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最後の配信

「デイライブッスね」

「デイライブ?」

「はい。映像や音声を配信出来るアプリですよ。使い方は様々で、雑談を垂れ流したり、映像を配信したり。モードによっては他の人とコラボっていう機能で一緒に喋ったりもできます」

「それの何が楽しいんだ?」

「いかにもおっさんって感じの感想ですね」

「分からんもんは分からん」

「まあいいッス。で、この真下もデイライブユーザーなんですよ。彼はオカルト好きだったみたいですね。心霊絡みの内容の配信が多くて、メインが心スポ凸っていう心霊スポットに突撃するって動画配信が人気だったみたいです。人気っていってもほどほどにですけど」

「罰当たりな野郎だな」

「でもそういうのがウケるんですよ。で、とんでもない事に真下が死ぬ瞬間の配信が残ってるそうなんですよ。正確には面白がってその映像配信をまた別に録画している輩がいたようで」

「趣味が悪いな」

「まあ、ほぼ事故って断定されてますけど、かなり重要な映像ではあるんで確認は必須かと」

「いいから流せ」

「へーい」


 こいつの口の利き方には慣れたが、さすがに殴ってでも矯正させるべきだろうか。そんな事を思いながらパソコンに流れる画像を睨みつける。

 動画は途中からのようだったが、そこには運転しながら喋る生前の真下の姿が映し出されていた。免許証でも確認済みだが、案外イケメンだ。


「××の森。だから群馬だったのか」

「有名なのか?」

「心霊スポットにもランクってのがあって、ここはその中でもトップクラスみたいですね。行けば死ぬと言われているぐらいには」


 森の悪霊に殺された。そんな結果を書くわけにはいかないが、映像から伝わる得も言われぬ気味の悪さは尋常なものではなかった。事実、この後にこの男は死ぬことになる。それが分かっているだけになおさら気分が悪い。


『しかし、近づけば近づくほどにヤバいな。空気が違うぞこれ』


 本心で言っているのか演出の為の煽りで言っているのか。おそらく後者だろう。


『生きて帰れることを祈っててほしいよ。マジで洒落になんねえかもここ』


 おそらくいつもこんな感じで配信しているのだろう。呆れつつも画面を眺めていると、それは不意に訪れた。


『しかし、ねむ……、いい、いけ、よ、い、いい、いいいい、イケヨ、イケヨ、あああいけ』


「え、ちょっと……何これ?」


 八木が思わず声を漏らした。

 今まで普通に喋っていた真下の呂律が崩れ、全くキーの違う女性のような声で訳の分からない言葉を口にし出したのだ。

 このあたりでコメント欄という視聴者もざわつき始めていた。


『いけ、いけいけいけえええいけえええイケヨ。ねえ、け。お、おい勝手にはいり、りはいあおはいはい、はいはい、入りやが、ってがてて。何だ、お前お前おまえまえっめええ』


 そう思っていると声が今度は女性からドスの聞いた柄の悪い男性の声に変わった。


「先輩、何ですかこれ。演技、ですか?」


 コメントにも八木と同じ言葉が散見された。だが、演技にしてもここまでの声音を変える事など出来るのだろうか。まだひょっとすればそういう事は可能なのかもしれない。

 だが。


「……顔まで変わってる……そんな事、出来、ます?」


 映し出されているのは車内。人間は運転席に座る真下のみ。しかしその真下の声、顔がぐにぐにと変化し、男性から女性と様々な人間に変わりながら何かを訴え続けていた。真下を通じて深い憎しみや恨みに満ちた何者かが代弁しているかのように。


『何しに来たなにしきたにきたたた。じゃまじゃまあやままままま邪魔するなああああるっるるあ』

『ひっしししっしししししししひいいいぎぎぎぎいいいいしぎぎぎい』

『いっしょしっしょしっしょしょしょしょしょしょしっしょっしっしょっしいいっしょ』


 解読すら出来ない叫び。その叫びの声は幾重にも重なっていく。一人、二人、五人、十人。


『しねいしねいしねいしねいにえしねええええええええええええええいねええせえしねせええ!!』


 もはや街の喧騒にも匹敵するほどの絶叫が重なった次の瞬間、車が大きく揺れた。

 一瞬驚いたような表情の真下の顔に戻った。


 ――落ちていく。


 そして、映像は終わった。

 伊藤も八木も無言だった。


「……嘘でしょ」


 今の技術ならこの程度の嘘はつくれる。

 しかし、嘘なら死ぬ事はない。そこまでする必要はない。


「……先輩……あの時言いかけた事ってなんだったんですか」

「あの時?」

「教えてくれるって言いましたよね。気のせいだと思えって言った事」


 死体を見た時に感じたあの嫌な感覚。

 決して刑事としては語ってはならぬ言葉。


「……分かった。だがこれは、刑事じゃなく、俺という人間がただ口にした戯言だと思って聞け」

「……はい」

「俺の家系は、昔から男だけ何故か霊が見えたり感じたりするんだよ。どうやら先祖がそういった仕事をしていたらしい。そのおかげか、俺にも少しばかりそういった力がある」

「霊感、みたいなものですか?」

「真下の死体を見た瞬間、何十体もの霊が真下を貪っているイメージが見えた。だから見た瞬間にこれは事故だと確信した。この現世で幽霊に殺されたとしても事件には出来ないからな」

「こんな事が……」

「こいつがやった事は、向こうの世界への冒涜だ。裁きは向こうでやってくれたってわけだ」


 八木の顔は真っ青だった。

 伊藤は八木の肩を小突いた。


「調べは終わりだ。これは、ただの事故だ」

「……はい」


 今まで行った場所でかき集めた死人達の念。真下の命はそれに狩られた。

 

 ――お前もこれで一緒だな。


 今頃きっとお前の魂も、そいつらに縛り付けられている事だろう。


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