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二次創作と言うほどでもないながら、ベースとなる元ネタあり。最後に明かします。

途中で察する人もいるかも。

 お父様が亡くなった。とうとう私達を置いて逝ってしまった。


 私の生まれたレイトン侯爵家は、爵位は高くても国でも中堅とも言えないほどの弱小貴族。

 おじいさま、おばあさまは私が生まれる前に他界していて、お父様には兄弟はいない。お母様は五年前に病で亡くなり、お父様とお兄様と私、三人だけの家族だった。

 一年前にお父様が病に伏せるようになってから、周りの方々の我が家への関心はますます低くなっていき、次第に付き合いもなくなっていった。

 領地は小さく決して豊かではなく、何とか借金はない程度。お父様の病気がわかってからお兄様は仕事を引き継いでいたけれどまだまだ不慣れで、お父様の体が動くうちはいろいろ働きかけてくれていたものの、半年ほどするとほとんど寝たきりになってしまった。お兄様は執事のニコラスと共に領地を守ろうと頑張ってらっしゃるけれど、いろいろと風当たりは強いようだった。

 私はまだ学生だから、卒業するまでは学業に専念するように、と言われ、お父様の看病も侍女が行い、私は学校から帰ってから少しお話相手をしたり、食事の介助をするくらいだった。

 お兄様は、私を学校に行かせることくらい何てことはない、と言ってくださるけれど、本当は学校なんてすぐにでもやめて、お兄様のお手伝いをしたかった。

「大丈夫。焦らず、誠実にやっていけば、なんとかなるものだ」

 いつもそう言って励ましてくださるお父様の大きな手の厚みが少しづつ削られていき、それでも最後は気丈に笑顔を残し、天へと召されていった。



 そんな我が家に、突然お父様の妻を名乗る方が現れたのは、お父様の埋葬を終えた日だった。

 喪服に身を包んだその女性は、葬儀に間に合わなかったことをとても残念そうにして、お兄様に弔意を述べた後、

「これからここでお世話になるわね」

と言って、婚姻の証書を見せた。

 シェリル・レイトン。その女性には既にレイトンの家名がつけられていた。

 お父様が亡くなる一ヶ月前の日付で受理されたそれには、確かにお父様のサインがあった。

 私もお兄様も、お父様にそんな方がいたなんて全く知らなかった。そもそもお父様はもう半年も寝込んでいて、新たな出会いなどある訳もないのに。こんな証書は偽造に違いない。

 だけど、その証書に不備はなく、証書に使われている筆跡も私達の知るお父様のものだった。

 この人はこの家を乗っ取りに来たのだと思った。


 新しいお継母(かあ)様は本邸には住まず、家の北側にある別館を使う、と言った。

 そして、次の日には別館に十二台の馬車で荷物が運び込まれ、十人以上の使用人がついた。我が侯爵家とは別に、お継母様専属の執事までついていた。

 豪華ではないけれど、造りの良い馬車が一台置かれ、馬小屋には我が家の馬と並んで毛並みのいい馬が五頭飼われるようになった。馬丁は充分過ぎるほどの飼育の予算を渡され、小屋を直し、道具を新調できて喜んでいた。


 食事を同席するのは朝食だけ。その日の予定を聞くと、他には大した話をすることもなく、食べ終わるとまた別館に戻る。

 気がつくと、厨房の料理人も二人増えていた。

 食材は少し良くなったけれど、贅沢三昧と言うほどでもない。

 服もたくさん持っているようだけれど、どれも持参したもの。今のところ、我が家のお金を使い潰そうとするような様子はなかった。


 三日後、お兄様の執事とお継母様の執事が交代になった。

 いきなりのことにお兄様も慌てていたけれど、

「少しの間、あなたの執事を借りるだけよ。それとも何? 執事が変わったら仕事ができないと?」

と有無を言わせなかった。

 兄の執事のニコラスも少し戸惑っていたけれど、お兄様がいいのなら、と了承した。

 お継母様の執事スティーヴンも優秀な人で、我が家のことを学びながら的確に動き、お兄様への提案も躊躇なく、それでいて押しつける様子もなかった。お兄様もすぐに馴染み、特に不自由はしていないようだった。


 お継母様はほとんど別館にこもり、時々見知らぬ馬車がやって来ては出て行った。

 時に商人も出入りして、何か買い込んでいることもあるようだった。

 ご出身はどこなのか、どちらの家の方なのか、お継母様の事情はよくわからないまま。

 身のこなしも優雅で、いいお茶をたしなみ、珍しいお菓子を手に入れると時々私達のおやつにふるまわれることもあった。背はすらりと高く、少し冷たげではあるけれど美人ではある。

 父との出会いについても興味はあったけれど、あの朝食の場で聞けるような雰囲気でもなく、いつも見定めるような冷たい視線につい俯いてしまい、ほとんど会話は成り立たなかった。


 突然現れた謎の継母の話は噂高い貴族の学校ではあっという間に広まり、継母に乗っ取られた侯爵家、病で伏せながら若い女と関係を持っていた前侯爵の作り話をみんな面白おかしく語っていた。

 お父様はそんな人ではないのに。

 聞いていて辛かったけれど反論することもできず、黙って噂が消えるのを待つしかなかった。


 お継母様がうちに来て一週間後、突然お継母様が私の通う学校に現れた。

 廊下を通りながら私の教室をちろりと横目で眺め、そのまま学長室の方へと案内されていた。

 二時間目には学長自らお継母様を引き連れて校内を案内し、私の教室も五分ほど見学した後、帰っていった。

「今の人、見た?」

「夜会でもお見かけしない方だけど…」

「すてきなドレスね。エルドベーレの最新作じゃない?」

「何でも多額の寄付をしたらしいわよ」

 何故お継母様が学校に寄付を? 我が家にはそんな余裕なんてないのに、見栄を張ってそんなことを…? 懸命にやりくりをしているお兄様を思うと、心苦しくなった。

 お継母様が学校を訪れた後、我が家に関する噂をする人はピタリといなくなった。

 お金の力で、ねじ伏せたのかしら。

 学校では特に私に対する対応が変わることはなく、私が娘だと知らせていないのかもしれない。ほっとした反面、お継母様に娘だと認められていないようで、少し寂しい気持ちになった。


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