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第24話 打蹴鞠

 長安の都大路を派手に着飾った男達がみっしりと埋めている。その中に一人だけ素朴な服装をした書生風の若い男がきょろきょろと周囲を見回している。書生はホカホカの湯気を立てている出店を見つけると、饅頭を一つ注文した。店の中年女性が饅頭を包んでいるとき、書生はこの通りの状況について尋ねた。


「おねえさん、これは何の騒ぎだい?」


「婿選びの打蹴鞠のお祭りよ。街の真ん中の高楼に大臣や長官のお嬢様が集まって、毬を投げるのさ。それが当たった男は婿に選ばれるの」


「それでこんなに男ばっかり……一生の大事をそんなお祭りで決めていいのかな」


「あたしがウチの宿六と長いこと暮らして気づいた事にゃあ、結婚なんて所詮は運よ。それに、大臣のところのお嬢様といっても、三女や四女だからね。それよりも……」


饅頭屋の女性はまじまじと書生の顔を見た。


「あんた、色男イケメンだねぇ!せっかくだから、あんたも参加していけば?あたしがお嬢様だったらあんたによーく狙って投げつけるよ」


書生ははにかむと饅頭を持って通りに戻った。饅頭屋の言うことは聞かずに宿に向かおうとしたのだが、男達の波にもまれていつしか祭りの中心地へと誘われていった。

楼台の上では、毬を持ち華やかに着飾った少女達がかしましくお喋りしている。

その中に一人だけ、浮かない顔の少女がいた。その少女は

殷丞相いんじょうしょうの末の娘で、温嬌おんきょうといった。温嬌が浮かない顔をする理由は、一つはこのお祭りの不誠実なところだ。どんな男にでも機会があるように見せかけて、毬の当たるようなところに並んでいるのは、その中のどこに嫁いでも問題のないような良家の若者ばかりなのだ。理由の二つ目は、温嬌はまだ結婚したくないということだった。眼下に集まるギラギラした男達の目が、余計にその気持ちを加速させた。

しかし、その中に一人だけ、涼し気な顔の書生風の若者がいた。女性と見まごうような薄い唇、白い肌。細く形のいい眉に、栗色の目。若者がはにかむと、周囲の男達はいっぺんにただの背景と化した。

書生のほうでも高楼の中にただ一人だけ、翡翠の耳飾りの少女が浮き上がるように見えていた。桃色の頬に桜の唇、美しく結い上げた艷やかな髪、長い睫毛の下には潤んだ瞳があった。

温嬌はぽーっとしたまま徐ろに毬を投げた。一陣の風が吹き、毬はかなり離れたところにいたはずの、その書生の頭に当たって落ちた。


「そこの幸運な殿方!壇上にお上がりください」


司会の男が大声を張り上げると、周囲の人々がぶうぶう文句を言いながら書生を高楼のもとへと押していった。


「殿方、お所お名前をどうぞ」


「海州から来ました陳光蕊ちんこうずいと言います。しかし……こんな急な話、私は科挙を受けに来ただけで……その」


その時、書生もとい陳光蕊は、壇上の温嬌と目があった。

温嬌は目を一層潤ませて言った。


「いけませんか」


陳光蕊はその瞳に吸い込まれるような心地がした。ひとりでに口が動いていた。


「いえ、喜んで」


ワッと歓声が挙がった。陳光蕊も温嬌も、夢の中に溶け込んでしまったような、不思議な心持ちの中にあった。

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