1st offense: Never move ACT.1
愛する者が殺された神様。
死を嫌い、悪を嫌った神様は――――
『地』と『力』と『法』と、『拘束具』を1人の王様に与えた。
◆
雨が静かに降る路地。
腐臭を漂わせるゴミ袋に囲まれて、彼女は空を見ていた。
彼女の額には、縦に三本、横に一本の黒い線が示されている。
彼女は、神に見捨てられた 路地子の1人。
生まれた時に、 出来損ないの横線が引かれ、生まれた時から世間に殺された子供達が路地裏に迷い込む。
彼らは料理店の裏口に隠れこんでは、使われなかった食材を詰め込んだゴミ袋を捨てられるのを待ちどおしにしていているのだ。
ゴミ袋が投げ込まれた瞬間、子供達はそれを切り裂き、食糧に喰らい付く。
衣服が汚れては、水溜りで洗い流し、雨が降れば、喉を潤し、ペットボトルに溜め込んで重宝させる。
そんな薄汚れた 貧民区には、余所者が来るのは滅多に無い―――。
しかし、空色の濁ったそんな日に、腐敗した布に身を包んだ青年が現れた。
「今晩は、お譲ちゃん」
「見ない顔だね…… 貧民区の人じゃ…無いでしょ…?」
虚ろ気な眼を青年に向けて、か細い声で呟いた。
「まぁ、旅人――かな」
「旅人さんはどんなお仕事してるの? 私のおとうさんは、かがくしゃって言ってた」
「僕は……聖職者では無い事は確かだよ」
「せい……しょくしゃ………?」
「神様に愛されている人たちの事だよ」
少女は頭を傾げ、必死に頭の中を整理する。
「じゃぁ、おとうさん。 せーしょくしゃだ」
「へぇ……じゃぁ、何でここに居るの?」
「袋にね、入れられてね、ココに居なさいってね、言われたの」
青年は、自分の状況が完全に理解していない彼女の事を見て、悲しそうな眼をした。
「それはね、神様だ悪いんだよ」
「かみさま?」
青年が彼女にそう告げた。
「嫌じゃないかい? おとうさんやおかあさんに会えないの」
「嫌だよ、でも待ってたら……きっと――」
「おとうさんは来ないよ。 おとうさんはね、君が嫌いだから」
「……何で?」
「それはね、神様は君が嫌いだから、おとうさんも嫌いになったんだよ」
「――そんなの嘘だ!!」
「 事実さ。 だけど、一つだけおとうさんに愛される方法があるんだ」
「何!?」
彼女の虚ろ気な眼に、希望の光が差し込んだ。
「――神様に、 悪戯するんだ!!」
青年は、笑顔で少女に手を差し伸べた。
少女は、「うん」と言って、その手を取った。