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第六十二話 ループトラムでの出来事

 馬都井くんの指示を受けてふぉれすとビルのグランドフロアから直結するループトラムの駅へ向かう。自動改札機にカードをかざして通過する。敵も尾行しているなら改札はくぐらなければならない。その男が切符を買うのだとしたら少し引き離すことができるのではないか。今すぐにトラムが来れば逃げられるかもしれない。


 しかしループトラムが到着するまでは少し時間があった。

 なぜ俺の身元がバレたのだろう。あのバイクの夜は顔はヘルメットで隠れていた。その前だって距離が遠いし、バレていないと思っていたのだが……


 また電話が震えた。馬都井くんだ。

『来た電車に乗ってください。それと次の指示はメールで送ります。そのままメールをチェックしていてください』

「わかった」


 ホームに電車が入ってくる。

 俺は開いたドアに乗り込んだ。

 通勤時間だから少し混んでいるが、座れないほどじゃない。

 それにしても、八木亜門に身元がバレたのだとしたら相当ヤバい。毎日、仕事に来ているのだ。逃げようがないじゃないか。

 腰を降ろそうとしたときメールが入った。


『降りてください』とある。

 ええっ!

 俺はすぐさまドアに駆け寄ってホームへと降り立った。

 発車のBGMとともに電車は動き出していた。


 見送る車内にこちらを見ているサングラスをした男がいた。追いかけてきたのはこの男か?

 考え過ぎじゃないか。いや違う。ブラウンの薄い色のサングラスの奥の目と視線が交錯したような気がした。八木亜門の警備の中にいたか? 初めて見るように思えた。おまえ誰なんだ?


 ポンと背中を叩かれてビクッとして振り返る。

「ふあっ! な、なんだ、馬都井くんか」

「お疲れさまでした。どうやら相手は撒けたようです」

「あ、ありがとう。でも、どうして俺が尾行られているとわかったんだい?」

「わたしが睦人さんを尾行ていたからです」


「ええ~ なんで?」

「あ・な・た・が・好きだから~」

「……」

「というのは冗談ですが、セミナー課題である探偵の真似事を練習しておこう思いましてね」

 そのときループトラムの小松方面行きがホームに入ってきた。


「乗りましょう」と馬都井くん。

「え、逆方向だけど」

 そもそも、今日はセミナーの三回目ということで、美々さんも入れてふぉれすと内のレストランで食事でもしながら話をする予定だったのだ。


「敵は一人とは限りませんよ。もし、私があのサングラスの男だったら、すぐにバックアップの要員を手配するでしょう。ふぉれすとに留まっているのは危険です。今日は予定を変更します。移動しながらの方がいい」

 そう言って馬都井くんはループトラムに乗り込んだ。この時間は小松方面に向かうトラムは空いている。俺と馬都井くんは二人並んで隅の方の座席に座った。


 馬都井くんは美々さんに電話して事情を説明しレストランでのセミナーは中止だと伝えた。


「ふむ、でも、わたしには八木亜門の手の者ではないようにも思えるのです。なんというか雰囲気が違う。明日も睦人さんを誰かに尾行させましょう。あの男が何者なのかを探りたいですし、攻める方が容易いですしね」

 追いかけてきた男に対する推理を馬都井くんは言った。


「さて、今日の本題に入りますけれども……」そんなふうに馬都井くんは切り出した。

 そうだ、今日は長谷川の件、あの写真について馬都井が調べたことを報告するってことになっていたんだった。


「長谷川さんの件ですが少し複雑な様相を呈しているようでして」

「へ?」

 馬都井くんは鞄からノートパソコンを出して画面に例の写真を表示させた。

「これ少し変な画像ですね」

「そうだよ、こんなの最低だよ」

「わたしが言ったのは少し意味が違うのですが」

「え?」


「加工してありますね」

「加工?」

「すべてがというわけではないです。完全に合成したものじゃないですけど、かなり画像処理してありますね」

「そんなこと分かるんだ」


「結構丁寧なものですよ。専門のソフトで手間をかけてます」

「フォトショップ?」

「だとすると、結構、面倒ですね。デザイナーとかプロがやったとして、うーん、ざっくり見積もってですが五時間くらいの仕事量でしょう。雑にやると絵になってしまうんですよ」


「じゃ、長谷川のその写真は濡れ衣だってこと?」

「残念ながらそうではありません。このお店で男性がお尻を出して、そこに長谷川さんがいたことは事実だと思われます。だが、この写真は相当いじってあるんです。実はオリジナルの画像を入手しました」

「オリジナルの画像?」

「ネットを少し特殊な方法で検索して見つけたものです」


「ネット?」

「正確に言うとインターネットではなくて、ヤオヨロズのネットワーク内ですけどね。この画像の流出経路はヤオヨロズふぉれすと内だと思ったんですよ」

「特殊な方法って?」

「まあ、ひらたく言えばハッキングです」


「これがオリジナル画像です」パソコンの画像を馬都井くんは切り替えた。

 その写真は、暗くぼんやりしててピースサインもない。お尻との距離も違う。長谷川の顔も彼女だと言えばそうだし、そうじゃないと言えばそうじゃない程度。


「ぜんぜん違うじゃん!」

「そうなのです。加工によってスキャンダラスな画像に加工したということが事実のようです。手も別人のものです」


 でも、なんでこんな手の込んだことをするんだ? 女の子はこういう画像のテクニックなんかないような気がする。いやイラストレーターとか出版のデザイナーは別だけど、そういうのできそうなのって広報室にいるかってくらいだ。長谷川に敵意を持っているのは誰だ。男だとしたら振られた奴、コンパをすっぽかされたとか。それ俺じゃん。女の子なら恋の恨みか。でも、そんなことで画像をわざわざ加工するというのは少し違和感があった。


「オリジナル画像ですが、睦人さんの会社のある方のPCに保存されていました。こちらのアカウントです」


 ykurosというアカウントが小さな文字で表示された。 黒崎次長だ……

 意外だった。あの次長にそんな手間な画像処理ができるとは思えなかったのだ。


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