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第三十五話 とおんと美々は睦人が好き

「とにかく先輩にはもったいないですよ。先輩はどうあがいても非モテなんです。だいたいコンパに行きたくって大のおとなが泣くってキモくないですか。彼女いない歴イコール年齢ですよ」


「彼女とか彼氏がいないからってってなんだっつーのよ……」 とおんが聞こえないような低い声で言った。


「もう、先輩みたいな人は神頼みってのですか……変な水晶の玉買うとか怪しいセミナーに通うしかないんじゃないですかね」


「あ、怪しいセミナー…… 失敬な」 彼女のセミナーのことを言われたわけではないのだが、美々さんが過敏に反応する。


「ま、でも、一瞬あせりましたよ。こんなきれいな方々と先輩が合コンだなんて。いやいや、ないない。世の中の摂理ってものに反しているでしょ。仕事で義理でもなけりゃ先輩が美人とお酒を飲むことなんてないでしょ」


「あんたさあ、少しばかり認識に誤りがあるようね。たしかに今日は仕事の関係でこのお店にいるわ。でも、たとえ仕事がなくったってあたしは睦人とお酒が飲みたいの」 とおんは俺の方に向き直って、まっすぐ視線を合わせた。


「好き。つきあって」

「うえっ!!」

 コ、コクられた!? いま、俺、コクられたのかっ!


「とおんちゃん、抜け駆けるのはなしですわよ」と美々さん。

「へ?」

「わたくしだって仕事を口実に出河さんとお酒が飲めるのを心の底から待ち望んでいたのですわ。今日こそ絶対に思いを叶えるのだと決心してましたのよ」

「ええっ?」


「睦人さん…… 好きです。吉良守美々をあなたの彼女にしてくださいませ」

「ええええっ!! 美々さんまでっ!」


「う、うそだ…… そ、そんな、先輩がこんな綺麗な人たちに」


「あんたさあ。たしかに私たちがしているのは合コンじゃない。そんな浮ついたものじゃないわ。ここは戦場よ。わたしと美々は戦ってるの。出河睦人という一人の素敵な男性を巡ってね」


「間違ってる。そんなの間違ってるよ。こんなブサイクな先輩を美人が争うなんて」

「この広い世界にはどんな奇跡的なことだって起こり得るのよ」

「違う……違う…… そんなわけない。先輩にモテ期なんて来るはずなんかない。酔ってるんだ。きっと飲み過ぎたんだ。夢を見ているんだ。あは、あはは」


「あらら、みなさま、おそろいでどうされました?」

 とりこんでいるところへ穏やかな口調で声をかけてきたのは馬都井くんだった。


「な、なんだよ、こいつ? えっ、連れなの……」

「か、かっこいい……」 長谷川未理緒がつぶやく。

「もお、いいや。帰ろ帰ろ。ね、長谷川さんテーブル戻りましょ。ぼく悪酔いしちゃってるみたいだし」

 加納はさっきまでの言葉と一八〇度転換して長谷川に自分たちのテーブルに帰ろうと言った。


「え? もうちょっといいんじゃない」と長谷川。

「え~」

「あ、あの、出河くんと同じ職場の長谷川未理緒って言います。ち、ちなみに、ま、馬都井さんは彼女とかは?」


「はい? あ、そうですね。交際している方はいませんが」

「あ、あの、よかったら好みのタイプとかって。あ、あたし、なに言っちゃってんだろ……」

 頬が赤らんでる。長谷川未理緒のそんな顔は初めて見た気がした。


「好みのタイプということですねそうですね…… 相手の心を和ませるような方ですかね。野に咲く花のような。本人はまだ自分の魅力に気づいてなくて、そういうところも素朴で好感が持てて」

「ちゅ、抽象的ですね……」


「具体的にもうしますと。ふわふわっとしたパーマヘアで」

「パーマ? ゆるふわ系ですか」

「いえ、どちらかというと、彼、アフロヘアーというのでしょうか」


「ア、アフロ!? ってか、彼!?」

「ごめんなさい。回りくどい言い方はやめますね。睦人さんのことが好きなんです。おつきあいしてなんて言いませんけど、この気持ちだけお伝えさせてください」


「うええええええっ!!」

 長谷川と俺は同時に悲鳴を上げた。


 コ、コクられた。また、コクられちゃった。つか、馬都井くん、そっちだったのか。いや、そんな趣味俺ねーし!

「わたくし、実はこう見えて僕っ娘なんですよ」


「えええええっ! じょ、女子なの」長谷川は大口を開けて驚いている。

「うそっ! 女子だったのっ!」と俺。そ、そういえば、男にしちゃ整いすぎてるって思ってた。


「さ、さよならっ。か、加納くん、帰るわよ」

 どん引きしているままに、長谷川未理緒は焦点の定まらない目をした後輩を連れて自分たちのテーブルに戻っていった。


 俺はテーブルの上の氷の入った水を一口飲んだ。氷が回るときカランという音がした。


「あ、あのさ、みんなの想いだけど、ちょっとペンディングってか保留ってことでさ。待ってもらえるかな。気持ちはうれしいけど、そんな同時に何人もとつきあうわけにはいかないからね。いや、なんかモテるってのも困るよね」


「はあ? なに勘違いしてんの。あんたとつきあいたいなんて思ってる訳ないじゃない」

「ごめんなさいね。出河さん、これは演技なのですわよ」

「へ?」


「ちなみに、わたくしが僕っ娘というのもうそでございますよ」

「ええっ」

「かっこいいのを鼻にかけたイケメンを女子が嫌ったからといって、オタクのブサイクが好きなわけないでしょ。あいつがムカついたから、あんたの見返したいって気持ちに乗っかっただけ」


 そ、そうでしたか。……だよね。

「はっきり言っておくけどね。あんたは非モテなの! 非モテだっていう厳然たる事実を直視しないさいっ」

「わ、分かってるよ。そこまではっきり言わなくても…… とんだ泥仕合だよ」


 加納を懲らしめられたと思ったのだが…… 俺の方もずいぶんなダメージを受けた。

「ふんっ、ちゃらちゃらした連中に制裁を与えてやる。この世界から浮ついた出会いとか、合コンとかって類のものを一つ残らず撲滅してやる。くくっ、くくくっ…」とおんはあさっての方を向いて拳を握りしめた。

怖ええよ……

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