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エルフの旦那と双子の子供達  作者: さつき けい


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騒がしい迷宮

 エルフの森でギードが子供達と歩いている頃、彼の妻で人族の魔法剣士修行中のタミリアは迷宮にいた。

ドラゴンの分身体の討伐が終わって、家で休養を取った後、再び迷宮に戻っている。

「もう少しなんだけどなー」

同行している元・聖騎士エグザスは、彼女のミスリル剣に魔法をまとわせるさまを見ている。

しかしその炎はほんの数秒で消えてしまう。

「ドラゴンの首は落とせても、持続出来ないなあ」

ギードが今回討伐祭りを企画したのは、間違いなくタミリアのためでもある。

黙々と修行を続けていても、その成果が見えなければいつか破綻する。

ギードはタミリアの心がくじけないよう、欲求不満が溜まらないようにとこの機会を与えてくれたはずだ。

彼は、知り合った頃は何も出来ないただの小心者のエルフだった。

タミリアは同じグループになって、リーダーに頼まれたから面倒を見ていた。狩りの腕が壊滅的に悪かった。普通のエルフなら使える精霊魔法も威力が低く、あまり使えなかった。

彼女がギードと同じ家で過ごせたのは、エルフというよりも何も出来ないただの子供のようで、異性を全く感じさせなかったからかも知れない。

だけど、特に目新しい事ではなくても、自分の目や手や頭を使ってよく調べている。それは他人に対しても同じで、ひとつひとつ丁寧に対応していく。

日々、彼はタミリアの心の中で大きくなっていった。

冗談半分で「結婚しよう」とは言ったが、本当はそんな事など考えられないくらい彼女は傷を負っていたはずだった。それが、そんな言葉を出させるほどギードは彼女にとって必要な者となっていたのだ。

(ギドちゃんは何も言わないけれど、私のために何かしようとしているのは分かる)

タミリアは、それに答えたいと思うのだ。



 女性魔術師でありながら脳筋と言われ、魔法の杖を剣のように振り回してきたが、ようやくミスリル剣を手に入れたタミリア。

聖騎士団に所属していたが、ある事件で失脚し、今は迷宮内部でタミリアに剣の指導をしている振りをしているエグザス。 

二人は遺跡の地下迷宮で、日々、魔物や邪悪化した獣を倒しながら、魔法を剣に付与する技術を確立するために修行している。

そしてそれは地下迷宮の9階に到達した時に起こった。

9階の少し広い場所で二人はかなり大きな獣と相対していた。やはり下層へ行けば行くほど敵は強くなっているようだ。

「いくよ!、爆炎」

タミリアの得意魔法は炎と風である。

「こら、それは使うなってゆったろ!。壁が崩れたらどうすr−」

一瞬、炎を纏った剣が振るわれ、敵が倒れる。しかし、すでに剣が纏っていた魔法は消えていた。

しかしその魔法の余波で壁の一部が崩れたのだ。

「古い地盤だからあまり暴れるなってギドちゃんに言われてただろ」

あーあ、という声と共にエグザスが呆れた顔をする。

「だ、だいじょぶかな?」

ちょっとオタオタしながら、タミリアは崩れた壁に近寄って行く。

「危ないっ」

エグザスがそのタミリアの腕を掴んで引っ張り戻す。

壁がさらに崩れ、そこからあるモノが転がり落ちてきた。

「え?」

「いたたたた」

崩れ落ちた壁の向こうに大きな穴があり、そこからある者が出て来たのである。

「おめぇら、危ねえじゃねえかっ」

全くよー、と腰をさすりながら、成人直前の少年くらいの大きさの者が立ち上がる。

そしてタミリア達を見ると、目を点にして驚いている。

「お、お、お前ら、人族か」

どうみても恐れている。さっきまでの威勢はなく、ガタガタと震えだしたかと思うと、慌てて穴の中に戻って行った。

走り去るその姿はある意味かわいらしいものだったが、あの恐怖に怯える顔は何だったのか。

タミリアとエグザスは、その穴に恐る恐る近づくと、顔を見合わせて頷く。そしてそうっと覗き込んだ。

穴の奥は暗闇だったが、ちらちらと灯りが動いているのが見えた。

そして何やら喧騒が聞えたが、ガタンゴトンという物音と共にだんだんと遠ざかって行った。

「あ、あれは……」

「……ドワーフ、だよね?」

タミリア達はとりあえず一旦安全地帯に戻ることにした。


「そうかー」

真夜中にギードを指輪で呼び出し、3階の安全地帯で話し込んでいた。

ギードは考え事をしながら、手を止めることなく二人にお茶を入れている。

「ドワーフかぁ、何年ぶりだろ」

ぽつりと呟いた。

「この迷宮に居るって、知ってたの?」

タミリアがお茶のコップを受け取りながらギードに確認する。

「ああ、子供の頃にはこの上層にもいたからね」

ギードによると、一時期は姿をよく見たそうだが、年々下層へ移って行ったようで、最近は全く逢っていないそうだ。

おそらく鉱物を掘り続けて下層へ移動しているのだろうと思われる。

「そかー、やっぱりドワーフといえば鍛冶だからなあ」

エグザスも本物のドワーフを見たのは初めてだ。だが、文献には割りとドワーフの姿は描かれている。鍛冶を通して人族に貢献しており、いくつも名作を残しているのである。

しかしそれも大戦後、交流が無くなってしまった。都や町に住んでいたすべてのドワーフが姿を消したのである。

「どうする?」

このままでは9階の調査は出来ない。いつまたドワーフにぶつかるか分からないからだ。

そんなに怯える彼らを刺激したくはない。ギードは腕を組み、目を閉じ、黙ったまま動かない。

眠っているのかとタミリアが疑い始めた頃、やっと目を開けた。

「タミちゃん、エグザスさん。とりあえず迷宮の調査を終了しましょう」

「いやしかし、こちらに敵意が無いと分かれば、何とかー」

「剣や防具を作ってもらえないか、ですか?」

それはむしが良すぎるだろうとギードは思う。

彼らドワーフも寿命の長い妖精族の一種族である。大戦の記憶があるからこそ、人族のタミリア達を見て恐怖し、逃げ出したのだから。

そしてギードはエグザスとタミリアにドワーフを見たことを決してもらさないよう頼んだ。

この遺跡を出ると、あの女性型ダークエルフがどこで見聞きしているか分からない。

ドワーフ達には静かに暮らして欲しいと願う。

ギードは翌日の朝、二人を連れて領主館のシャルネを訪ねた。地下の魔法陣から上へ上がっただけだが。



  

「こんにちは、ギードさん。先日は討伐、ご苦労さまでした」

丁寧な挨拶をする。まだ10代半ばの人族の女性で、現在の国王の外戚の子であるシャルネは、王族にしておくのはもったいないほど聡明である。

「あー、いえ、シャルネ様もお疲れ様でしたー」

ギードは彼女に大半の後始末をさせたことは申し訳なく思っている。

しかしあれ以上その場にいることは出来なかった。国軍のエルフ兵達の目が尋常じゃなかったからだ。

その後の(飲み会ではない)反省会や、会議にも一切出ていないので、頼みごとをするのはちょっと気が引けている。

「さっそくですがー」と言いつつ、ギードはいにしえの精霊に結界を張ってもらう。

実はエグザスの二つ名は今も「聖騎士団最強の男」である。それを訂正してもらわなければならない。

そのために必要なのは、国王の許可と、現在の二つ名持ちに認めさせることだ。

「それで?」

「『剣王』にお会いできないかなと思いまして」

二つ名『剣王』を持つ剣の達人である老人は、深い山奥にその姿を隠して10年以上経っている。

「ハクレイさんなら居場所をご存知のはずです」

数年前のドラゴン討伐の後、王都で報告会に出席したギード達はそのまま戻って来たが、ハクレイは奥様と一緒に実力者達を探す旅に出ていた。

その時に逢っているはずだ。

「ハクレイさんにはこちらから頼んでみるつもりです」

どうせなら同行させてしまおうと思っている。

「ギドちゃん、それってー」

「タミちゃんのいい修行になると思うよー」

エグザスの件はもちろん口実である。

ドワーフを刺激しないように、迷宮はしばらく使えない。それならばどこかでタミリアを修行させてもらえるところはないか、調べてみた。

人族にはいろんな場所で修行する者達がいる。人里を離れ、まるで妖精族のように隠れて。

「お、俺が け、剣、王?」

エグザスさん、それはまだ決まってないからね。

ふふっとシャルネが笑う。

「分かりました。父王と『剣王』である実祖父には手紙を書きましょう」

そうなのだ。現在の『剣王』は庶民で、実はシャルネの祖父に当たる。

『剣王』という二つ名持ちだったために王族と知り合い、その娘は結婚は出来ないと知りつつ王の子供を身ごもった。

彼は娘に申し訳ないと、その姿を隠してしまったのだ。

ギードとシャルネの会話に誰も付いていけない。

「ギドちゃん?」

タミリアが横目でにらんでいる。

「自分が二つ名持ちになった時に、他の二つ名持ちの事も全部調べただけだよ」

二つ名とは、この国に貢献し、国王から実力者であると認められた者に送られる称号である。

何の実績も持たない貴族や、金だけ持っている富裕層では手に入れる事は出来ない。

それだけに、ちょっと調べただけですぐに噂や文献が手に入るほど有名なのだ。

「いい機会だと思うんだ」

地下にこもり過ぎるとお肌に悪いらしいよー。




 ギード達は一旦遺跡の迷宮に戻った。色々と物が増えている3階の安全地帯の拠点を引き払うべく片付ける。

昼を簡単に済ませた後、その場を脳筋の二人に任せ、ギードはハクレイの館へ向かった。

ハクレイは奥様が亡くなった後、彼女がリーダーを勤めていたグループを解散し、町の中心街にあったグループの家も手放している。

「こんにちは、ハクレイさんいますか?」

ギードは館の使用人につなぎを頼むと、しばらく家の外で待たされた。

知り合いでもこの対応か。きっと子供の事で過剰に神経質になっているんだろうと予測出来た。

しばらくして家の中に通される。

「『剣王』??」

魔法以外のことにはあまり興味ないですかー、そうですかー。

ギードがむすっとしている間に、ハクレイは書類の山を崩している。

ハクレイは結構綺麗好きだったと思うのだが、何だこのていたらく。

「ああ、あった。これだ」

そう言って一枚の紙を見せる。

奥様の字で、名前や住んでいる場所が事細かく書かれている。

それを確認してギードは今回の話をする。しぶるハクレイにギードは詰めていく。

「その間、フウレイ君はうちで預かりますよ」

一瞬目を見開いて固まった。

「お、お前が彼女が残したものは大事にしろってー」

立ち上がって抗議してくるが、何を勘違いしているのか。

「彼女が、奥様が残したモノは子供だけですか?」

ギードはやれやれ、といった風にハクレイを見上げる。

彼女は貴方のことも心配していたはずですよー。それが、この書類の山か。知り合いを拒絶する態度か。

ギードは立ち上がり、珍しく彼の襟首を締める。

「頭を冷やして来たらどうです?」

遠い山奥で、何も考えずに修行でもしてくればいい。

「そしたら何が大切なのか、分かるかも知れませんよ」

今のこの様子を見れば、まだ無気力になっているのが分かる。

「彼女は、貴方のために子供を残した。その貴方が自分自身の生活を大切にしないでどうするんですか」

後日確認に来ます、そういってギードはその館を出た。

一応、奥様の書いた紙はもらってきたので、ハクレイが同行を拒否しても何とかなるだろう。


 夜、子供達が眠った静かな家の中で、ギードは一人机に向かってハクレイの奥様が残した紙を見る。

美しい字だった。

そうだな、タミリアや子供達に残せるモノなんてたくさんある。

本でも魔術でも、人脈でも地位でもいい。

だけどそれが騒動に繋がっては意味がない。自分がエルフだってことをもっと自覚しないとなーと思う。

「ギドちゃん」

いつの間にかタミリアが後ろに立っていた。

「うおぉっ、気配消すのうまくなった?」

ギードが驚いていると、うれしそうに笑った。そして椅子に座るギードを後ろから抱き締めながら囁く。

「私がいない間に浮気しちゃだめだよ?」

苦笑を浮かべながら「しないよ」と答える。

今度出かけてしまえば、迷宮とは違って長く会えない時間が増える。

「『剣王』の奥様は以前ドワーフの弟子をしていたそうだよ」

魔法剣に関して何か情報があるかも知れない。

「ギドちゃん、ありがと」

タミリアは瞳に涙を浮かべ、ギードに正面を向かせる。

「してもらってばっかりだね。何かして欲しいことはない?」

にっこり笑って、それでもちゃんと聞こうとしているタミリアにギードはちょっと聞いてみる。

「んー、じゃあ戻ってきたら、えーっと、迷宮の例の場所でじっくりー」

真っ赤になったタミリアに椅子をひっくり返される。

ギードは、「調査」がしたかったのだが、それはまだ先が遠そうだった。


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