表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/128

第八十六話 UFO出るかな

 波政が缶ビールを飲み干し、焼酎のお湯割りに切り替えた頃にUFOについての話題になった。日は暮れて自転車のハンドルに付けたLEDランプが小さなキャンプサイトを照らしている。


 この場所で最初にUFOが目撃されたのは半年前のことだった。ちょうどその頃に工事の現場が始まったのだと言う。工事関係者がそれ以降、複数回目撃したものは、オレンジの発光体や銀色の円盤など一定せず、時間帯も昼も夜も両方あるということだった。


「UFO出るかな?」箸でつまんだアンチョビをバーナーで炙りながら俺は聞いた。

「どうだろな」

「作戦とかあるの」

「特にない。空を見張るだけだ」

「テレパシー送るとかってどう思う?」

「眉唾だな。そんな、こっちの都合で呼び出してホイホイやってくるようなUFOなんているわけねえよ」

「でも、まったくなにもしないってのも退屈っていうかさ」


「まあ、一番確実なのは目撃された場所に行くってことだろうな。だから、ここに来たんだ。UFOってのは出る場所は決まってる。世界中見たって同じ場所で何度も目撃されるケースが圧倒的に多いんだ」

「羽咋みたいに?」

 コスモアイル羽咋という世界でもそこしかないUFO博物館のある場所を俺は話題に出した。


「羽咋はよく出る。唐戸山の神事相撲の日に俺は見た」

「見たの?」

「あの日、相撲を見るために海岸でキャンプを張ったんだ。唐戸山へ向かう途中に見た」

「マジ?」


「夜空を見張ることだぜ。ついでに言うと、そんなに人がいない場所ってこともポイントなのかもしれねえな」

「なんで?」

「だって、たとえば渋谷の上空なんかには絶対に現れないと思わないか?」


「そりゃあ」

「宇宙人ってのはきっとシャイなんだよ。みんなが見ているような場合では見つからないんだ。俺が初めてUFOを見たのは小学生の時だった。校庭で朝礼中にな」

「人、いっぱいいるじゃん」


「俺は校長先生に注目しないタイプの子供だったんだよ」

「なんだそりゃ?」

「たいがい、あさっての方をよそ見してたんだ。その日、山の上に銀色の円盤が浮いてた。でもな、俺がみんなに言ったら急に消えたんだ。UFO」

「えっ」

「うそつき呼ばわりさ」


「だけど棚木も見てたんだ。その頃、俺たちは今みたいに喋る仲じゃなかった。でも、あいつは俺を放課後に呼び出して自分も見たって言ったんだよ」

「そんなことあったんだ」


「でだ、棚木はその方角でもう一度見てる。だからUFOを見られる場所ってのは前に出た場所なんだ。UFOを見つけたかったら、一番効率のいい方法は前に出たところに行くことさ。それも少人数でだ」


 俺の缶ビールが終わったので、浪政はバーナーでチタンカップの水を熱して焼酎のお湯割りをつくってくれた。俺はレモン果汁を多めに入れた。

 夜空を見上げると星がユラユラ瞬いている。酔っているのかなと思う。


 UFOが大人数で見ることができないと言うことにはどんな意味があるのだろうか。もし大人数で見たらどうなるのだろう。少人数で見るより影響は大きいだろうと思う。

 たとえば、神様がこの世界に、しかも衆人環視の場所に現れたなら、この世界がそれ以前の状態には決して戻れないように変化してしまうだろう。だからこそ神様はみんなから距離をとっているのではないかと考えたことがある。


 UFOがいるかいないかという議論は、神はいるのかという議論に似ている。

 神を見つけたい。そうすれば救われるんじゃないか。それは人間の普遍的な探求心だと思う。死んで灰になる。なくなってしまうという、その恐怖に基づくものだ。


 UFOは俺にとってのそういうものなのだ。不信心な俺のところへは神様は降りてきてくれないかもしれない。それでもUFOや超常現象なんかの不思議なことがあるのなら、こんな俺でもどこかで救われるような気がしてる。死んだら消えてなくなるのじゃなくて、なにか俺たちのまだ分からないその先があって……


 UFOを探しているのか。なにを探しているのか。むしろ自分自身を探しているのではないか。だんだん考えがとりとめなくなってきた。酔ってる……

 最近は自分探しは無駄だという論調も多い。いろんな言い方はある。探しちゃダメだ、作れとか、置かれた場所でがんばれとか。けど、結局、探そうとしてしまうのは仕方のないことではないか。


 なぜなら、今の自分ではない自分、自分がどうありたいのかを迷い探すということは、自由を与えられた現代人にとって最大の課題なのだから。


 なぜ波政はUFOに興味があるのだろう。いろんなことをしているのだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ