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第五十一話 好きな人いるの?

 細い三日月が地平線の近くにあった。追っている円盤よりも低い位置だ。星は俺のアパートのあたりよりもずっと多い。街灯などの地上の明かりが少ないからだろうか。扇状地の平野はライトをつけずに走っていると道路も見えず暗い海のようだ。薄っすらとシルエットを見せる古墳群はそこに浮かぶ島で、俺たちは夜の海を航海していた。


「タンデムもたまにはいいわね」

「え、ガンダムがどうしたって……」 

「どんな耳してんのよ。タ・ン・デ・ム! たまには二人乗りもいいねって話しよ」

「ああ」

 この場所は能美古墳群だった。能美古墳群の駅からガンダムを開発しているという小松へ路線変更の工事をしているということが頭に残ってたのだ。


「風がうるさくってよく聞こえなかったんだよ」

 スピードは三十キロくらいだから風切り音はそれほどじゃないのだけど、そのせいにした。会話できないほどじゃない。


「バイクは好きよ。自由にどこでも行ける。でも、ときどきすごく孤独になるのよ…… 今日はウザいのが腰にぶら下がっているからさみしくならないわ。ウザいけどね」

 意外な感じがした。とおんはどこまでも自由に、誰の干渉も受けないのが好きだと思っていたのだ。


 円盤はそれまでの奇妙な動きをやめて姿勢を水平に保ち巡航していた。さっきのは運動性能を試していたんだと思う。

「連絡してくれてありがとう。ちょっとうれしかった」

「ど、どうしたんだよ急に」

「だって、これはあたしの任務で睦人のじゃないから」

「今日はたまたまやる気なんだ」

 今岡に腹が立ってたせいだ。


 円盤の光りがだんだんとくっきりと明るくなってきているような気がした。左側の一部が他よりも少し明るくなっている。いびつな光り方だ。

「迷惑じゃないかって思ってたの」

「迷惑とかじゃないけど」 


「そうだ、ちゅーしてあげよっか。手柄あげたし」

「えっ!!」

 い、いいのか。

「うっそぴょ~ん」

 くっ。これだから……


 前方には国道の高架が見えた。ヘッドライトが道路の上を通り過ぎていく。ワンボックスは直進している。そのまま高架の下を通り過ぎていくようだった。円盤は高架の遙か上だ。


「睦人は…… 好きな人とかいるの?」消え入りそうな声だったが風はかき消し切れなかった。

「な、なんでそんなこと聞くんだよ」

 今、この瞬間、俺が好きなのは……


「ご、ごめん、今の質問忘れて」

「なんで?」

「だ、だって」

「俺が好きなのは……」

「やめてっ。言わないで」

「ダメなのか。とおんが聞いたんじゃないか」

「えっ、えと、だって…… スパイは任務が」

 しどろもどろになる。


「だって、まだちゃんと一人前の成果を出してないし。あたしはスパイなのよ…… スパイは…… だってスパイだから」

「成果あげたじゃん。それに…… そんなに仕事だけが大事なのか。スパイは恋とかしちゃいけないのか」

「だ、だって」

「007なんか、毎回ちゃっかり恋愛してんじゃん」

「それは映画だし」

「言うよ。俺が好きなのは……」

「ちょっ、たんまたんま。待って。許してお願い」


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