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新たなる問題 3

 

 その昔、この世界が生まれた頃、というのは定かではないが、それくらい昔の話。

神様が創ったといわれる土地や木や泉といった環境から、その魔力を吸収した精霊が生まれた。

精霊達は自分の元となった物から魔力を吸収するために、その場を離れることはなかった。

しかしやがて、体内に魔力を溜める事により離れることが出来る強い固体が生まれた。

その一部が後のエルフ、ドワーフ、ピクシーなど妖精族といわれる者達である。

「そんな事が書いてあるの?」

遺跡から出た壁画の一部を解読しているギードの傍にタミリアが座り込む。

作業の手を止め、椅子を持ってくるようにうながす。

「ああ、本当かどうかは不明だけど、面白い説だとは思うよ」

ギードは、子供達が大きくなった時に読めるように簡単な文章に直している。

タミリアがこの部屋に入ってくるということは、子供達は眠ったのだろう。

すでに夜も遅い時間になっている。

「でも、それ古代エルフ語だよね?」

「ふふふ、うちの天使達なら何の問題もないよ!」

タミリアはポカンと口を開け、赤ん坊に教える気満々のギードの親馬鹿ぶりに改めて呆れる。

自分は王都の魔術師学校を出たが勉強は嫌いだったので、そっち方面は夫任せである。

しかしよく考えるとギードは学校はおろか、ちゃんしたと教育を受けていない。

一抹の不安を覚えたものの、「ま、いっかー」とタミリアは思う。

自分達の子供なのだから、今更だろう。

タミリアは母親として子供達に教えるべきは、生きて、動いて、お腹いっぱい食べて、そして戦う。

それだけだ。そうやって生きていけばいい。何の問題もない。

「さて、寝るかー」

立ち上がり大きく伸びをするギードの背中に、タミリアが抱きつく。

「えーっと、出来るなら抱き付くのはベッドの中だけにしてー」

真っ赤になった妻に、夫は何故か殴り飛ばされた。

あー、もう慣れっこです、はい。



 そして翌日、ギードは「始まりの町」に来ていた。こそこそっと店にも寄らずに移動する。

森の中と同じように気配を消して、目的地を目指す。実をいうと、目的の領主館とハクレイの館が近いので緊張する。

無事に領主館に辿り着き、領主であるシャルネ様に会うことが出来た。

「先日はお約束を守れず、すいませんでした」

「いえ、大丈夫です。お忙しそうですから」

黒に近い茶色の長い髪を後ろで一つに結んでいる。年齢に合わない落ち着いた印象を受ける。

しかし以前の一部上流貴族による横暴に対する彼女の怒り具合は酷かった。怒りのあまり、証拠を破り捨てかけたからなあ。

それを知っている身としては、あっちの方が歳相応で好感が持てる。

そんなことをぼーっと考えていると、後ろに騎士ヨメイアが立つ気配があった。

相変わらずこの人は殺気駄々漏れである。

これで領主の側近が務まるのは、その実力があるからだろう。

先日の騒動の時のように、普通の騎士が一人で敵の館を半壊になぞ出来ないからな。

「あのー、ご用件は?」

さっさと用事を済ませて帰りたい。うちの天使達が待っている。

「そう慌てずに、食事をご一緒にどうでしょうか」

「あ、いえ、遠慮します。早く戻りたいので」

「タミリアさん以外に、誰か待っているのでしょうか?」

あー、そうくるかー。

うちの奥さんは怒らせると怖いんですよー、だけでも誤魔化せそうだが、シャルネ様にはあまり心象が良くないだろう。

「誰かにお聞きになったんでしょうか?」

諜報のダークエルフ隊ならきちんとした情報を掴んでいるだろう。ハクレイに漏れたのも案外ここからじゃないのかなと疑っている。

シャルネ様は謎の笑みを浮かべたまま、こちらが話し出すのを待っている。

この部屋にはシャルネ様の他、騎士ヨメイアと黒騎士隊長もいる。姿は見えないが護衛のダークエルフのイヴォンもいるだろう。

ギードはそろそろ彼らには少しだけでも話しておかないとまずいだろうと判断する。


「分かりました。お話しましょう」

ひとつ息を吐き、目の前のお茶を一口飲む。

「冬にタミリアとの間に子供が産まれました。男女の双子です」

静まり返った部屋の中で、イヴォン師匠の気配が生まれる。

「それ、本当か」

「ええ、男の子はエルフ族で女の子は人族です」

異種族間の子供は必ずどちらかの種族になる。

つまりうちの子供達は、人族の血を引いたエルフとエルフ族の血を引いた人間ということだ。

「また面倒な……」

はい、分かってますよ、イヴォン師匠。これ結構まずい状態なんですよね。

人族しか使えない魔法を使うエルフと精霊魔法を使う人間が産まれたことになる。

しかも両親とも実力者という折り紙つきだ。

まだ小さ過ぎて検証出来ないが、魔力があることは確認している。

夜間の子守を任せている精霊達が消耗していることからも分かる。精霊達は子供達の魔力で遊ばれている、おそらく。

「だから何も教えてくださらなかったのね」

今更ながら問題に気がついたシャルネ様が苦笑する。

いやー、教えなかったのはタミリアがはしゃぎ過ぎて大変だったからだ。

他の人が子供達を抱こうと手を出しただけで簡単に撲殺しちゃいそうなくらい。

「出産は、その、大変だったろう?。誰かの手助けとかは」

ヨメイアさんが友達であるタミリアの心配をしてくれる。

「その点は精霊達が助けてくれました。安静魔法を掛け続けたり、周り中に結界を張ったりして」

実際大変だったのだ。タミリアの魔力も暴走しかけた。

二度とやりたくない、というか、タミリアを何度もそんな目に合わせたくない。

「かわいいだろうなあ、どっちに似ても」

黒騎士さん、子煩悩なんですよね。確か結婚されてて、お子様も二人いらっしゃるとか。

ギードはニッコリ笑って頷いておく。

うちの天使達がいかに可愛らしいか、話し出すと止まらなくなりそうなので自重する。

その後も髪の色や瞳の色やら聞かれたが、「見れば分かりますよ」の一言で静まり返る。

「会わせて、もらえるのか?」

む、ハクレイさんから何か聞いたのかな。

「でも、ひとつ問題があります」

ギードはイヴォンに目配せしてみる。

理解してくれたのか、盗聴避けの魔道具を取り出してテーブルに置いてくれた。




「昨日、ハクレイ氏がうちの森で暴れまして」

「あーうん、それは申し訳ない」

黒騎士隊長が謝罪してくれた。どうも彼を止めようとしたが、止められなかったらしい。

ハクレイ氏もこの国の実力者のひとり。いくら軍人とはいえ、あの状態の白い魔術師相手では無理だろう。

「予想していたので大丈夫です」

安心させるように微笑んで見せる。問題は他にある。

「本当にここだけの話にしてもらいますよ」

そういって、いにしえの精霊に登場してもらう。

黄金色の髪と瞳を持ち、白い鎧に虹色の光をまとった騎士エルフの姿の精霊が現れる。

軽く威圧を放つその姿。この場所にいる者で対抗出来るとしたらイヴォン師匠くらいだろう。

「自分はエルフの森の最深部にある、聖域と呼ばれる森の守護者の下で使者をしています」

おそらくこれくらいはネイミや他のエルフからも情報は出ているだろう。

シャルネ様が頷き、先を促す。

「そこに何があるか、ご存知ですか?」

「聖域にかー」

少し考え込む一同。

「ええ、実はエグザス氏には口止めしましたが、そこには結界が張られていてー」

自分はそこへ誰も近づけないようにしている。それがたとえエルフだとしても。

思い付いた者がいる。

「あの魔道具、そこから出た?」

シャルネ様、さすがだな。祭りの準備でギードが大量に提供した魔道具をどこから捻出したか、彼らは知らない。

「はい、結界内には古代エルフの遺跡、大戦の時使われたと思われる砦跡があります」

そこの調査をし、発見される魔道具や書物の整理も仕事の内なのだと説明する。

最後まで諦めず抵抗し続けたエルフ他妖精族達の怨念や、使役していた魔物、侵入した獣達。

そんなものが渦巻いて存在する場所がある。ギードにとっては幼い頃からの遊び場のようなものだ。

お陰で彼はそういった負の気配や威圧に対して、高い耐性が知らずに身についていた。

「地上にある建物は少数ですが、その地下はまるで迷宮ですよ」

長年調査しているギードでも地図がなければ迷子になる。タミリアの場合は地図より第六感で動いていそうだが。

「そ、そんな場所が」

シャルネ様は顔色が悪くなったが、ヨメイアやイヴォンは少しうれしそうな顔になる。

これだから脳筋は!。


 そこでもう一度お茶を飲む。

「実はその遺跡内部に、子供が授かり易い場所、というのを発見したんです」

「えぇっ?」

ヨメイアやシャルネ様は顔を赤く染め、男性陣はどちらかというとニヤリとしている。

「その成果が双子ちゃんかー」

イヴォンが納得した顔をしている。

同族同士でもエルフは長い寿命の間に産まれる子供は一人か、せいぜい二人である。

それが異種族間ではもっと子供は出来にくい。産まれれば奇跡といわれるくらいに。

ハクレイ夫婦をみても分かるとおり、仲むつまじく、何年一緒にいたとしても、出来ないものは出来ないのだ。

それはハクレイ夫婦だけの問題ではない。

「うちが特別だとしても、短期間に子供を授かったのは事実です」

奇跡、と呼ぶにはあまりにもその場が怪しすぎる。

「これが世間で広まれば、遺跡は大変な事になります」

だから公開は出来ない、絶対に。

でも子供が欲しい異種族間夫婦はこの情報をどこからか入手する恐れが無いとは言えない。

だってギード・タミリア夫婦の子供という物証がそこにあるからだ。

「だから、検証が必要と考えます」

それが事実なのか、ただの噂なのか。

シャルネ様は目をパチクリしている。当然だろう、そんなことを検証しようという方がおかしい。

しかし、協力者が現れた。

「やってみる価値はあると思います」

皆無言だが、それがハクレイ夫婦だということは分かり過ぎるほど分かっている。

あれだけ周りを巻き込んで盛大に暴れたのだから。

「事情は分かりました。こちらとしても何か協力出来ることがあれば」

「ありがとうございます。情報の隠蔽をよろしくお願いします」

そこは強調しておく。第二王子とその恋人のエルフには特に!。




 本当なら、誰にも話さないままの方が良かった。

でもいつかは子供達は世間に出て一人前となる。

その為に親が出来ることは、知恵と力を付けさせ、旅立つ環境を整えてやることに他ならない。

店に寄ってから家に戻ったギードは妻に、子供達にお出かけ用の服を作ることを提案する。

「分かったー。実家に打診してみるねー」

きっと大事おおごとになるだろう。孫だからなー。

タミリアの妹のリデリアあたりがすっとんで来そうだ。

ハクレイに自ら子供を見せようとしていたタミリア。出産直後より落ち着いて来ている。

これなら子供達に群がる大人達に冷静に対処出来るだろう。

まあ、ぶっ飛ばすくらいなら許そうとギードは思う。

自分もそうしないとは言い切れないし。

「タミちゃんも新しい服が必要かもね」

「んー??」

ギードはタミリアの、妊娠時から膨らんだ胸の辺りをじっと見てしまい、いつものように壁まで吹っ飛ばされた。




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