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第四十六話 ふぉれすとビルの変形

 自転車置き場に身を潜めたまま、ワンボックスの方をうかがっていた。しばらくは動きがなかったが、二人の男がビルから出てきてパソコンや計器のようなものを車に積んだ。


 ワンボックスが動いたらどうする? 営業車で追跡するか? 駐車場まで走らないといけない。いや、でも社用車には会社のマークが入っていて納品した俺だってバレてしまう。


 ビルの二十三階を見上げる。その階だけ照明がついている。

 うえっ!

 ビルの形が変わっていた。いや、それは極端な言い方かもしれない。

 とても奇妙なことになっていた。二十三階のフロアの一部が飛び出しているのだ。幅が十メートルほど、ビルからせり出した長さも同じくらいだ。ダルマ落としのようにビルのワンフロアだけがはみ出して変形していたのだった。


 冗談か? ビルがこんなふうになるなんて聞いたことがない。もちろん俺の会社のフロアはこんなふうにはならない。


 そのときマナーモードにしていた携帯が震えた。

『じきに着くわ。どこにいるの?』

『自転車置き場。分かるか?』声を潜め通話する。

『ええ。奴らはどこ?』

『一階のカフェの前に一台停まってて何人か乗ってる。西駐車場の方から来たほうがいい。そっちなら死角になる』

『そうね』


 まもなく西駐車場の入り口に黒い亡霊のような影が現れた。とおんのバイクだ。ライトは消している。音もなく下り坂を滑るようにして降りてくる。エンジンの音がしないのは切っているのだろう。


 闇をすり抜けるように黒いバイクはステルスで、慣性の法則でゆっくりと俺のところまでたどり着いた。細身の流線型のバイクはモタードというらしくオフロードバイクっぽいのだけど、オンロード用のタイヤを履いたものだという。国内最大の楽器メーカーと同じブランドのバイクで、とおんによれば最高のスパイふさわしく最高の性能でレーシングモデルに匹敵するという。


 ストレッチの黒のカーゴパンツがふとももにぴったり張りついて、シンプルな黒いジャンパーに黒のブーツ。ヘルメットは夜に溶け込む艶消しのブラックでバイザーがあるものだ。脱ぐと長い髪がこぼれてきて美しい女スパイの顔があった。ルックスだけはジェームズボンドに登場するのもありかなと思う。


「敵は?」

「まだいる。そこに停まったままだ」

「あのワンボックスね。よし、通報ご苦労。あんたもちょっとはスパイの任務に対する責任感が出てきたんじゃない」

「ま、まあ……」ほんとはちょっと違うのだけど。

「なにしようってのかしら?」


「八木亜門が開発した機械かなにか運ぶのかなとも思ってたんだけど。でも、あれ、なんだと思う?」

 俺はビルの二十三階を指さした。


「ちょ、なにあれ?」

 二十三階のせり出した部分にとおんも驚く。

「へ、部屋がはみ出してるじゃないの!」


「勝手にリフォームしたんだろうか?」

「リフォームって。そんなこと…… 民家じゃないのよ。違うわ。これはふぉれすとの計画段階から組織的ななにかが関与した大がかりな陰謀よ。その証拠だわ」


 すぐに国家的な陰謀とか世界の破滅がとか妄想チックなことを言う彼女だけど、ビルが変形しているのを目の前にすると笑い飛ばせない。思ったより陰謀は大きくって、ヤオヨロズふぉれすとの開発計画や俺の会社とかにも関係してくるのかもしれない。


 そのときふぉれすとビルの通用口から、また人が出てきた。三人だ。

「八木亜門よ」

 亜門がビルを見上げた。視線の先は二十三階だ。


「あっ」「わっ」とおんと俺は同時に声を上げた。 あわてて口を押さえる。

 テラスから四角い大きな箱が降りてきたのだ。それはワイヤーかなにかで吊るされたコンテナのようなものだった。あの大きさじゃふぉれすとビルの業務用の大型のエレベーターにも入らないだろう。


 ゴゴオォー。

 大型のトレーラーが俺らとは反対側の東駐車場から入ってきた。トラックはゆっくりとビルに近づいていく。ぎりぎりビルのきわまで寄ってバックで宙吊りになったコンテナの真下に停まった。トラックから作業員みたいなのが何人か降りてきて、八木亜門の仲間と一緒にコンテナを見上げる。


 吊られていたコンテナが降りてトラックの空の台車に乗せられる。コンテナは大きい。トレーラーの幅をはみ出して、一・五倍くらいある。


「コンテナを運ぶんだわ。積み荷はなにかしら」

「彼らが造ったなにかじゃないかな。黒い板とか」

 ビルの壁面にぶら下がってのぞいた部屋の中の黒い板をイメージした。あんなものは見たことがない。しかしそれにしては大きなコンテナだ。たくさん入っているのだろうか。

 ワンボックスのスライドドアが開いて亜門らが後部座席に乗り込む。

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