あなたはいつも、とても疲れたときに回復させてくれた。
……はぁ、今日も疲れた。
俺は高校の門から出る。
今日の学校は嫌だったな。
先生が理不尽にキレてきたし、先輩はそれに歯向かって、火に油を注ぐし、後輩は俺が色々教えても右から左だし……去年の方が楽しかったな。
当時の3年の先輩が、当時の2年の先輩を注意してくれたし、あの生意気な後輩たちも居なかったからな。
今日は、家に帰っても、仲の悪い姉貴が居るしな。
どっかで、時間潰そうかな?
「ピコーン!」
ん? メールだ。
「宗馬、元気? 野球のチケット1枚余ってるんだけど、今から一緒に観に行かない? スミ姉1人じゃ寂しくて」
俺の人生の先輩で、良き相談相手の香澄さん。通称:スミ姉からのメールだった。
ちょうど良いときに野球観戦のお誘いだ! 行くに決まってんだろ。
「ありがとう、もちろん行くよ」
俺は喜んで返信した。
スミ姉にだけは全てを曝け出せる。
高校の友達には重い話がしづらいし、先生は忙しいし、実の姉は俺に攻撃的だし、スミ姉の方がお姉ちゃんみたいだ。
スミ姉は、少し前までバイトが一緒だった人。
バイトが一緒だった時は、大学生だったけど、今は卒業して、保育士をしている。
俺は特にスミ姉にお世話になったから、スミ姉がバイトを辞めた後も仲良くしている。
俺は電車に乗り、野球場の最寄駅で降りた。
改札でスミ姉を待っていると、
「お待たせ!」
あの元気な声がした。
スミ姉だ。
「相変わらず元気だね(笑)」
「そっちは、何か疲れてる?」
「ちょっと、学校で色々あって……」
「わたしで良ければ聞くよ。まだ、試合まで時間あるし」
「実は……」
俺は学校での出来事を話した。
「えっ、その先生、そんなことでキレたの? しかも、先輩も火に油注いだだけじゃん。気にしないでいいよ、宗馬」
「ありがとう、スミ姉」
「てかあんた、いつになったら彼女作るのよ(笑)」
「えっ? ……好きな人居ないし。……ってかそっちこそ、いい人居ないの? 職場の人とか」
「えっ? ほとんど女の人だし、忙しいから、恋愛なんてしてる暇ないのよ」
スミ姉は俺と会う度に、恋愛のことを聞いてくる。
……興味ねぇし。
球場に着き、席に座った。
「すみません、ビールください!」
「750円です!」
スミ姉は着いてすぐに、売り子さんからビールを買った。
「ちょっとスミ姉、もうビール!?」
「良いじゃん! 今日は、飲みたい日なの。宗馬も大人になれば分かるよ」
「保育園の子どもたちが今のスミ姉を見たら、確実に引くな」
「大丈夫、大丈夫! ちゃんとメリハリ付けてるから」
「スミ姉が酔い潰れても、俺は運べないからね」
俺はスミ姉が心配で仕方なかった。
「宗馬、これで球弁買ってきな」
スミ姉は1000円札を出してきた。
「……いいよ、それぐらいあるし」
「気にしないで、今日突然誘ったお詫び」
「……じゃあ」
俺はスミ姉から1000円札を受け取り、球弁を買いに行った。
席に戻ると、試合が始まっていた。
俺とスミ姉は、贔屓球団を一生懸命応援した。
スミ姉は、その後も2杯、計3杯ビールを飲んだ。
……やめとけって言ったのに。
試合が終わった。先発投手の見事な完投完封勝利だった。
帰り道、
「今日はありがとね。突然誘ったのに来てくれて」
「全然、大丈夫。……でも、スミ姉ちょっと飲みすぎだよ(笑)」
「いいじゃん。……でさ、宗馬に1つ報告があるの」
「何?」
「さっき、恋愛してる暇ないって言ったでしょ? でも、実はもう成功したんだよね(笑)」
「……はっ!?」
俺にはスミ姉の言ってることが分からなかった。
すると、
「わたし、この度、結婚することになりました!」
俺は耳を疑った。
「マジで!?」
「うん!」
「相手は?」
「まぁ、合コンみたいなので知り合った人」
「そうなんだ! おめでとう、……お幸せに!」
「……ありがとう!」
俺は自分のことのように嬉しかった。
そんなような話をしていると、すっかり、学校であった嫌なことはもう気にしていなかった。
読んでいただきありがとうございます。
あなたにも、素敵な出会いがありますように。