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第九話 カルトではない?

「だいたい、そっち系っていうか、宗教とか興味ないんで」

「宗教?」

「だって、これカルトっていうかさ、黒魔術系の」

「黒魔術? 黒魔術ではないですわよ。全然方向性が違いますわ。魔法少女なんとかなんて興味ないですから。わたくしは断然仮面ライダー派ですわ」


「だって、なに、あの鹿の頭?」

「素敵な壁飾りがどうかしたかしら」

「いや、黒魔術に使うんじゃないの?」


「あははっ、もうっ、ぜんぜん、勘違いですわよ。職場に飾ってあったものが邪魔になって持ち帰ろうとしたものですわ」

「そうでございます。近年、お嬢さまの会社の方でも取引先や株主に外国の方が増えておりまして、中には動物愛護にこだわりのある方々も訪問されますから」


「あ、そ、そうなの…… いや、でも、あのでっかいカエルは?」

「可愛いでしょ。ゲコ太郎よ。わたくしの可愛いペットです」

「ペット?」

「最初は、ありがちだけどヤドクガエルから始めたのです。でも最近ではちょっと渋好みといいましょうか、両生類の侘びも分かるようになってね」


「あ、あれは、ヤモリの干物?」

 あれこそ黒魔術で毒薬とかを作るんじゃないだろうか。

「仕事が忙しいときやお酒を嗜むときに効きますのよ。ユンケルとかウコンの比ではありませんわ」


「水晶玉だよね、あれ? 占い師とかが使う」

「重しに使ってるんだけど。ちょうどいいの。お漬け物に」

「お嬢さまの漬ける蕪のお漬け物はなかなかですよ」

「そうですわね、水晶だと味がまろやかになる気がするわ」


「あの像は?」

「あーニポポね、彫像は最近凝ってるの。アーティスティックでしょ」

「なんか呪われるような気がしてならないのだが……」

「お嬢さまの造形の表現力が人形に生を与えているのでしょう。お嬢さまは本当に多趣味なのですよ。それでいて、ひとつひとつがおざなりにはなっていない」


「ありがとう、馬都井。凝り性なものでね。真ん中のニポポは第三十八回ニポポ展に出品しようと思ってるのですけど、横のならセミナー受講の記念としてお上げしてもよろしくてよ」

「い、いや……」気持ち悪いし。


「あの機械は?」

「あ、これ? 電子レンジ。大昔のものですけどね」

「電子レンジという調理器具が軍用機械から転用された黎明期のものでございます。お嬢さまはとても物持ちがよろしいのですよ」


「こ、これってレーダー?」

 いくらなんでもレーダーは自己啓発セミナーには関係ないだろう。

「ああ、こちらは私が製作したものです。おっしゃるとおりレーダーアンテナですよ。地上デジタルテレビ用に既存の部品を組み合わせて製作したものです」

「えっ、地デジアンテナ? いや、買ってくればいいでしょ」買った方が早いでしょ。


「性能には自信があります」

「だいたいそこまでテレビに力入れるかな。ネットがあればいいじゃん」

「いやいや、ネットの時代とはいえ地上デジタル放送に勝る媒体はありませんよ。情報というものは莫大な量を抽出するエデュトリアルが肝要なのです。現時点において地上波のテレビに比して迅速性、簡潔性、統合性を上回るネット情報はないでしょう。しからば、最低限、地上デジタル放送電波の明瞭な画像受信はお嬢さまの情報ソースとして欠かすわけにはいかないのです」

「そうね。忙しいわたくしにはやはりテレビよね」


「そ、そうかなあ? あ、あれは、なんか白い変なにおいのする煙が出てるんですけど」

「あ、これは加湿器。アロマよ」


 俺がおかしいと思う室内のものは、全てなんらかの理由が述べられおかしくないということになってしまった。


「で、でもさ、あれはどうよ? 世界征服ってのはどういうことなの?」

「ああ。そうね。逆にあなたに聞かせてもらうけど、あなたは世界を征服をしたいとは思わないのでしょうか?」


「えっ?」

「どのような取り組みをするにしても志というのは大切だと思うの。わたくしはこの美々の自己啓発セミナーを始めるにあたって志を立てた。それが世界征服という言葉になった。それだけのことですわ」


「意味が?」

「そうね、たとえば、マイクロソフトは世界征服を実現したと思わない? フェイスブックも。あるいはマクドナルドもプリウスも。わたくしはねギークでアントレプレナーな人間たりたいと思っているのですわ。世界を変革するような」


「そのお嬢さまの決意表明が、世界征服という四つの文字に結実しているのですよ」

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