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エルフの旦那と双子の子供達  作者: さつき けい


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闘う意味 2

 エルフのギードが経営する「始まりの町」の土産物店のある館の一室で、今、エルフとダークエルフが剣呑な状態で向かい合っている。

「うぁあああああん」

しかし、その状態は子供の泣き声で一瞬で崩れ去った。

「お前は許さない、絶対」

エルフにしか聞えない声で囁いた後、スレヴィは姿を消した。

ギードもイヴォンも、無駄だと知っているので後を追うことはしない。

「な、何かあったんですか?」

恐る恐る双子を連れた弟子が部屋の中を覗き込んだ。

「大丈夫、何もないよ」

恐怖心で少し震える手を押さえながら、ギードは泣き叫ぶ子供達を呼び寄せ、抱き締める。

危なかった。もう少しで結界が破られたかも知れなかった。

子供達の護衛に回ってくれていたいにしえの精霊が姿を現し、ギードと子供達をまとめて抱くように包み込んだ。

「ありがと」

ギードは魔力を使い切ったせいで、その場で崩れ落ちた。



 

 その日の夜は、そのまま人族の町で泊まった。久しぶりだった。

森の音がしない。精霊の魔力があまり感じられない。そんな夜だった。

(以前ならタミちゃんが横にいたから、あまり感じなかった)

そんな寂しさだった。

変な時間に目が覚めたギードは、起き上がり、窓辺で真夜中の月を見上げた。

(明日、タミちゃんとこ行こうかな)

指輪が反応してくれるだろうか。まだ月も満ちないのに、突然指輪が光ったら、怒るだろうか。

(怒られてもいい、殴り飛ばされても。タミちゃんに会えるなら)

隣の、いつもならタミリアが眠るベッドに、子供達が並んで眠っていた。こんな弱い父親で申し訳ない気がした。

それでも、タミリアが自分の命をかけて産んでくれた子供達だ。

ギードは改めて、ありがたいと思った。もっとちゃんと家族を守りたいと思った。

「コン」

小さな声で呼ぶと、ギードの傍に虹色の光が生まれ、やがて白い鎧とマントを着けた半透明のエルフの騎士が現れる。

「昼間はありがとう」

その姿を背にしたまま、ギードは呟くように礼を言った。

(いや、我は何もしておらぬ。主の危機に)

悔しそうな念が届く。

「ううん、子供達を守ってくれてたし、それがこっちのお願いだったんだから」

コンは、何か言いたそうな気配のまま動かない。

「明日、タミちゃんとこ、顔出しに行こうと思う」

『剣王』にお土産持って行こう。ちゃんとご挨拶して、久しぶりにエグザスさんやハクレイさんの顔も見よう。

そして、双子をしばらく預かってもらおう。

「剣王やタミちゃん達がいる場所なら子供達も安全だ」

ギードは戦闘が苦手だ。自分が傷つくことも、相手を傷つける事も怖い。

ならいっそ、一思いに死にたいとさえ思う。

「でも今は家族がいる。死ねない」

勝たなければならない。たとえ相手の命を奪ってしまうことになっても。

今日の昼間のスレヴィを思い出すと、恐怖で身体が震える。

でもフーニャの傷を思い出し、あれが双子やタミリアだったら、自分はどうしただろうと考えた。

「コン、勝てるかな。生きて戻れるのかな」

守護精霊からの返事はなかったが、ギードは特に気にはしなかった。

子供達を預けたら、そのまま王都へ向かうつもりだ。


 陽が昇り、ギードは町中で酒やお土産になりそうな物を買い込んだ。

そして店員達に、しばらくの間、店を休業することを伝えた。 

ギードの普通ではない様子と、前日の騒動のせいで、二人の店員は何も言わずに頷いてくれた。

「私はこの際、彼女と結婚しようと思います!」

わざと明るい声で元・料理人である弟子が宣言した。

「ぼ、僕は、一度王都の実家に戻って、もう一度親と話し合いをして、リデリアさんを迎えに行きます!」

ドリアルもそう宣言した。

二人の言葉にギードは励まされた気がした。

気持ちが伝わってきた。

言葉は無意味だと感情を読めるギードは思いがちだが、こうした暖かい言葉は何故か心に染みる。

「二人ともがんばって」(自分もがんばるよ)

ギードは双子を連れ、指輪に魔力を通す。

指輪はすんなりとギードの魔力を受け入れ、その場からギードと双子の姿が消える。

残された店の前で、二人の人族の青年はお互いに励まし合いながら、何故か涙を流していた。




 ギードが顔を上げると、以前来た山の中の大きなお屋敷の庭に居た。

「タミちゃん……」

笑っている、いつもの妻がそこに居た。

「ギドちゃん、どうしたの?。今日は修行お休みの日だって知ってたの?」

首を横に振りながら、子供達を地面に降ろす。双子は母親の所に行くと思ったが、何故かギードの傍を離れようとしなかった。

「いーどぉ?」「ぃどちゃー」

服の裾や足につかまったまま、父親の顔を見上げている。子供なりに何かを感じているのだろう。

何かを察知したタミリアがギードに駆け寄り、その顔を思いっきり張り飛ばした。

「お、おい」

その様子を見た老剣士とその妻が庭に飛び出し、駆け寄ってくるのが見えた。

エグザスとハクレイの姿も見えたが、二人はいつもの事なので苦笑を浮かべているだけだった。

「やっぱりタミちゃんだ」

ギードはそう言って、タミリアの手を握って、そのまま抱き寄せた。

双子も母親の体に抱きついた。

「ぁーちゃ」「あぃちゃー」

4人が抱き合ってる姿を見て、老剣士夫婦は立ち止まった。


 その後、ギードはお土産を渡しながら老剣士夫婦に謝った。

「驚かせてしまってすいません」

あれは夫婦のいつもの会話みたいなものなので、気にしないで下さい。

ギードの言葉にエグザスもハクレイもその通りと頷いたので、老夫婦はしぶしぶ納得した。

それよりも、愛らしい双子に気もそぞろになっていた。

「まあまあ、なんて可愛らしいんでしょう」

従者夫婦も大喜びで双子の面倒を見ている。

「もうすぐ夕食だ。今日は泊まるんだろ?」

エグザスが厨房に向かおうとすると、ギードは立ち上がった。

「うん、今日は作らせて下さい。突然来て泊まらせていただくのですから」

おー、とエグザスがうれしそうに言うと、ハクレイもやっとまともな食事が取れると喜ぶ。

人数が多いので、多少大変だったが、従者夫婦が手伝いを申し出てくれたので何とかなった。

ギードは久しぶりに脳筋用の料理を作った。

タミリアがいないとどうしても子供中心の料理になってしまうのだ。

おいしそうに食べてくれるタミリアの横で、ギードは子供達に食べさせながら、賑やかな食卓に微笑んだ。

そして、この屋敷には大きな風呂があり、家族全員で入れると聞いて驚いた。

初めて入る大きな風呂は、ギードにはそれなりに衝撃的だった。

いつもは簡単に汚れを落とすだけが風呂だったが、その日は家族でのんびりする場所になった。

「こういうのもいいねえ」

ギードは、今度精霊達に頼んで遺跡の家にも作ってもらおうと密かに思った。

帰ることが出来れば、だが。




「タミちゃん」

子供達が眠りにつくと、ギードはタミリアを庭に連れ出す。

「申し訳ないけど、しばらく子供達を預かって欲しい」

「なんで?」

ギードはタミリアと少し距離を取る。

「王都へ行く」

秋に向かう山の中は、すでに風が冷たい。

ギードはタミリアに背中を向け、暗い山を見上げていた。

「スレヴィともう一度話し合う」

おそらく戦闘になることは分かっている。ギードの絶対防御とスレヴィの剣技の争いになるだろう。

ギードはゆっくりと赤い石の指輪をはずす。タミリアの嫌いな王都だ。できれば使いたくない。

「ギドちゃん、本気なの?」

「これはタミちゃんが持ってて。帰って来るまで預かって欲しい」

振り返り、指輪を差し出すギードの手を、タミリアは掴んで引き寄せる。

「絶対やだ!」

「王都だよ、タミちゃんの嫌いな」

「ギドちゃんだって、苦手だってゆってた」

「タミちゃん」

月の光の中、二人は抱き合い、ほんとうに何ヶ月ぶりかの口付けを交わす。

「今まで思ったこともなかったけど、もしかしたら本当は」

「愛してる」

ギードが言う前にタミリアが言葉にした。

そしてギードの指に、はずしたばかりの赤い石の指輪を再び押し込む。

「危なくなったら絶対に呼んで」

俯いたままのタミリアの声が震えていた。

「うん、分かった。頼りにしてるよ」

覚悟を決め、気持ちを切り替えたギードは、もう震えも緊張も感じない。

ただ静かにタミリアを見つめていた。


「タミちゃん、子供達を頼むね」

タミリアの前にあった影が、突然、消える。

「じゃあね」

ギードの声だけがその場に残っていた。



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