強盗殺人事件1
よろしければ読んで下さい。多分、13話くらいで終わります。
「警察だ!」
「くそっ、こんなところで捕まってたまるか」
ある夜、帝国の中心都市で警官たちが強盗団を捕まえようとしていた。逃走しようとしている強盗団と警官たちの間で、拳銃の打ち合いが行われている。
秘密警察に属するコーデリア・オルコットも拳銃で応戦していた。彼女は男性の警官と同じ服装をして、ブロンドの髪を後ろで一つに束ねている。
彼女の拳銃の腕前は見事なもので、確実に強盗犯の腕などに銃弾を命中させている。無表情で引き金を引く彼女が何を考えているのか、誰も知らない。
「今日も大活躍でしたね、オルコット警部補」
強盗団の逮捕劇が終わり警視庁に帰る途中、コーデリアの後輩のエリオット・スレイドが語り掛ける。茶色い短髪がトレードマークの好青年だ。
「大した事は無い。……私は少し用があるので、先に帰っていてくれ」
そう言ってコーデリアは、エリオットを残し路地裏に入って行った。確実にエリオットがいなくなったのを確認してから、コーデリアはその場にしゃがみ込んだ。
動悸が治まらないコーデリアは、両手で顔を覆い、ゆっくり呼吸する。しばらくして落ち着くと、ぼそりと呟いた。
「……死ぬかと思った」
桜庭美智留がコーデリア・オルコットに転生したと気付いたのは、コーデリアが九歳の時だった。美智留は英文学を研究する大学院生だったが、病気で亡くなったらしい。
コーデリアは、美智留が生前愛読していた小説『男装の麗人は闇を照らす』の主人公だ。
舞台は1800年代後半のとある帝国。ヨーロッパの国をイメージしているらしい。小説内でコーデリアは、秘密警察の一員として数々の難事件を解決する。秘密警察の人間は他の警官と違い、他国のスパイを探し出したりするし、広域犯罪にも関わる。
「何あれ、何あれ、銃弾怖かった……」
気持ちを落ち着かせる為に独り言を呟いていると、不意に声を掛けられた。
「おい、大丈夫か、お嬢ちゃん」
振り向くと、そこにいたのは、コーデリアと同じ秘密警察の人間であるケヴィン・フォールだった。
ケヴィンは、現在のコーデリアより五歳年上の二十九歳。階級は警部。黒い短髪で、顔立ちは整っている。彼は、子供の頃親と一緒に共和国から移住して来たという、秘密警察の中では異色の経歴の持ち主だ。
「大丈夫です、フォール警部」
コーデリアは凛とした表情を取り戻すと、立ち上がった。
「そうか。まあ、無理はするなよ」
そう言って、ケヴィンはコーデリアの前を歩き始めた。コーデリアは、そんなケヴィンの背中をじっと見つめながら歩いていた。
元々争いごとが苦手で臆病な美智留が、頑張ってコーデリアを演じているのは、ケヴィンに近づきたいからだった。
小説を読んでいた時からケヴィンの大ファンで、二十三歳で秘密警察の所属になり、初めて生身の彼に会った時は、心臓が飛び出るかと思った。
二十歳で警察学校に入学し、二十二歳で卒業するまで辛い日々だったが、頑張った甲斐があったというものだ。
ただ、コーデリアは一つ不安に思っている事があった。
小説の最終章で、とある連続殺人事件が発生し、小説内ではその事件の犯人がケヴィンなのだ。
何とか、その事件が起きないように出来ないものか。コーデリアは、ケヴィンの背中を見つめながら考えた。
◆ ◆ ◆
ある日、警視庁に事件の知らせが入り、コーデリアはケヴィンやその他の警官と共に現場に向かった。秘密警察といえども、普段は他の警官と同じ仕事をしているのだ。
現場は、食品を扱う商会の経営者が暮らす自宅。夫婦二人が殺され、その夫婦の娘一人が助かった。状況から考えて、強盗殺人と思われた。
現場検証をした後、生き残った娘の部屋に行くと、娘は誰とも目を合わせず、ガタガタ震えていた。
「お嬢さん、お名前は?」
コーデリアが聞いても、何も答えない。
「アビーというそうです。両親のご遺体を見てしまったショックが大きいようで……」
近くにいた警官が代わりに答えた。聞くと、アビーはまだ七歳だという。
「可哀そうに……」
コーデリアはアビーをじっと見た後、ふわりとアビーの身体を抱きしめた。
「何も言わなくていい。元気を出せとも言わない。……ただ、泣けるようにはなってくれ」
アビーの目が揺らいだ。次の瞬間、その目からは大粒の涙がぼろぼろ零れていた。
「……う……あ……うああああ……」
しばらくの間、アビーの部屋に泣き声が響いていた。優しい表情でアビーを抱きしめるコーデリアを、ケヴィンはじっと見ていた。
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