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エルフの旦那と双子の子供達  作者: さつき けい


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訪問者


 エルフの森の最深部にある聖域と呼ばれる古木の精霊達の森。そこには守護者と呼ばれる巨大な老木の精霊がいる。

「じーちゃん、聞いてよ!」

エルフの商人で、守護者代理を務めるギードは、幼い子供のように老木の精霊に愚痴をこぼしている。

彼は聖域のまだ奥にある結界に守られた遺跡に住んでおり、妻が長期不在のため、二歳にならない双子の子育て中である。

「新参のいにしえの精霊達ったら、何もしないんだよ!」

「ふぉっふぉっふぉ、それはそうであろう。彼らは契約者でなければ従わぬ」

「そーだけどさー!」

ギードは先日、自分の守護精霊から、仲間の2体のいにしえの精霊を紹介された。

彼らは双子達の影に住み、子供達を守るとは約束してくれたが、日頃は全く影から出て来ない。

日増しに行動が活発になる双子。男の子はエルフでユイリ。女の子は人族でミキリア。

彼の妻は人族であり、現在、魔法剣士になるべく修行中である。

「ぐぉーん」「ばぁーん」

「ひゃああー」

双子から精霊の玉を投げつけられながら、ギードは叫ぶ。

「子供達の魔力の制御とか、出来ないのか!」

(子供達を守る約束はしているが、遊びに付き合う気はないそうだ)

自分の守護精霊であるコンから、エンとリンの2体の精霊の返事を聞く。

「タミちゃーん、早く帰ってきてー」

自分が教えたよりも大きな精霊の玉を投げつけられて、逃げ惑う父親。きゃいきゃいと喜ぶ双子達。

(だから言ったであろう)

子供の成長の早さを知らない、親になりたての主にため息をこぼす精霊が居た。




 森でさんざんな目に合ったので、今日は人族の町「始まりの町」にある店に来ている。

ギードはこの町で土産物店を任されている。エルフが店主をする店というのはまだ珍しいのだ。

子供達を領主館に預け、店に顔を出す。

「あ、店長」

裏口から入ると、販売を任せている店員のドリアルがやって来る。

「あのー、お客様が来てます」

「ん?。誰に?。てか、自分に来る客は断ってもらってるはずだけど」

去年の子供達の誕生日騒動以来、ギードには直接交渉は出来ない。エルフならば長老の紹介が必要であり、人族ならば所属グループを通さねばならない。だいたいそこで好奇心や、有名人見たさの客は弾かれる。

「あー、はい、でも、その」

はっきりしない店員を無視し、弟子と薬の調合を始めようとすると、慌てて近くに寄って来る。

「あの、上流貴族の若様の、その、ご隠居様です」

なるほど。しかし規則は規則なのである。

「領主館に回ってもらうように伝えて下さい。それがこの店の規則なので」

何を言い出すか分からない上流貴族などと二人っきりで話すことは出来ない。立会人が必要になる。

「わ、分かりました。あ、あの」

まだ何か話があるようだ。

「僕がご隠居様を領主館へ案内してもいいでしょうか」

ドリアルにとって、王都で贔屓にしてもらっていた客でもあるし、便宜を図りたいのだろう。

「ご隠居様は、リデリアさんをとてもかわいがってくださっていたので」

そうかー、それならこちらも少しは便宜を図らないといけないかな。

「分かった。一緒に行こう」

店は弟子に任せ、護衛のカネルさんに先に領主館へ連絡に向かってもらう。

その間に元・料理人の弟子がこっそり耳打ちしてきた。

「あのご隠居さん、2,3日前から店の周りを調べてましたよ。彼女が店の評判を聞かれたそうです」

弟子の恋人は向かいの教会にいる。ありがとう、と伝えて外に出た。

そして、ギードは店員のふりをしてドリアルの後ろに付き、彼がご隠居様を連れ、領主館へ向かうのに付き添った。


 もの静かな学者のようなご老人だった。しかしその痩身にはほどよく筋肉が付いているようだ。

若様の話では「変わり者」という事だったが、こちらの言う事には素直に従ってくれた。

「息子夫婦からも、お前のご両親からも、どんな店なのか見て来て欲しいと頼まれてな」

庶民である店員とも気さくに話が出来る方のようだ。

高級住宅街の入り口の門では、ギードが先に門番に話を付け二人を通した。ご隠居様が少し驚いた顔をしていた。

領主館に着くと、ギードは二人から距離を取り、使用人達にまぎれて入室する。

シャルネが護衛騎士のヨメイアと共に入室し、二人にお茶を勧めている。ギードが部屋の隅で従者のように立っているのを不審に思いながら。

ドリアルは、ギードの隣に立っている。座るように進められたが、店主であるギードが立っているのに座れない。

「それで、店の主に会って、どうなさりたいのでしょうか」

ご隠居と領主シャルネの話し合いが始まる。

「孫が、あの店のエルフにたぶらかされたと息子夫婦が嘆いておる」

ギードは無表情を装っているが、実は笑いを堪えている。

ご隠居の孫が女性店員のエルフに熱をあげ、王都から足繁く通っているのはこの町では有名な話だ。

「しかし、そんな話は馬鹿げている」

ご隠居は苦笑を浮かべる。ギードはおやっと片眉を上げる。

「店を見せてもらった。近所の評判も聞いた。申し分のない、優秀な商人のようだ」

そう言うとご隠居は、ドリアルと共に立っているギードを見た。

「そうであろう。ご店主」

「ありがとうございます」

ギードはその場で腰を折り、ゆっくりと顔を上げる。

「ギードさん、そんなところで遊んでいないで、座ってください」

シャルネが落ち着かない様子でギードに声をかける。

ここからは三人の会話になる。




「エルフというのはこういう遊びが好きなのか?」

「ご隠居様と同じです」

ギードはくすくすと笑いながらお茶のカップを手にする。

「事前に店の事を自ら調べていたのはどうしてですか?」 

普通なら、人を使って調べさせるものだろうに。そういうとご隠居も笑いながらカップを手に取った。

「わしは自分の目で見たこと、自分の耳で聞いたことしか信じないのでな」

良いご趣味ですね、とお互いに微笑んでお茶を飲む。

「ご隠居様、義妹のリデリアが大変お世話になったそうで、ありがとうございます」

怪訝けげんな顔になるご隠居に店員のドリアルが小声で説明している。

「そうか、あの娘の身内であったか」「はい」

ご隠居は少し微笑んで、良い娘であると言ってくれた。

「それでは、リデリアとお孫さんのいさかいの件もご存知ですか?」

うむ、とひとつ頷いた。

婚約者の存在はご隠居は知らなかったそうだ。息子夫婦が勝手に決めたことで公表もされておらず、内々の話だったようだ。

「そのせいで店を辞めたと聞いた。あの娘には申し訳ないことをした」

おや、割とまともに話が出来る人のようだ。

シャルネも嫌な顔はしていなかった。

このご隠居は、変わり者といわれるだけあって、少なくとも王都の嫌味な貴族達とは違うのだろう。

上級貴族でありながら護衛も付けず、こんな田舎町まで一人で来る。おそらくだが、腕にそれ相応の自信がありそうだ。杖をついているが、ギードが見たところ、武器が仕込まれている。


 ばたばたと足音が廊下から聞え始める。

「し、失礼します」

来客を告げる使用人と一緒に、ご隠居の孫が入って来た。

「お祖父様、困ります!。またひとりで勝手に」

領主への挨拶もそこそこに、両親がすぐにこの若者のせいにして怒るのだと、祖父に向かって吠えている。

そんな孫を無視して、ご隠居はちらりとシャルネを見た。

「そういえば、この孫は婚約者に逃げられましてな」

エルフ好きを公言したせいで、実家も勘当同然らしい。そりゃ婚約も破棄されるか。

「どこかにいい話はありませんかな、こんな孫でも一応学業の成績は良い方でしたので」

腕っ節はそこそこ、らしい。まあ血の気の多い従者が三人も付いていた過去を思えば、不安があるのは確かなのだろう。

シャルネ本人より、周りが不満そうな顔している。

「それはいいお話ですねー」

その中で、ギードはわざと機嫌良く答える。

「シャルネ様、人手不足だっておっしゃってたでしょう?。高貴な文官が仕官に来てくれるみたいですよ」

はあ?、とギード以外の全員がぽかんとした顔になる。

しかし聡明な領主はにこっと笑った。

「それはありがたいお話ですわ」

領主館の文官といえばそれなりの身分が必要になる。シャルネは未成年の間は城で保護されていたとはいえ、庶民の出であり、身近な者といえば護衛騎士くらいしかいない。

シャルネの周りはとにかく、軍属と脳筋が多いのが悩みであった。

この若者は上級貴族の家を勘当されたとはいえ、孫かわいさにご隠居の威光は使えそうだし、本人も下手な事は出来ないだろう。いつご隠居が現れるか分かったもんじゃないし。

「とりあえず、しばらくは見習いとしてになりますが、よろしいでしょうか」

呆気にとられていたご隠居は、しばらくして納得した顔になった。

「シャルネ様、不肖の孫だがよろしくお願いいたす」

その時、ちょうど使用人がギードの子供達を連れて部屋に入って来た。連れて来てもらえるように頼んであった。

「ご紹介しましょう。人族の妻との間に産まれた我が家の双子です」

ご隠居は驚きながらも可愛らしい双子に相好を崩す。当然その横で孫もふにゃっとにやけている。

「我が子のかわいさは、エルフも人も同じです」

「孫も格別よの」

ギードは一緒に笑いながら、こんな面白い人なら、きっとエルフの養父とも話が合うだろうなと思った。




 遺跡の中にある家で、ギードは子供達を寝かしつけていた。

双子は今日はもう精霊と遊ぶのは飽きたようで、静かにギードが本を読むのを聞いている。

「ふああ」

どちらかというとギードの方がお疲れのようで、いつの間にか、子供達のベッドの横でうつらうつらしていた。

……どこからともなく、タミリアの唄が聞えた。

ギードが慌てて顔を上げると、ユイリが起き上がっていた。

ベッドの中から眠たそうにしていた父親に向かって、子守唄を唄ってくれたのだ。言葉ははっきりしないが、音程はしっかりしている。隣でミキリアはすっかり眠っていた。

「ありがと、ユイ」

ギードは息子を軽く抱き締め、そしてベッドに寝かせる。子守唄で自分も眠くなったようで、しばらくしてユイリも寝息を立て始めた。

(タミちゃん、また話したい事が増えたよ)

自分も寝ようと部屋へ戻る。窓から月の光が差し込んでいた。

「もう少しだな」

月が太り始めていた。


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