プロローグ
薄暗い洞窟のような場所、四体の騎士の像が見守る中で二つの死体が倒れていた。どちらもコートのようなものを着ていて、色はそれぞれ深緑と青だ。
背中には切り裂かれた痕が痛々しく残され、あふれ出した血が赤いシミを残している。
「ど、どうしてお前が……気がおかしくなったのか⁉」
オレンジのコートを着た男が怯えながら後ずさる。その手には剣が握られていた。
『いや、私は至極まともだとも』
白いコートの人影が血まみれの剣を手にして、ゆっくりと男に近づく。顔はフードとマスクに覆われ、その声は複数の囁き声のようにかすれていた。
それから騎士の像の鎧、その隙間から黒い液体のようなものが次々と吐き出され、白いコートを真っ黒に染めた。
「教団を裏切ろうというのか!」
『彼らは何もしてはくれない。私の望みを叶えるには、こうするしかないんだよ』
液体がマスクを覆い、ひし形を形作る。黒曜石のようなマスクが虹色に分光された光を反射し、男の顔を映し出す。
「ならここで、お前を倒す!」
『できるかな?』
男が叫び、剣を振り上げる。黒い人影は手に持った剣すら動かさず、じっとその場で立っていた。
そしてその刃が黒いコートを切断しようとした瞬間、男の腹部を何かが突き上げた。
「何ッ⁉」
人影の背中から伸びた三本のツタの、その先についている蕾が男の腹部を押し上げる。そしてその先端が輝いた瞬間、三筋の光が男の身体を三つに切り裂いていた。
輪切りにされた男がどしゃりと地面に落ち、洞窟を静寂が支配した。
四体の騎士が静かに死体を見下ろし、天井から差し込んだ光が深緑色となって降り注ぐ。
『さぁ、全てをここから始めよう。私の願いのために』