第四十三話 納品
「加能商事ですけど、納品にうかがいました」
「あ…ん、じゃ」
無愛想な感じで、デザイン事務所のデザイナーというよりは、うちの電気工事部門にもいる技術職みたいだ。デザインっていっても機械設計とかなのかもしれない。
こんな夜中に来たというのにありがとうも言わない。ま、そんなの期待してないけどさ。
せっかちな手つきで、奪うようにして小包を取ろうとする。
「うわっ…とと」
そいつが落っことしそうになってので、俺は慌てて支えた。
「ちょっ、気をつけろよ! 大事なものなんだからさっ」青白い顔を赤く変えて神経質そうな早口でまくし立てる。
「すいません」一応謝っておく。
「これのために何時間待ってると思ってんだ。遅いんだよっ。ったく」
「えっ、これ待ちで残ってたんですか?」
「もっと早く持って来いよっ!」
「すいません、通関に時間がかかったみたいでして」
加納が通関手続きで何度も書類を作成し直したり、追加で添付資料を提出していたのを思い出す。
「これってなにかの部品ですよね?」
……
男は答えなかった。
「えと、無線関係の部品でしたっけ。いや、実はなんか出力って言うんですかね、電波の強さが基準超えてるみたいでろいろ法律上の手続きが面倒だったらしいんですよ。担当もがんばってたんですけど」
書類のやりとりが面倒なうえに、ケルビンデザイン側の担当者が催促しても書類を出してくれないと加納が愚痴っていたのを思い出す。
「それをなんとかするのが、そっちの仕事だろ」
そう言われても発注者側で用意しなければいけない書類というのもある。協力してくれないとどうしようもないっていうことだってあるのだ。
だいたい、ほんとうに今日の納品の約束を加納はしていたのだろうか?
「あの…… ちなみに納品のご予定ですけど本日でしたかね?」
納期のトラブルの理由ははっきりさせておきたい。今日だったとして、加納がお客に対してなにも連絡せずに帰ったとしたらなら問題だ。注意しなきゃいけないし、そこは謝罪しなければならない。
「い、いや、まあ……」
語尾を濁す。ははあ、やっぱりあいまいだったんだ。
「すいません。今日必要だったのでしたら夕方までにおっしゃっていただければ早く対応できたと思うんですけど。ほら急に言われて対応できなかったりしたら、逆に申し訳ないですし」
納期の確認をしていなかったのが原因だ。それか、もっと後に納期を設定していたかだ。明確な届け日を指定していなくて、夜になってから持ってきてくれってのは無理がある。加納だって、さすがに今日〆切だって分かっていれば、風呂入って寝てるってわけにはいかない。