、炎を操る者の中では優れている。


「折角楽しい思いをしていたのに!」


 勇気が無かった赤髪の一体は、腕を無理に捻じ曲げられた痛みに耐え切れず地面に倒れた。



 バッタバッタと倒れていく二体を見て、僕の目の前に居た男も攻撃を仕掛けてくる。手には小さなナイフ、そして放たれた水の玉。

傷付けないように__顔に張り付かせた苦しさを我慢しながら、汗ばんだ顔で突進してくる男の腕を掴んで、

腹を蹴り、力が込められる前に床へと投げる。


「んぐ……ぐぐぐ……!」


 そのまま男の首元に爪を立てるが、顔全体に被さる水の球は振っても押しても取れそうにない。

 二つの意味で揺らぐ視界に、黒い何かが入る。少しの間水の泡が増えて、顔全体が熱くなったと思った瞬間、外の空気が吸えるようになった。


「危ないあぶない。アスター、そのまま固定しておいて。」

「アス……分かりました。」


残りの二体も、それぞれ床に押さえつけられている。


「さあ、このまま警察に行って貰いますよ!」


 ぐぐ、とカーミラさんが魔物のシャツを引っ張った時、再び裏口が開いた。


「こんな事になっていたなんて。」


そこに立っていたのは予想通り、と言うか当たり前に、先程までデートをしていた二人。


「あらお二人共、どうしてこんなところに?」

「しらばっくれないで。……話は後でちゃんと聞くとして、とりあえずそこの強盗を__」


 その時、クラノスさんが押さえていた一体が声を上げた。


「助けて下さい!自首だって何だってします、貴方達の事は誰にも話しません!だから助けてください!」


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