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第九十四話 曽根美と間島

「とにかく、宵宮の情報を得て彼女を排除してしまえば、後はなにもせずウォッチしていれば確実に評価される」曽根美が言った。

「おいしいですよね」相手の真島がにやにやしている。


「この陰謀の尻尾を掴んだ時点でもう手柄はあったんだ。陰謀がなにかなんてどうでもいい。いや、それは言い過ぎだな。大きく事態が動く時を待っていればいいんだ」

「ぶっちゃけなにもしないでおけばいいってことですよね」


「深く潜行せよだ。それだけで仕事をしていることになる。冒険なんて必要ない。俺を見てみろ。しっかり出世してるだろう」

 そんなふうにしてうまくやって、今の地位がある男なのだと思った。


「ええ勉強になりますよ」

「組織の中で出世するにはだ、どうやって仕事で成果を出すかじゃない、どうやって成果の出るおいしい仕事にありつくかだよ。難しい仕事なんてやる意味がないのさ」 自慢たらしく曽根美が語る。


「八木亜門の研究開発チームが道路を移動しながら何らかの実験をしていた、それが原因で事故まで起きた。国際部の諜報員は怪我をしている。経済部が介入するチャンスだとは思わないか」 と曽根美。

「たしかに口実になります。いいタイミングですね」


「ヤオヨロズふぉれすとでなにが進行しているのかがわかれば、あれがなにを意図して設置された機関なのかを解明するとっかかりになる。いままでは、あまりに得体が知れず、ちゃんとした役割があるのかさえもヴェールに包まれていたがな」


 とおんのミッションは、陰謀も含めて謎の組織の目的について知ることなのだろう。単純にUFOを追うとかいうことではないのだ。


 とおんが自分の任務について、やたらもったいつけて、陰謀だの謎だの言っていたけど、どうりで説明できなかったわけだ。

 ともかく、その機関はUFOを開発していると分かった。UFOを開発してなにをしようというのか、それが陰謀なのだろう。UFOを開発して…… たとえば兵器か。


「ニュースはまずいことになったな。放射性同位元素が坑道に漏れて封鎖されただって。大げさなほら吹きやがって。全国ニュースじゃねえか」

 こいつらもあのニュースを知ってるんだ。


「やはり私のせいですかね?」と間島と呼ばれた男が顔をゆがめる。

「タイミングがな…… おまえが第二期クラスター開発計画の現地調査して、すぐだってのは…… まずいな。岩井さんにはおまえが行ったことは黙っておけよ」


「まあ、黙ってますよ。成果もないですからね」と真島。

「で、どうだったんだ? まるっきりダメか。なにかヒントでもいいからないのか?」

「残念ながら…… 現場は完全に覆われていました」

「いったい、なにが建つんだろうな?」

「あるいはなにかを発掘しているのかも」

「あ?」

「言っただけですよ」真島が妙な表情をした。


「なんで宵宮がこんなでかい案件を与えられたんだ、まったく」 と曽根美。

「最初はどうでもいいような仕事って思っていたんですけどね」

「いろんなとこから、それとなく照会がある。思っていたよりとおんの情報価値は高そうだ」

「照会ねえ。へーっ」

「内密にな。五〇万で売ってくれって言われたりな」


「え、売るんですか?」

「いや、情報がないからな」

「あれば、売りますか?」

「ふふふ、まあな。小遣い稼ぎもしたいところだ」


「悪いなあ~ 曽根美さん、私もかませてくださいよ。調査しますから」

「ふふ、まあ頼む。だが警戒しているからな。この先はそんな簡単に尻尾を出さないかもしれない。宵宮の情報が手に入るならその方がいい」


「写真か何かあれば一番いいんですがね。ないんですか?」

「ないと言い張っているが怪しい。だが携帯を取り上げてる」

「よく、彼女怒りませんでしたね」


「敵が持ち去ったんだろうと説明しているからな。ともあれ彼女がそれを現場に落としたということはだ、それを使っていたからだと思わないか? 任務中に電話していたというのは不自然だし、撮影していたと考えるのが妥当だろ」

「ですね」


「データを解析しているが時間がかかりそうだ。いろいろプロテクトをかけてある」

「そんなの分析班でちょちょっとできるんじゃないですか」

「一応、敵が持ち去ってることになってるからな。分析班はまずいだろ。知り合いのシステム屋に外注だよ。経費は俺持ちでな」


「曽根美さんが負担するんですか」

「それで情報が得られるなら安いものだ。自分への投資だ」

「データをどこかに飛ばしているって可能性は?」


「ないこともないが、撃たれた中でそこまでできるとは思えん」

「そういう設定にしている可能性もありますよ」

「それも解析で時間を掛ければたどれる。だがサーバー会社の捜索令状はさすがにとれないな」


「まったく、いっそ自白剤でも使えればいいんですけどね」

「身内にか、悪い冗談だ。いっそ搬送直後の麻酔でメロメロの時にそうしてればよかった」

「はは、それ本気じゃないすか」間島は笑った。


「とにかく情報を得ないとな。そうすりゃ、あの女をこの案件から外せる」

「あっちの方はどうなんですか。ほら協力者がいるとかって」

 俺のことだ……

「ああ、あいつはダメだった。なにか手はないかとも思うんだがな。弱みでも調べ上げてゆするか……」

「金で買ったらいいじゃないすか?」


「ん、いや、ありゃホレてるくちだな。顔だけはいいからな。整形美人め、色仕掛けだけは一人前だよ」

 えっ、整形!? そうなの?


「ほんとに盗聴器仕掛けて傍受するんですか?」

「彼女に言われて代わりの携帯を持ってきた。絶対に本庁に連絡するはずだ。それを傍受すれば宵宮の持っている情報は全てこちらのものになる」


「で、鉢植えにマイクってわけですか」

「そうだ。私が持って行ったんじゃわざとらしいからな。なにか仕掛けていると思われかねない」

「僕だってどう思われてるか」


「前にいろいろ誘ってたろ。知ってるんだぞ。惚れている男が花を持ってきても自然だろう」

「惚れてなんかいませんよ。少し遊ばせてもらいたかっただけです。顔のきれいなおねーさんにね」


「まあ、なんでもいいが…… 少なくともあの自信過剰女は、おまえが好意を持っていると自惚れてるだろう。意外と向こうもまんざらじゃないかもしれないぞ。ん? イケメン」


「まあ、それはないと思いますがね。ただ職業柄いろいろ障害が多い方が熱中するんですよね。ゲームです。振り向かせるまでが楽しいんですよ。ま、こっち振り向いたらどうでもよくなるんですけどね」


 曽根美の言葉どおり、間島という男はなかなかかっこよかった。加納とは違うシャープないかにも仕事のできそうな、まさにできるスパイというイメージだった。でもクズだ。


 曽根美は見舞い用の鉢植えをのぞき込んだ。そこに盗聴器があるのだ。

「きれいな花にはとげがあるんですよ。ま、宵宮もそうですけどね……」間島が言った。


「にしても、いまだに信じられんな。謎の機関? 陰謀? なんだそれ。はは、B級だ。悪ふざけもいいとこだ。気楽に内偵活動を楽しませてもらうとしよう」

「曽根美さん……」間島の表情がどこか変わった。


「な、なんだ?」

「気をつけましょう。たしかに大きな陰謀はある。宵宮は撃たれて怪我もしている。それがなによりの証拠です」


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