お題「靴下、太陽、ツナ缶」
目が覚めたら見知らぬ部屋に閉じ込められていた。
扉と窓が一つずつある八畳ほどの空間に、固定された机と椅子、クローゼットとベッドだけの、質素というのもおこがましい無機質な部屋。
当然ながらこんな部屋に入った覚えは無いし、そもそも記憶はコンビニからの帰り道の途中で途切れている。
俺は、あぁ、またか、という気持ちとともに、部屋内を調べ始めた。
扉には当然鍵がかかっており、体当たり程度で破れるような強度はしていない。
嵌め込み式の窓は強化ガラスなのか非常に頑丈で、高めの位置に設置されてる事もあって殴る蹴るで割るのは難しそうだ。
机や椅子なども、しっかりと壁や床に固定されており、持ち上げて投げたり武器にしたりは難しい。
「……地味にというか、着実にというか、学習して対策取って来てるなぁ……」
過去に行使した数々の力技とその状況を思い出してげんなりとした俺は、はぁと一つ溜め息をついて、「さぁまずは最初のヒントだ」と言わんばかりに机の上に堂々と置かれている本を手に取った。
厚手の装丁が施された手帳サイズのノートで、パラパラと捲ると何かしら暗号じみた文字列やら絵やら模様やらが描かれている。
謎解きに真面目に付き合う気はサラサラ無かったためそれらをまるっと無視して捲り続けていると、出すべき情報を出し終えたからかしばらく空白のページが続き、かと思ったら突然に何やら細かい文字でビッシリと埋め尽くされた黒いページが現れ出した。
一瞬よくわからず、思わず目を凝らして良く見てみると、
【陽太くん陽太陽太ちゃん陽太陽太君陽太君陽太陽太様陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太君陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太様陽太陽太陽太様陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太君陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太さん陽太陽太陽太陽太君陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太くん陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太陽太……】
パタン
ふむ。
俺は何も見なかった。
「……地味にというか、着実にというか、闇が深くなってきてるよなぁ……」
過去にあったメッセージの数々と、それをしたためた犯人を思い起こしてさらにげんなりとした俺は、はぁぁぁぁあと深く深く溜め息をつき、思考を切り替える。
そして数秒考えたのち、ベッドに腰掛け靴下を脱ぎ、ジャンパーのポケットに入っていた猫用のツナ缶を中に押し込み即席のブラックジャックを作ると、それで窓ガラスを破り無事脱出したのであった。