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エルフの旦那と双子の子供達  作者: さつき けい


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傷だらけの花 2

 エルフの森の最深部にある聖域、その古木の森のさらに奥には結界に囲まれた遺跡がある。

現在、遺跡の地下の3階は、隣の町の領主館の地下倉庫との間を移転魔法陣で繋いでいる。

今はそこでエルフの商人のギードと、この地方の領主であるシャルネ、そして護衛のダークエルフ・イヴォンの三者会議が行われている。

ギードは、前日の夜に襲われたエルフの女性フーニャの怪我の具合から、かなり腕の立つ者の仕業だと思っていた。

真っ先に頭に浮かんだダークエルフの女性。

(おそらく彼女で間違いない……)

王城で一回遭っただけだが、底知れない不気味さを感じた。

「でも、あれは女性ではないですよね?」

ギードは彼女の姿に違和感を持っていた。やはり、イヴォンの知り合いだった。

「ああ、変身の魔道具を使っている」

常用しているため、すでにそれが自分の本当の姿だと思い込んでいるらしい。

「変身の魔道具は必ず異性になる……でしたね」

「あいつは、肉体的には男だ」

そして、中身は完全に女なのである。

「何度説明しても分かってもらえないのさ。俺とあいつじゃ結婚出来ないって」

そして暴走を繰り返す。


(イヴォンさんを追い掛け回してるのなら、そりゃ気配遮断や隠密行動はお手の物だろうな)

「暗殺命令が出たが、誰も仕留められなかった」

そしてイヴォンが迷っているうちに王太子の側近になり、誰も手を出せなくなった。

ふぅ、とギードが大きく息を吐く。

ふたりがぎょっとしてギードを見る。

「なんだー、簡単じゃないですかー」

「な、なんだと」

ギードがにやりと悪い笑みを浮かべる。

「女として扱ってやればいいんですよ。妹だと思ってやれば」

ぽかんとしている二人を見ながら、ギードは話を続ける。

「まあ、男だとか、女だとか、この際おいといて」

好きか嫌いかにしましょう、とギードはいう。

「えっと、自分の基準でいくと、基本的に家族以外に好きな相手っていないんですよねー」

一部友好的な人族がいるというだけで、本当に好きかと言われたら分からないとしか答えようがないのだ。

「ギドちゃんー」

イヴォンが、何ゆってんだって顔をしている。

「でも、許せる。それが嫌いじゃないってことだと理解しています」

ギードは、タミリアに何をされても、おそらく何を言われても嫌いにはなれない。そういうことだろうと思う。

「でも、どこかに境界線はあるんでしょう」

これ以上やったら嫌いになるっていう線がね。

ギードは笑いながら目の前に指を動かして、空中に線を引く。

嫌いな相手だと、この線がすごく相手に近い。相手はすぐにこの線を越えてくる。

嫌いじゃない相手なら、線はこちらに近いのでとりあえず様子を見ている。そして黙ってその線にどんどん近づいてくる相手を。

「そして線を越えたら、そこで終わりです」

嫌い、と嫌いじゃないの境界線。ギードは空中に描いた線の上と下を指差す。

「イヴォンさんはまだこの線の上なんですよね。この下になったら、おそらくスレヴィは死んでる」

そうだ、イヴォンならスレヴィを葬ることは出来るだろう。

それをしないのは、やはりまだスレヴィをかわいい身内だと心のどこかで思っているという事だ。

ギードはそれ以上は言わず、あとの判断はイヴォンに任せることにする。




「でも、それをやろうとしても出来ない問題がある」

ギードは、今度は笑っていない。

「王太子ですか」

シャルネが答える。

第二王子と比べて、大人しくて華が無いと言われている一番上の兄。

しかし、それだけではないのだろう。

「兄は何故、そんな問題有りのダークエルフを側においているのでしょうか」

「うーん。じゃあ何故イヴォンさんはシャルネ様についてるんですか?」

イヴォンはまだ考え込んでいて、こちらの話は聞いていないようだ。

「シャルネ様にイヴォンさん達ダークエルフ隊が付いたのは成人してからですか?」

「ええ、そうね」

それまでは国王の後ろにいたはずだ。

ならば、王太子となった第一王子は、自分にダークエルフ隊が付くと思っていたのではないだろうか。

そうならなかったのは何故か。

「私が女、だからでしょうか」

唯一の姫だから、国王は心配でしょうがなかったんだろう。国でも最強といわれるダークエルフ・イヴォンを隊長とする裏部隊を彼女につけたのだ。

「王子はさぞがっかりしたことでしょうね」

「あ」

シャルネは兄の事など考えたことが無かった。

成人して、早く国王の過保護から抜け出したいとばかり考えていた。

「次期国王となられる事が決まっているのに、最強の部隊が護衛に付かないとは」

どんなにくやしかっただろうか。

そんな時に、イヴォンの次に実力があるダークエルフを見たら、多少性格に難があっても飛びつくかも知れない。

「お茶がすっかり冷めてしまいましたね」

ギードはそう言いながら、もう一度お湯を沸かす。

「ギードさん」

「はい」

「フーニャさんをよろしくお願いします」

ギードは頭を下げるシャルネに慌てて手を振る。

「もちろん、全力を尽くしますよ」

おそらく傷は残らない。残したら、あのダークエルフに負けた気がするからね。

「皆も心配しているでしょうから、これ飲んだら一回戻りましょう」

ギードから手渡されたコップを両手で持ち、シャルネはその湯気に顔を隠した。



 フーニャの件は全員に黙っていた。生死に関しても、傷に関しても、3人は無言を貫いた。

どこでスレヴィが聞いているか分からないからだ。 

そして、それからしばらくの間、ギードは町に姿を見せなかった。

フーニャの事は、休暇中ということになった。

店は当分の間休みにしようとしたが、新しい店員のドリアルがやらせてくれと泣きついてきたので無理しない程度に開店の許可を出した。

商品の在庫は、森の若いエルフ達に配達を頼んでいる。

ただしイヴォンとギードの秘密会議は、ちょくちょく迷宮の地下3階安全地帯で行われていた。

「しかし、本当に来るか?」

イヴォンはギードの話しに首を傾げる。

「情報を集めるのがお仕事でしょう?。来ますよ、その目で確かめにね」

スレヴィは変身の魔道具を使って容姿を変えている。その姿がダークエルフなのだから、それ以上の変身は出来ない。

フーニャを襲った後、すぐに王都へ移転魔法陣で帰ったはずだ。この町にいればイヴォンに気づかれる。

ダークエルフはとにかく目立つ。森のエルフ以上に。短時間なら気配を消せても、長時間そのままというのは難しい。

ヤツが今回動いたのは、この町からタミリア達実力者が3人も居なくなった事もきっかけとなったのだろう。

イヴォンが自分に対して甘いことも知っている。

同じダークエルフであれば、カネル他護衛の者も簡単にごまかされるだろう。それは前の厨房の暴走の時に実証されている。

殺気駄々漏れの女性騎士ヨメイアならどこにいても分かるし、ギードは戦力外である。

「絶対、そう思ってますよねー」

ギードはその日、双子といにしえの精霊も連れて来ていた。

イヴォンは目を細めて、足にじゃれつく双子を見ている。

構いたいけど手を出さないのはいにしえの精霊が嫌そうな顔で見ているからだ。

「ご自分のお子様なら好きなだけ構い倒せますよ」

ギードのニヤリとした顔は好きじゃない。

「あーいやー、そういうのは武人を引退してからだなー」

弟子や生徒に、子供に骨抜きになってる姿は見せられないからだ。

「いつ引退するんですか?。迷ってるなら早い方がいいですよ」

ギードにはおおよそのイヴォンの年齢も分かるだけに、早い方がいいと思って勧めているのだが。

「元・武人でも指導くらい出来るでしょうに」

「お前はほんっとに見かけと違ってキツイよな」

そうですかねーとギードはとぼける。




「それで、フーニャの具合はどうなんだ?」

おそらく彼女の事を一番心配しているのはイヴォンだろう。

「外傷はほぼえてきてますが、問題は心の方が不安定だってことですね」

イヴォンは黙っている。

「何も考えずにバリバリ働くのが一番いいんですけどねー」

顔に包帯を巻いている状態なので、店に出すのは無理なんですよねー。

「タミリアなら、バリバリ魔物をぶっ飛ばしてそうだな」

言葉に反応したのか、双子達がイヴォンの足元へ寄って来るとその手を上げた。

「ばぁーん」「ぶぁーん」

双子の手に、精霊の玉が浮かび上がり、手を振ると壁まで飛んで行く。

そしてそれを、きゃっきゃとうれしそうに繰り返すのだ。

「ギドちゃん?」

横目で見るイヴォン師匠の視線が怖い。

「あは、あははは」

ギードの顔は全く笑っていなかった。



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