慈悲
俺と仲間たちは首都高速をサーキットに見立てて夜な夜な、親に買って貰ったスーパーカーで走り回っている。
俺も仲間たちも金持ちのボンボンだから捕まっても何とかなると、毎晩傍若無人に走り回っていた。
首都高速を夜を徹して暴走し、翌日の朝早く俺たちはスーパーカーを連ねて帰宅の途につく。
トンネルの真ん中辺で先頭を走っていた仲間の車が運転操作をドジったのか居眠りしたのか、追い越した大型トラックに接触したあとスピンして壁に激突する。。
壁に激突した仲間の車に法定速度を100キロ以上上回る速度で走っていた仲間や俺の車も、フルブレーキしても止まりきれず次々と激突。
俺の車が前を走っていた仲間の車に激突した時、あ! 此れは死んだわって思いが頭を掠めた。
実際死んだんだろうな。
連なって走っていた俺たち全員が、黒いフードつきの修道服を着て大きな鎌を担いだ死神に、この世の物とは思えない大きな建物の前に連れて来られたんだ。
建物の中から鎌の代わりに分厚い書類の束を持った死神と同じ服装の男が出て来て、書類を見ながら仲間たちを建物の中に誘う。
俺の番になったら、俺たちを此処に連れて来た死神と書類の束を持った男が押し問答を始める。
「オイ、こいつは死んでない、寿命が尽きるのはまだ先だ」
「そうだが、どうせ死ぬんだから良いじゃないか」
「お前なー」
書類の束を持った男が俺に聞いて来た。
「お前の寿命はまだ少し残っているのだが、このまま死ぬか? それとも現世に戻るか? どうする?」
俺は当然戻る事を選択。
「まだ寿命が残っているのなら戻せー!」
そう怒鳴ったら、俺は意識を取り戻した。
逆さになった車の中で運転席に閉じ込められている。
団子状態でペッチャンコになった仲間たちの車は燃えていて、火は俺の車から漏れたガソリンに引火して俺の車も運転席に俺を閉じ込めたまま燃え上がった。
事故にあってから半年、俺はまだ生きている、否、生かされている。
全身大火傷で両腕も両足も付け根から切断され、右目以外は溶けて顔はのっぺらぼうに近い状態。
右目もまぶたは焼けて眼球が剥き出しになっている。
半年の間に数十回、移植出来る皮膚が残って無いため人口皮膚を移植する手術を受けたが、回復の兆しは見え無い。
四六時中全身を激痛が襲い、まともに呼吸も出来ないため苦しい。
考えている事は早く楽になりたい、楽になれないのなら死なせてくれって事だけ。
今思えば事故があったとき寿命がまだ残っているのに死神にあの世に連れて行かれたのは、あの死神の慈悲だったのかも知れないな。