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新たなる問題 2

 翌朝、ギードはいつものように暗いうちに目を覚まし、隣に眠る妻の腕から抜け出す。

未だに護衛しているつもりなのか、眠っている間にいつの間にか抱き枕にされている。

次に、夜泣きをしない良い子の天使達に挨拶する。

夫婦がぐっすり寝ていられるのは、夜中は精霊達が面倒を見ていてくれるお陰である。

ギードは精霊達用に調合した香を部屋の隅に焚く。

「ありがとう」といって、夜の間世話をしてくれた精霊達を労わる。

ヨロヨロとしたいくつかの光の玉がその香に向かって漂っていく。

そんなに疲れたのかー、うちの天使達は何やってたんだろう。

このところ世話係の精霊の消耗具合が日ごとに酷くなってる気がする。

いにしえの精霊様なら何か聞いてるかな)

後で聞いてみよう。

ギードは着替えを済ませると、子供達を起こさないように世話をする。

後は妻のタミリアに任せ、森の採集に向かう。

子供達が泣き出したら起きるかな?、たぶん起きるだろう、まあ期待しないでおこう。

そこは精霊達に丸投げする夫婦なのであった。




 結界を抜け、古木の精霊達に挨拶をしながら、森の聖域と呼ばれる最深部で間引きや下草刈りをする。

薪を拾いながら、薬草や木の実を採集し、余計な獣が入り込んでいないか見回る。

最長齢の老木の精霊の所に戻ってくると、その根元の木のウロに入り、採集したものをより分けていく。

元々この木のウロはギードが住んでいた場所なので、充分な広さはあるが、今は倉庫兼用である。

店に出す品と自分が使う物に分けていると、何かが近寄ってくる気配があった。

「おはよう〜」

エルフ族の女性店員フーニャだった。

「おはようございます。今日はこれだけお願いします」

ギードは店の分を彼女に指示し、荷造りを手伝う。

「そういえばギドちゃん。昨日なんかやらかした?」

ギクっ、心当たりがあり過ぎる。

「店の方で何かありましたか?」

「シャー様が黒騎士連れて、店長いないのかーって」

ああ、それは、うん、すまないことをしたー。

「んで、ハクレイさんがすんごい顔して店の前にいたー。これは、今朝ね」

ぐぇ……。これはさすがにまずいかも知れない。

店の営業妨害になるかもなあ。

「すいません、フーニャさん。お使いを頼まれて下さい」

シャルネ様には明日伺うと伝えてもらう。今日は天使達と過ごす予定なのだ。

次は、ハクレイの館の使用人に、こっそり奥様に伝えてもらうように頼んだ。

「今日、時間があったらでいいので、こちらに来てもらいたいと」

「はーい」

ギードは彼女が帰還魔法で町に戻るのを見送ってから家に戻った。



 朝食の準備をしていると、パンケーキの匂いに釣られて妻のタミリアが起きてくる。

「おはよう、今朝は豪華にしたよ。昨日はがんばってくれたようだから」

まだ動き回らないとはいえ、一度に二人の子供の面倒を見るというのは我が子でも一苦労である。

にまっと妻の顔がほころぶ。顔を洗う前に天使達に挨拶をしていた。

可動式の天使達のベッドを移動させ、食卓の横に置く。

うぁうぁと声を上げながら手足を動かすご機嫌な天使達。

他の子供と比べた事がないので、成長具合が良いかどうかは不明だ。

天使達と、大量のパンケーキを前にしたタミリアと、いつもの朝食が始まる。

ドガンッ!。

森の方角から盛大な音が響く。

「意外と早かったな」

予想通りだったが、早過ぎる。朝食ぐらいゆっくり食べさせて欲しいものだ。

ああ、ほら、タミリアの機嫌が悪くなった。

ギードは戦闘用の服を引っ張り出す。遺跡から発掘したものなので性能は良い。

「タミちゃんは天使達の朝食が終ってからでいいよ」

タミリアは自分の朝食後、天使達に食事を与える仕事がある。

母親である彼女にしか出来ない、その、赤ちゃん用の食事である。

「じゃあ、行ってくるね」

子供達と妻に軽く口付けをして家を出る。


 さて、お客様はどこかなー?。

ギードは精霊達の状況を見る。かなりの数の古木が魔法でなぎ倒されている。

ため息をつきながら魔法の源を探す。

森の中のため、火系の魔法を使っていないのは、まだ理性が残っている証拠だ。

「やれやれ」

手加減だの話し合いが出来る相手ではない。あらかじめいにしえの精霊に出ておいてもらう。

「ギード!、出て来い!」

「お呼びで?」

白い魔術師のすぐ後ろに着く。森の中ならばエルフは最強の種族である。

驚いた様子はあるが、すぐさま膨大な風の魔力が向かってくる。

しかしいにしえの精霊の防御は鉄壁だ。

落ち着いてー、なんて声をかけても通じそうもない。ならば、やる事は一つしかないとギードは覚悟を決める。

(彼を最小の結界で覆ってください、中の空気を抜いて)

魔法の杖をギードに向け、次の魔法を放とうとしたハクレイが黄金色の結界に囲まれる。

苦悶の表情を浮かべ、やがて崩れ落ちる。

(結界解除、急いで)

ギードはすぐに彼を抱き起こし、息を確かめる。

「大丈夫そうだ、良かった。彼を老木の精霊のウロへ」

いにしえの精霊に頼んで運んでもらう。精霊様かなり怒ってますねえ、足首を掴んで引きずるとは。

 木のウロに到着すると、すでにそこには待っている者がいた。

「お待たせしました。旦那さん、持って帰ります?」

ハクレイの妻は首を横に振った。

「その前に少しお話を」

ギードは頷いて、木のウロの中へ彼女を招き入れた。白い魔術師は精霊に引きずられたままだった。


「申し訳ありません、森の守護者様、使者様」

ハクレイの妻であるエルフの女性は、夫が森を傷つけた事を謝罪し、深く頭を下げた。

「いえ、予想された事ですから。それに、事情もお察し致します」

ギードは哀れみの表情にならないよう注意していた。

ふふっと彼女から笑みがこぼれた。

「そう、ギドちゃんには分かってしまうのね」

うん、出会った時から薄々感じていた。彼女はエルフ族の感覚でも相当な高齢だった。

「それでも、ハクレイには何か残してあげたいと思うわ」 

それは彼女の覚悟なのだろう。

出産という行為は、人族でもエルフ族でも、死と隣り合わせだ。

高齢となれば益々母体は危険に晒される。

エルフ族のそれは、さらに女性の魔力と寿命を削る行為である。

長く生きる。その為にもエルフ族はあまり子供を増やす事をしないといわれている。

それでも、彼女はそれを望んでいる。そういう事なのだ。

こんな奴のために。

やはり森を荒らされた事に関しては怒りがあるギードは、足元に転がる白い魔術師を見る。

「ギドちゃん。これはエルフと人との間に必ず起きる問題なの」

寿命の差。時間はいやおう無く人とエルフを引き裂いていく。

「私はもう充分に生きたわ。ハクレイに出逢えて、幸せだった」

微笑を浮かべ、ハクレイを見つめる。

「だからもう覚悟は決まっています」

そしてまっすぐにギードを見つめる。

しばらくの間、ギードは思い巡らせる。どうやって説得するか、自分達に出来ることは何か。

彼女の重すぎる想い。それに答えられるのだろうか。

「……分かりました。少し時間を下さい」

準備が整ったら、連絡することを約束した。

そしてコレだけは言っておかなければならない。

「その日まで、ハクレイ氏には絶対に内緒にしてください」

この白い魔術師は、奥様のこととなると異常に過保護になる。

子供は欲しいだろう。だが、それが奥様を失う事になるかも知れないということに繋がっていない。

「はい、約束します。ありがとう」

目に涙を浮かべたエルフの女性をウロの外で見送る。

彼女も夫の足を掴んで引きずっているところを見ると、やっぱり怒ってたんだな。



「じーちゃん、大丈夫かな」

自分にこんな大役が果たせるだろうか。

「遺跡の守護者として、使者に全権をゆだねよう」

じーちゃん、こっちに丸投げしないで。ジトっとした目で老木を見上げる。

「あーれー?。もう終っちゃったー?」

残念そうな顔をしたタミリアが現れた。

最近の彼女はエルフの子を持つ母として、森の防衛機能に登録されている。

腰にミスリルの剣を差し、完全に戦闘態勢なのに、何故かその両手に天使達を抱えている。

「タミちゃん、それだめ」

両手がふさがっていると予期せぬ事に対応出来ない。

子供達の片方を受け取る。何故か天使達もキャッキャッと楽しそうだ。

古木達もうれしそうに葉を揺らし、老木の精霊はギード達の頭上から伸ばした枝で子供達をあやし出す。

「タミちゃん、もしかしてハクレイ氏に子供達を見せびらかすつもりだった?」

「えへへ」

やめて、まだ小さ過ぎる。そう思いながら子供達の顔を覗き込む。

ギードはキラキラとしたその小さな瞳が、あまりにもタミリアに似ていてちょっと引いた。

(さすが主の、奥方のお子様達だ)

あー、そーですねー。守護精霊の言葉に苦笑いする。

ギードは妻を宥めながら家に帰った。

もちろん、暴れ足りない妻は、すぐに遺跡調査に向かって行った。


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