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第六十七話 輪の中に入る

『これからどうすればいいんですか? 美々さ、じゃなかった、ランカウイの黄金鷲さん』

『ミッション2は「輪の中に入る」ですわよ』


『おお』

 なんだろう、なんか急に緊迫感が……

『会話の輪の中に入るには、自然なきっかけが必要ね。空気を読むの』

『い、一番苦手なことかも知れない……』

『弱気にならないことですわ。空気を読むって表現がいけなかったですわね。やることはシンプル。まず会話の内容をよく聞いて。そして、さりげなくアイコンタクトとか、うなづき、あいづちをするのよ』

 ふむ……

『ラジャ』


「でさ、森っちも、あずきバー事件知ってるよね」「知ってるけどお……」「いや、あんな山口さん見たの初めてだったわ。怒る怒る」


「うんうん。あーそうですか、いやいやそうですか。ふんふん」

 俺は森っちと田上の隣で大仰にうなづいてみせた。

 森っちと田上の顔がひきつっているような気もするが気にしない。


『そうよ。そうやってアイコンタクト、うなづき、あいづちからタイミングをはかって笑顔を繰り出すのよ』

『……笑顔ですか。なんか不自然ってか、キモがられるんじゃないかな。気まずいなあ』

『忘れたの、顔の筋肉をつらせて鏡の前で特訓した日々を思い出すのよ。大丈夫きっとデキるわっ』


 うおおおおおっ!

 にこっ。

「……」「……」田上と森っちの二人の女子は見てはいけないものを見てしまったような、おののくような表情で沈黙している。


 ああ…… 大縄跳びとかでも縄にひっかかっちゃうタイプだったのだ。さんざんタイミングをはかったくせに。


 くすっ。

 ええっ!

 森っちがひきつりながらも笑顔を返してくれたのだ。


『それっ、今だあっ! トークの始まりは挨拶っ。ハイトーンの声でとびっきり明るい挨拶を喰らわしてっ!』美々さんの声がヘッドフォンに響いた。

「や、やあ、どう? 楽しんでるう?」


「えっ? と、だれのモノマネですか?」森っちが聞いた。

「あー、グラッチェ山王のブサイクな方でしょ」と田上は芸人の名前を出した。

「モノマネじゃないんですけどっ!」しかも、なんだよブサイクな方って!


『さあ、パーティートークよっ』

『パーティートークったって、なにを喋っていいのか……』


「なに、ぶつぶつ言ってんのよ」と田上。

「いやあ、ひとりごと的な……」

『観察しなさい。服のこととか、なにかほめることとかない』

 なるほど……

「そっ、そのパーティードレス、き、決まっているね」


「ひっ」

 田上は、小さく悲鳴を上げた。

『思いっきり、ひかれているんですけどっ!』

『なめ回すように見てるんじゃありません?』

『なめ回すようにとかじゃありませんよっ!』


『やはり出河さんのキャラがもう既にマイナスからの出発なのよね……』

『すいませんねっ! マイナスからでっ』

『ま、どうせハナから嫌われてるんだからよろしいでしょう』


『服じゃなくて、ほかの話題はないんですか?』

『そう話題ですわね。ミッション3は『トークをする』よ。ポイントはね、新鮮な話題ってことですわ。トークが苦手な人の場合とにかくネタが重要なの。それも新鮮なネタがね。ネタさえ相手の興味を引ければ話術の上手い下手なんて誤魔化せますわ。効果的なのは今日の新聞とか電車の中吊り広告とかからネタを拾うのです』


『え? 新聞とか持ってないですけど』

『大丈夫。ちゃーんと私が準備してきましたから。えと、どれどれ、まずは週刊女性イレブンから。梨園のプリンスの愛のカタチ、歌舞伎役者中村万之丞……』


 よし……

「ねえ、知ってる? 歌舞伎役者の中村万之丞がさあ……」俺はヘッドフォンで聞く美々さんの言葉をそのまま繰り返した。

『……ハネムーンの夜、ミニスカCAの制服着てくれと土下座で懇願。成田離婚危機か』

「ハネムーンでミニスカのCAの制服着てくれって土下座を…… うあっ!」


 田上と森っちの顔がひきつっている。なんだ、このセクハラな話題……

『どっ、どん引きなんですけどっ!』

『えっ、なぜかしら?』

『ネタが下品だからでしょうよっ! 下ネタはダメに決まってんじゃないすか』

『でも中村万之丞ってイケメンでさわやかじゃないですの?』

『イケメンでさわやかな変態ですよ。別の話題にしてくださいよっ!』


『うーん、そうね、じゃ、これなんてどうかしら? 監禁容疑で逮捕されたストーカーの部屋からは美少女アニメと怪奇現象に関するDVDがザクザク。最近の事件でタイムリーですわ』

『いや俺がその話すると、アニメとか怪奇現象とかってキーワードが微妙に犯人とキャラ被りしてるっていうか……』


『あら意外に自覚はありますのね』

『ちょっとっ! ちゃんとしてくださいよっ! 来週からもこの子たちと仕事でつきあっていくんですよ』

 俺の言葉に美々さんは週刊誌の見出しを列挙したが、どれもドロ沼の愛憎劇や浮気、離婚、変質者に関するようなものばかりでろくなものがない。


『んな、ネタ使えませんよ! もっとさわやかな話題ないんですか?』

『面白くないじゃない。ま、でも、無難なのは料理とかですわよねえ』

『そーゆーの先に言ってよ』

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