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エルフの旦那と双子の子供達  作者: さつき けい


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魔王の物語 1

 この世界にはいろいろな種族が共存していた。過去形なのは現在確認されている種族数とは違うからである。

今は人族と、少ないながらエルフとダークエルフという妖精族がいる。

約180年前に起こった人族と妖精族との大戦。

ひとりのエルフが妖精王となって妖精族をまとめ、戦い、完敗まではいかなかったがその数を大幅に減らし、エルフの本拠地である森に引きこもったことで全滅を逃れた。

ダークエルフ族は元々かなり珍しい種族であり、当時、人族の王に保護されていた。そのため人族側につき、大多数の妖精族からは裏切り者扱いされている。

大戦後、固体数が少なかったドワーフやピクシーといった妖精族の一部の種族は姿を消した。ほとんどの人族は大昔の事としてしか知らない。しかし、平均寿命が200年という妖精族にすれば、彼らダークエルフは今尚忌避する対象であったし、ダークエルフ族もエルフの森には近寄らない。

人族にとって、エルフ族は容姿が美しいだけでいくさには負けた弱者、ダークエルフ族は昔から人族を守って来た強者、という扱いの違いがある。

「始まりの町」で土産物店を任されているエルフの商人ギードは、幼い頃から森のエルフ達に迫害を受けていたが、ダークエルフに関しては何も思うところがない。

実害が無かったせいである。

「じゃこれ、今週の分だ」

ギードは領主館の地下で、妻のタミリアの師匠でもあるダークエルフ隊の隊長イヴォンから物資を受け取る。

「ありがとうございます」

今、ギードはエグザスという元・聖騎士を預かっている。魔法剣士となるべく修行中のタミリアを鍛えてもらっているのである。

その彼の日用品や食料の援助を領主様に依頼しており、週に一度、こうして受け取って運んでいる。

まあ実情は「鍛えてもらっている」というより「一緒に遊んでいる」が近い気もするが、それは言わぬが華だろう。

ギードの後ろには、七色に光る半透明のエルフの騎士が立っている。

いにしえの精霊はタミリアが修行中なので、ギードの双子の子供達の面倒を見ている。その腕にエルフの男の子と人族の女の子を抱いているのだ。

イヴォンも子供達をかまいたそうにしているが、いにしえの精霊はダークエルフとは大戦で闘っている間柄なので、あまりいい感情を示さない。

あの壮絶イケメンのイヴォン師匠が手を出せずに唸っている。面白い光景だなーとギードが薄く笑っていると、遠慮のない拳骨げんこつが頭に落ちた。

「痛いです、師匠」

「俺はお前の師匠じゃない」

あー、タミリアがすぐ殴ってくるのって、師匠のせいじゃないですか?。タミリアにそんな事まで伝授したんですね。

ギードは背の高いイヴォンを下から睨む。

さらにぐりぐりやられる……くそぉ。




 とにかく、この家族の朝食は大量のパンケーキである。妻と子供達の好物だから仕方ない。

タミリアは今、エグザスと修行中なので、帰ってくるのは週に一度。手持ちの食料が尽きたらである。戻ってくると2日ほど休養をとり、また出かけて行く。

昨夜遅くに戻って来ており、今は久しぶりの家族団らんの朝食中だ。しかし邪魔が入る。

「ん?、最長老から呼び出しのようだ」

遠くからでも木々のざわめきを風に乗せ、エルフ達は言葉を送ることが出来る。すぐに戻ると告げて老木の精霊の下へ向かう。

森の民であるエルフは妖精族の一種である。草木や水や陽光といった森を育てる自然環境を守るために生まれた種族といわれている。

ギードは古木こぼくの精霊には認められ、今は聖域の守護者代理となっている。それなりに権力はあるのだ。

「最長老さま、お久しぶりです」

「おお、ギード。わざわざすまない」

森のエルフでただひとり、ギードの味方であった養父である。

ギードは森にいても他のエルフ達に会うことはない。エルフ族は長命であり、小さなしこりでもずっと残ってしまうのだ。

それでもこの長老に関しては感謝している。息子のユイリも懐いているので連れて来た。タミリアが寂しそうだったのでミキリアは置いてきた。

養父は孫でもあるユイリを抱く。

「御用は?」

ギードは、養父の他にいる気配に冷たく短い言葉をかける。

小さなエルフに眉を下げていたその女性エルフが、ギードの声にぶるっと身を震わせる。

「すまない、ギード。娘がどうしても話がしたいというのでな」

 申し訳なさそうな長老の後ろから、養父の実子である女性エルフが顔を見せる。この国の第二王子の恋人であり、いろいろやらかすのでギードを悩ませる原因のひとつである。

ネイミは跪ひざまずき、まるで神に祈るようにギードを見上げる。

「ギード様、どうかお力をお貸し下さい」

「お断りします」

恋人の第二王子がエグザス達の件で城に軟禁状態なのは知っている。しかしどう考えてもギードには何も出来ることはない。

ギードの、話を聞くまでもないという冷たい即答になすすべもなく固まるネイミ。

養父は当然という顔でギードに対し理解を示す。ユイリを抱いたまま、少し距離を置いてくれる。

ネイミは怒りと哀しみに身体を震わせ、やがて泣き崩れた。

ギードが立ち去ろうとすると、彼女は顔を上げ大声で訴える。

「何故ですかっ。エグザスはあのように助けたではないですか!」

足を止めたギードは、やはり優秀な者が相手側にいることを確信する。エグザスの情報など知る者はわずかしかいないのだ。

「お願いです、ブライン王子を!、殿下をお助けください!」

必死にギードの足にすがりつく女性エルフ。以前王都で見た美しい容姿も、鈴が鳴るようだとうたわれた声も、今は見る影もない。


「ネイミ様」

ギードは彼女の手を自分の身体から引き離し、その場に座り込んで目線を合わせる。

実力者とはいえ、国の城に単身乗り込んで王子を連れ出すことはほぼ無理である。エルフと人族の争いに発展しかねない。

聖域に加えられた攻撃なのだから、守護者代理であるギードが許せばいい、という話はもうすでに過ぎてしまっている。

「自分は王に対応をお任せしました。だから本当にもう何も出来ないのです」

ある意味、王と王子の親子の問題のような気がする。王族だから大げさに見えるだけだ。そして、王族でなければとっくに投獄されている。

ギードはネイミを立たせると、ふたりを老木の木のウロの部屋の中へ案内した。

彼女をテーブルにつかせ、茶を入れ、改めて話をする。

「何故こうなったのかは理解していますか?」

ギードの声は静かだ。

ネイミは出された薬草茶に手を出すこともなく、ただうつむいている。いや、彼女の心は怒りが渦巻いているのが見てとれた。

「……自分達にこそ子供が必要なのに。王の子と長老の子なのに。魔物の子のくせにー」

ギードはネイミが思っていそうな言葉を並べていく。

本心を言い当てられ、ネイミは立ち上がり顔を真っ赤にする。

「そ、そんなことはっ」

大声で言い訳をしようとする彼女に、ギードの目は冷ややかだ。

「自分は貴女を尊敬していました。人族の中で暮らすエルフは大変ですからね」

弓の腕を買われ、王族直属の弓兵部隊に所属。エルフ好きの王子に見初められ、恋人となった女性。

王都では軽く見られがちなエルフに対し思うことがあったはずだ。

「素直でやさしい、だからこそ貴女は狙われた」

長老の娘である誇りが、彼女が他のエルフとは違うと思わせたに違いない。そこに付け込まれたのだろう。




 すとんっとネイミが椅子に座る。心配そうに見ていた養父は、ユイリが眠ったのでベッドに寝かせ、こちらに来ていた。

「誰かに、何かを吹き込まれたのかね」

最長老は娘にではなく、ギードに質問する。

「おそらく王子をないがしろにしているとでも言われたのでしょうね」

それは彼女自身を、という意味に他ならない。彼女だって「自分はいいけど王子にはー」などと綺麗事をいうのは表向きだけだ。

既に二人は公式の場に同席しており、彼女への侮辱は王子への侮辱と解釈していたはずだ。そしてその逆もしかり。

「相手は、どう言えばネイミ様が行動を起こすか熟知していますね」

王都での、あのエルフの物語からすでに手駒になっていたのは明白である。

あの時、ネイミは顔も知らないギードを悪者と断定していた。

以前、エルフの森で情報収集していたフーニャに確認したが、ギードの生い立ちに関しては引きこもり故に不明な事も多く、人族の町に出てからは好意的な話しかしていないと言っていた。

「あの時は、自分が悪者扱いされても、ネイミ様が王子とお幸せになるならそれでいいと思っていました」

しかしギードは殺されかけた。ネイミはうつむいたまま、言葉が出ない。

「そうなるように誘導した者がいるのだな?」

長老は今度はネイミに直接訊たずねる。

「はい……王城に出入りしているのは確かですが、名前も知らない人族の方でした」

今思えば、不自然なくらいエルフを持ち上げる言葉を並べていたそうだ。

そしてネイミの文章をめそやし、今度はこう書いたら、ここはこう書いたら、と口を出して来た。そうして、エルフと魔物の間に産まれたギードンという魔王が誕生した。

ギードは「はぁ」と大げさにため息をつく。

 あのエルフと王子の恋物語は王都で人気となり、劇場で上演されるまでになった。

お陰でエルフの地位は確かに向上したが、今回の第二王子の暴走は、エルフが揉め事を呼び込む種族だと再び思い出させる事になった。

教会は国王と対立しているかのように思われて評判を落とし、聖騎士団は精鋭と実力者のエグザスを失った。王子とエルフを快く思わない者が増えたに違いない。

「筋肉だるまもあまり評判良くないそうですしね」

ネイミが暴徒に襲われた時に呼び出した上位精霊は、筋骨隆々とした上半身裸の男性の姿をしていた。暴徒を追い払うには効果はあったが、思いがけず見てしまった一般の人々には、ただただ恐れの対象になったようである。

あれから数年経っている。噂はもう下火になっていたはずなのに、また火を付けてしまったのだ。

ギードは俯く彼女に話かける。

「貴女も王子もまだ未熟だと判断しました」だから情報を渡さないよう注意していた。

子供の件に関しても、まだ結婚もされていない二人に話すことではない。そんな事も分からない彼女ではないだろうに。恋は盲目?。それならば愛ではないので尚更必要ない。

エグザスの件に関しては、もう彼女には全く関係がない。王子を助けたい一心で名前を出したに過ぎない。

「しかし、このままというわけにもいくまい」 

立ち上がった長老がネイミの肩を叩き、帰ろうと促す。

「わしが何とかしよう」

「父上様」

邪魔をしてすまない、と長老はギードに頭を下げ、ネイミを連れてその場を去った。

ギードは養父がどうしようとしているのか、全く見当けんとうが付かない。しかし彼もエルフ族の長である。言葉にしたからには結果は出すだろう。

後味の悪い話し合いになった。




 ギードは寝たままのユイリを抱いて家に戻った。

家に入ろうとすると、居間の様子が少しだけ見えた。そこには、ミキリアを抱いて寝かしつけようとしているタミリアの姿があった。

小さな、囁くような声で唄を歌っていた。

ギードは咄嗟とっさに足を止め、自分の気配まで消した。そして静かに近づき、その歌声をうっとりと聴いた。

エルフの耳はこういう時威力を発揮する。人族の耳には聞き取りにくい音も、しっかり聞き分け、そして記憶する。

ギードはその唄を聴きながらユイリを子供用のベッドに寝かせ、自分は居間の長椅子に座る。

目を閉じ、ずっとその声を聞いていた。

やがてその声が聞えなくなったことも忘れ、いつの間にか眠っていた。

娘を寝かしつけたタミリアが、居間の長椅子に眠るギードに気づき大声をあげる。

その声に驚いて子供達も起き出し、ギードはタミリアに散々怒られた。


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