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新たなる問題 5

 はあ、子供達に会いたい。タミちゃんにも、殴られないなら会いたい。

ギードは魔法の塔の町に滞在している。すでに5日が過ぎた。

途中で森の様子を見に行ったりしたが、子供達には会いに行っていない。

離れられなくなりそうだからだ。

精霊の強化に魔法の塔を訪れるエルフ達と話をしながら、ただ連絡を待っている。

おそらく第二王子あたりに情報を流せば、すぐにでも許可されたかも知れない。

しかしまだ不確かな、王子にとってぬか喜びに終るような情報を渡す訳にはいかない。

そう思っていたのに。

「お久しぶりです。ギード様」

来ちゃったよ、ブライン王子とネイミが。

きっと苦虫を噛み潰したような顔になっていたのだろう。二人が引いている。

「お久しぶりです。王子殿下、ネイミ様」

ギードはなるべく顔を見ないようにして挨拶する。

「まあ、そんな顔するな」

「はぁ」

二人の護衛でイヴォンが付いて来ていた。

「しかしあの子供達はかわいいな!」

シャルネ様の所に預けてあるギードの妻子に会って来たらしい。

悔しい、会いたい、泣きそうになる。

「本当に天使のようでした」

うっとりとした顔をする天然馬鹿王子とその恋人の軽薄エルフ。

考えが乱暴になるのは許して欲しい。口に出してないだけマシだろう。

「しかし、抱くどころか、触らせても貰えませんでした」

ちょっと残念そうな二人。

ギードはタミリアに「よくやった!」と心の中で賞賛していた。



「それで、何か御用でしょうか?」

わざと突き放すような話し方をする。

ふたりは顔を見合わせ、そして恐る恐るギードに話し始める。

「私達で何か力になれるならと」

「必要ありません」

交渉はすでに終っている。後は答えを待っているだけなのだ。

「でもー」

言い募ろうとする二人に、ギードの影から威圧が放たれる。

「ひぃ」と二人が引きつった顔になり、身を縮める。

いにしえの精霊様、落ち着いて)

ギードのイラつきが伝染したのかも知れない。

「強いていうならば、この案件が早く片付けば、自分は安心して子供達の所に帰れるんですが」

実は精霊様も早く子供達に会いたくて仕方ないらしいんだよねー。

「わ、分かりました。早く許可が出るように計らいます」

二人は怖気づいたように帰って行った。

イヴォンはニヤニヤしながら、子供達の様子をあーだこーだしゃべってギードを羨ましがらせていた。

ギードはイヴォンが帰った後、本気で仕事を投げ出して帰ろうとした。

しかし、指輪が発動しなかった。タミリアに拒否されたのである。

「タミちゃん、酷い」

ギードはいにしえの精霊に慰められつつ、飲めない酒を飲んでひっくり返っていた。

 

 翌日、二日酔いのエルフの元に王都から王城の騎士が訪ねて来た。

王子達のお陰か、思ったより早く、承認の連絡である。

「さすが王子、というところか」

ギードはそう思わずにいられなかった。

「もしかしたら、シャルネ様ではないでしょうか?」

「あー」

連絡に来た騎士に、王城の補佐官とふたり納得した。

王だけの決断なら早いが、国の重要機密に関する事なので安易に許可が出ない。

有識者や上級貴族、官僚といった者に後から文句を言われないための根回しが必要になるのだ。

時間がかかるそれらに、どうやらシャルネ様が一枚噛んだらしい。

「祭りの実績もありましたし、シャルネ様が保証するといえば」

すんなり通るかも知れないね。

子供達を領主館に預けたのは正解だった。あの天使達が、領主様を動かしたのだろう。

ギードは何となく、あの子達のキラキラした瞳を思い出した。

うん、間違いないな。自分でもすぐに陥落する。

補佐官は仕事が終ったので、連絡の騎士と共に王城へ帰って行った。

 

 移転魔法陣の作成作業はすぐに始められた。

「デザイン様、ありがとうございます」

責任者のデザインは、許可を受けてすぐに始められるよう計らってくれていた。

「自分は一旦戻ります。設置場所を確定したらすぐにまた来ますので、人員の選定をよろしくお願いします」

「おう、任せておけ」

ギードは森へ戻り、遺跡内部の、あらかじめ予定していた安全地帯の確認を急ぐ。

ここは一人なので慎重に進めなければならない。

遺跡内の家に戻り、装備の点検をしていると、何故か指輪が反応した。

「伴侶の転移を承認しますか? はい/いいえ」

はい、を選択するとタミリアが現れる。

完全武装であった。

ギードが何をしようとしているのかは薄々分かっていた。

「子供達はうちの実家の両親が見てくれてるー」

王都からご夫婦で来ているそうだ。

ギードは頷いて、すぐに地図を広げる。

時間はすでに夜に近づいている。しかし迷宮内部には関係ないので、エルフの非常食をかじりながら打ち合わせをする。

「ここが使えると思う」

地下迷宮3階に、獣や魔物が近寄らない、広めの安全地帯がある。

「どうして例の部屋にしないのー?」

珍しくタミリアが全うな質問をする。

「ここが迷宮だからさ」

ギードはニヤリと笑う。タミリアはコテンと首を傾げる。

その顔が大好物のギードはタミリアを抱き締めようとするが、避けられる。タミちゃん、酷いー。

 何はともあれ、二人は迷宮へ潜っていく。

安全地帯ではタミリアに待機していてもらい、ギードは一旦魔法の塔に戻る。

そこから設置担当者を連れて指輪の魔法で戻り、設置出来るかどうかを確認させる。

「しかし、ここ、どこですか?」

こんな場所あったかなー?と担当者が不思議がる。

「知らない方がいいですよ」微笑むギードの後ろから盛大に威圧があふれ出す。

担当者はガタガタ震えながらウンウンと首を縦に振ってくれた。



 ギードが動き出して約一ヵ月後、無事に魔法陣は設置された。

「始まりの町」高級住宅街にあるシャルネ様の領主館の地下と、森の遺跡内部にある迷宮の地下3階の安全地帯。

このふたつを結ぶ移転魔法陣である。

「では行きましょうか」

ギードは武装したハクレイ夫婦と共に移転魔法陣を使う。

遺跡の安全地帯の魔法陣には念のためタミリアが待機している。

何故当人以外のギード達が必要かというと、遺跡の結界を通れるのが二人しか居ないからである。

どちらかが居なければ魔法陣を作動させても結界に弾かれ、元の領主館に戻ってしまうのだ。

「準備は大丈夫ですか?」

ギードは、初めての場所でキョロキョロしているハクレイ夫婦に地図を渡す。

「私達が案内できるのはここまでです。無事に辿り付けることを祈ってますよ」

ハクレイ夫婦なら問題なく辿り付けるだろう。

「一応、その場所は結界で覆ってありますので、魔物とか邪魔は入りません」

「どうぞ、ごゆっくり」そういってタミリアと二人、魔法陣で領主館に戻る。

何泊になるか分からない荷物を担いだ、鼻息荒いハクレイと、微笑む奥方を見送って。


 あとは検証待ちだ。結果が出るのはおそらく半年以上後だろう。

「これで良かったの?」

タミリアが夫に話しかける。

領主館の一室で、ギードはようやく子供達を心置きなく抱き締めながらのんびり過ごしている。

森に帰りたいのだが、一応ハクレイ夫婦が戻るまでは待機である。

結界内からの帰還にはギード達使者の許可がいるからだ。

魔法陣にハクレイ夫婦が戻ればすぐに連絡が来る。

「仕方ないさ、彼らが望んだことなんだから」

どんな話し合いがあったか、それは分からない。ハクレイ夫婦の事は彼らに任せておくしかないのだから。

「で、何故、魔法陣を例の部屋に設置しなかったの?」

タミリアはずっとそれを気にしていた。

その方が早いし、少しでも情報を隠すならそうすべきだろう。

「タミちゃん、あそこ迷宮だよ?」

直接行って、直接帰るなんて、もったいないだろう?。

タミリアはようやく夫が腹黒だと気づいたようだ。

「夫婦ってさ、苦難を乗り越えないとダメだと思うんだ」

地下3階の安全地帯からその部屋まで、協力して乗り越えてもらわないとねー。

それ以上の情報を漏らす気はない。

「ギドちゃん、それって……王子達には無理ってこと?」

「ふふふ、いやだなー、タミちゃん。そうとは限らないよ」

何年間か、がんばって修行したら、行けるようになるかも知れない。

少なくともネイミの弓の腕は確からしいから。

 ハクレイ夫婦が魔法陣に戻ってきたのは、それから5日を過ぎたあたりだった。

げっそりした顔で戻ったハクレイにギードはこっそり話しかける。

「回復薬とか、あそこに準備しておいたはずなんですが?」

いろいろと用意し、何日でも過ごせるように準備してあったはず。

「てめぇ、あの回復薬、エルフ用じゃねえかっ!」

ああ、そうでしたー。そういえば精力剤もエルフ用だったー、あははは。

ハクレイに連れられた奥方はにっこり微笑んでいた。

それだけでギードは、この首を絞めてくる白い魔術師を許す事にした。

あとは神のみぞ知る、である。




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