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第七十二話 パーティーってなんだ?

 会場には人がさらに多く入ってきていて、時間がたつにつれてコスプレとか変な格好の人が増えてきた。


 先っちょが尖った山猫系の猫耳の女の子は鎧みたいなのを着てて大きな剣を背負っている。戦国武将風の和ものの扮装をしている長身のイケメンは地元を中心に活動している役者か何かかもしれない。


 セーラー服をモチーフにやたら丈の短いスカートにブーツのアニメの美少女戦士の二人組は、求められてポーズを決めて撮影会みたいになっちゃってる。白衣に血を飛び散らせたスプラッタナースの顔が怖い。

「最近、こういうコスチュームも売れてんだよな」 波政が言う。

「へえー」


「また、今度仕入れに行かなくちゃな。このパーティーも売り上げに貢献してくれてるぜ。服もいいぜ。コスプレじゃなくても、うちなら気に入った服を仕入れて安くで買えるし、飽きたらそいつを売ってというのもできるしな」

「いいなあ」


「本店でもこっちが開店してからでもいいし、店に来たら呼んでくれよ。割引券とかやるからさ」そう言って浪政は知り合いの顔を見つけてそっちへ行った。


「俺は、あいつはガチガチの左翼にはならないと思ってる。左翼の内部でも統治ってのはある。仲間に対して苛烈にディシプリンを求めるんだ。左翼の集団の中でその左翼の原則を守ろうとする保守性とか上意下達とかってのは、俺ら保守的な集団なんかよりももっとひキツイことがある。そういうのがいやで、あいつは本物の左翼に成りきれないんだ」 棚木が難しいことを言った。

「ふうん」


「おまえは政治的にはどうなんだ?」

「俺は中道ってか、日和見主義なんだろうと思う。興味ないって言うか、あえて目をそらしているって言うか。でも棚木が言うからじゃないけど左翼にあこがれはあるのかもしれないな。どれかを選べって言われたら中道を選ぶよ。でも右翼も左翼も必要だと思っている。俺みたいに世の中の全てが中道で日和見主義だけだと立ち行かなくなるような気がするんだ。幅があった方がいい。多様性ってそういうことだろ」


「出河、なんでつきあってるんだって聞いたよな。ガキの頃からの仲ってのもあるけど、俺たちは似ているんだ。右翼の子は右翼に、左翼の子は左翼に。俺が左翼になったことは一度もないし、あいつが右翼に賛成したこともない。親に言われたとおりの政治スタンスを律儀に守ってる。俺があいつとつきあっているのは、右翼の子に生まれついた自分への反抗心みたいなものなんだろうな」


「彼もそうなんじゃないかな」

「おまえは左翼になるんじゃねえよ。会社とかには居づらくなるからな」そう言って棚木も空になったグラスを持ってドリンクコーナーへ行った。


 俺はまた一人になった。

 パーティーってなんだろう? なぜパーティーが開かれているのだろう? なぜここに俺はいる? いまここで俺はなにをするべきか? それは俺の人生にどんな意味をもたらす? 酔った頭の中にいくつもの質問が浮かぶ。


 それは誰か知らない人と既知になることだ。あるいは知っている人でも、知らない部分を知ることというのもある。知らない話ってのを聞くことに意味があるんだと思う。予測可能なものではなくって。そして、逆に他人に、他人の知らない自分を見せられることに喜びがあるのだろうか。もっとパーティーに参加して知らない人や、あまり喋ったことのない人と喋るべきだ。傍観しているのではなく。予測不可能のものに出会うこと、それが未知との遭遇ではないか。


 未知と出会うこと、俺はそれを求めてよく街を歩いていた。でも、どれだけ遠くに歩くより、他者が怖いという気持ちを乗り越えて新しい出会いをすることの方が、俺を遠くに、ずっと遠くに連れていってくれるような気がする。


 まだまだ俺は人が苦手だ。知らないものは怖いし、今だってまた壁の花だ。でも壁の花だとしても観察することにも意義はある。今までは逃げ帰っていたけど。

 そして、壁際で誰とも喋らず終わるんじゃなくて交流した方がきっと楽しい。うまくいくとは限らないし、不器用だけど。それでも交流しようと努力してみるんだ。壁から離れることとか、接近するとか、笑顔とか、挨拶とか、勇気を持って一言とか。


 俺はまだパーティーが得意じゃないけど、要領よくなってもっとパーティーを楽しみたいと思う。参加しないとか、さっさと帰ってしまうんじゃなくて。


 引きこもりみたいなところはあった。

 学生時代はいろいろな問題があって社会性を持てなかった。そんなときに本を読むことが社会性の替わりになってくれたんだと思う。でも、きっとほんとは喋りたかったんだ。


 ほんとはなんのへんてつもない社会性を得ることを心の底で望んでいながら、それが得られないから、本を読むことで紛らわしていたのかもしれない。実際の人間なんてクダらないとこき下ろして、すばらしい人間がまわりにいないから相手にしないのだという屈折したプライド。でも、そうやってでも生き延びてきたんだ。


 だからどんな本かと言うと雑談性、スラップスティック性、ごった煮感、そういうものがあるのが好きだった。そこに人間関係や社会性を求めていたんだろう。


 俺は俺自身を鎖国していたのだと思う。自由貿易と保護貿易では自由貿易が正義みたいに言われている。そりゃ自由貿易できるだけの力がその国にあればいいけど、そうでない場合は保護貿易で国内の産業とか農業とかを保護しないと壊滅してしまう。俺もそうだった。俺は外部の甚大な影響を廃して内部で何かを安定的に育むために、その頃は引きこもっていた。 そうやって生き延びたんだ。


 仕事があって良かった。仕事に就けてよかった。仕事はひねくれてひとりぼっちになりがちな俺に社会性を与えてくれている。

 

 今でももちろんUFOとかムーとか好きだ。でも、それと同じくらい人間の内面には不可思議なものがあるんだと今日分かった。自分以外の他者も自分と同じように大切で面白いものを一杯内面に蓄えているんだと。


 パーティーは賑やかだった。活気があっていきいきしている。生命に溢れている。自分自身がそういうことに、たまにでもいいから溶け込めるなら、そういうのも悪くないなと思えた。だって面白いじゃないか。棚木にUFOをテントで観察しようという左翼の友達がいるなんてさ。


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