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第四十五話 ケルビンデザインとトマトーマ

 白々しく明るい廊下をとぼとぼ歩く。光が強くて鬱陶しい。吹き抜けは薄暗いけれど、そちらの方が居心地がましな気がした。加納を恨めしく思う。課長もだ。貧乏くじを引かされた。


 あの若い男はうそをついている。納期は今日じゃなかったのだろう。なんで、今日、急に必要になったんだよ?


 そのとき廊下の先の扉が開いた。そこはケルビンデザインではなくトマトーマのオフィスだった。

 八木亜門……

 白衣の研究員と二人で歩いてくる。


 とっさに観葉植物の後ろにしゃがんだ。すれ違ったが気づかれてはない。


「亜門様、ほ、ほんとうに今晩決行ということでよろしいのですか」

「何度も聞くんじゃない。本部の言うように当初から計画は遅れておる。予算も超過しているのだぞ。今夜でなければ、明日の役員会に成果を報告できんだろうが」

「来週の方が無難かと……」

「なにを言っとるんだ。明日の夕方からの役員会で計画の見直しが決定されてしまったら、それで全てが終わりとなるのだぞ」

「し、しかし、まだ動作が不安定で……」

「では、いつまで待ってたら完全な準備ができるんだ? 聞かせてもらおうじゃないか」


 八木亜門と研究員の二人はケルビンデザインのオフィスに入っていった。


 そうか。トマトーマとケルビンデザインは関係があるんだ。八木亜門の何らかの計画が早まった。それで予定していた日ではなく、今日、納品が必要になったのだ。

 エレベーター前の案内表示板をもう一度見た。

 表示されているトマトーマとケルビンデザインの位置が一致していない。だが、別会社というのがカモフラージュで、両者の実体が同じであれば理解できる。何らかの事情で部屋をお互いにやりくりしたということだろう。


 エレベーターのボタンを押した。

 自分の会社と八木亜門の陰謀に接点があった。知らないうちに陰謀に荷担しているかもしれないのだ。気分が悪かった。


 守衛に自分の会社の鍵を返して、ふぉれすとビルを出た。夜空と星を押しのけて巨大なビルがそそり立っている。


 今岡にはいいようにあしらわれた。屈辱は消えてない。しかも明日の朝にまたその気持ちを味わうことになる。次長はきっと長い時間叱責するだろう。二人同じようなタイプだ。

 仕事ではどうあがいたって客にも上司にも勝てない。

「くそっ」


 黒いワンボックスカーが妙な位置に停まっていた。

 車寄せではなく一階のカフェのオープンカフェとして営業しているすぐそばだ。イベントがあるときなど業務車両が入ってくることはあるが、通常は車が停まる場所ではない。夜間だから誰のじゃまにもならないけれど。


 来たときにはなかった。エンジン音がかすかにしている。助手席側に座っている男の顔を見て、八木亜門の部下の警備の男の一人だと気がついた。

 八木亜門のやろうとしている計画に関係しているのだ。


 たしかに仕事では客である今岡には勝てない。でも…… 仕事とは別の土俵ならどうだ。スパイという言葉が頭に浮かんだ。


 今岡、そして八木亜門の陰謀に迫ることができれば、それは大きな復讐になるのではないか。奴らは怪しい。悪事を働いているのではないか。少なくとも銃を使うという点ですでにまともじゃない。陰謀を暴いてやる。

 そのまま行き過ぎて自転車置き場の背後に身を潜めた。

 でも、どうすればいい?


 本職に聞いてみるしかない。とおんだ。


 携帯の画面表示の時刻は一時を過ぎていた。深夜に電話するのはためらわれるけど緊急事態だ。きっと言わなければそっちの方が文句を言うだろう。

 電話をかけた。


 呼び出し音が五回鳴った。

「はい……」

「あの、睦人だけど」

「わかってる……」

 着信表示されているのだろう。低いいぶかるような声でとおんは答えた。


「夜遅くに悪かったけど、でも大事な話があって」

「ちょ、ま、待ちなさいよ」

「いや急いでるんだ。緊急事態なんだ」

「そんな、心の準備もできてないし」


「時間がないんだ」

「だいたい、いきなり電話でなんて勝手だわよ」

「いや、でも電話しかないし」

 あ、メールの方がよかったってことか……

「相手に会って、目を見てって、そこからじゃない。そういうプロセスの一つ一つが女子には大切なんじゃない」


 ん…… なんか勘違いしてないか。

「とおん。少し誤解があると思うのだが」

「へ?」

「あの…… えと、君が好きだとか、つきあってくれとかって言うために電話したんじゃないんだ」

「えっ?」


「スパイに関することなんだ。ふぉれすとで八木亜門がなにかしようとしているんだ」

「なっ、なんなのよ! それを早く言いなさいよっ! こんな時間に電話かけてくればコクるためって思うじゃないっ。モテない睦人が悶々としちゃて唯一まともに話が出来る美人に電話かけてしまったって思うに決まってんじゃないのっ!」


 う…… ずいぶんな俺のイメージだよな。

「と、とにかくさ、今、ふぉれすとにいるんだけど、八木亜門がなにかを始めようとしているんだよ。奴ら、深夜なのに大勢で職場に残ってるし。変な部品みたいなのをこんな時間に納品させられたし」


「わかったわ。今からすぐそっちに向かう。あんたは動かないで待ってなさいよ」


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