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第三十一話 ミニスカ大作戦

「くそっ。俺を外しやがった合コン、この店でやってんだよ」

 屈辱に震えながら席に戻ったのだが、全員が黙ったままだった。雰囲気がさっきと違う。


「あれ、どしたの?」

「ほら、さっさと座って。静かにすんのよ。あんたの非モテエピソードなんかどうでもいいから」ととおん。

 あ、ひょっとして…… ターゲット来たのか?

 入り口を見ると八木亜門が立っていた。数人とともに一際目立つ髪型のおっさんがいた。いっしょにいるのは研究員達だろうか。


「八木亜門だ」

「こら、ガン見しない」

「う、うん」

「ほんとに来たましたわね」と美々さん。

 クワガタ頭と取り巻きが店員に案内されて歩いていく。

「奥の方に行きましたね。ここからだと中まではうかがえませんね」と馬都井くん。

「たしかにパーティションのかげになる。邪魔ね」ととおん。


「あれは?」と美々さん。

 入り口に立ったスーツ姿の男性客は一人でビジネスバッグをさげていた。遊びに来たというより接待とか商談という雰囲気だ。


「ビンゴ」小声でとおんが言った。八木亜門と同じ席に案内されたのだ。

「すみません、あまりうまく撮れませんでした。光量が不足してます」

 馬都井くんがカメラの液晶を皆に見せた。通路を行くときにこっそり映していたのだ。フラッシュが使えないので仕方がないだろう。


 目的は八木亜門の研究が何に関するものなのかを突きとめるということだった。今日の打ち合わせは誰と行うのか? 八木に研究をさせているものはだれか? 背後にいる組織や人物の正体を探り、陰謀の全容を知ろうということだ。


「ま、いいわ。作戦はこれからよ」ととおん。

「どうやって探る?」俺は聞いた。

「まずは…… 店員になりすますわ」

「どうやって」

「制服を着てよ」

 そりゃそうだ。けど、どうやって。


「馬都井くん、ピンポン押してくれる」

 馬都井くんがオーダー用のベルを押す。

「ご注文おうかがいします」

 すぐに来た店員が笑顔を見せる。さっき俺を注意したやつだった。女子には愛想いいな、こいつ。


 ズドッ。

 店員は崩れ落ちた。とおんの拳がみぞおちにめり込んでいた。


「おいっ!とおん」

「大丈夫。痛いと感じるより先に気絶してるから」

「いや、しかし」

「おやすみ~」手のひらをひらひらしてとおんはバイバイした。

 こえーよ。スパイこえーよ。


「とおんちゃん、そういうのはあまり感心しませんわ」

「そ、そうだよ。美々さんの言うとおりだ」暴力は反対だ。

「馬都井、ピンポンを押して」


 ほどなく女性店員がやってきた。

 ザンッ!

 うなじにチョップをくらわされ女性店員が崩れ落ちる。

「手刀の方がいいですわ」

 失神した女性店員を抱きかかえながら美々さんが言った。


「いや、きみたち、なにか間違ってるって。罪のない一般の人なんだよっ」

 ともかく、作務衣みたいな制服が男性用と女性用の二着手に入った。とおんと俺がそれを着た。

 二人ともセルフレームのメガネをかけて顔も変える。


「八木亜門の研究の背景を探るのよ。彼が定例報告をするあの男が誰なのか。そして男が所属している機関が何なのか。まず陰謀を解明するにはそこからね」 とおんが言う。


「作戦はどうしますの?」と美々さん。

「とにかくあの男を撮りたい。あたしが気をそらしている隙に睦人が撮って」

「わかった。けど、どうやって気をそらすの」

「こうやってよ」


 とおんは作務衣みたいな上着と同素材のスカートのウエスト部分を何度か折っていく。その分、丈が短くなってミニみたいになった。

 下から覗いたら見えちゃいそうだ。

「ミニスカ大作戦ということですわね」と美々さん。


「睦人は後ろからついてきて。あたしの美しい足に奴らが気を取られている隙にターゲットの顔を隠し撮りするのよ」

「お盆の下にこのスコープカメラを隠し持ちましょう」

 馬都井くんが小型カメラをくれた。


 しゃなりしゃなりって感じで彼女は歩き出した。

 ほんとに無駄に長え足だよな。3センチくらい俺にくれよ。何頭身あるんだよ。カメラの映像をお盆においた端末の液晶モニターでみる。


 モデルみたいな歩き方で酒膳 呂磁緒の通路をいく。ゆっくり気取ったリズミカルな歩調に細い腰が揺れる。通路の周囲のテーブルの男性客の視線がとおんのセクシーな足に注がれる。八木亜門もその連れも含めて。


 とおんは八木亜門がいる席の反対側のテーブルに近づくと、腰をかがめてテーブルの上を拭いた。お尻が突き出されてミニスカートがヤバイことになっている。こっ、これはサービスし過ぎだろ。

 いかん、いかんいかんいかん…… とおん、ダメだって。それ以上かがむと何色か分かっちゃうよっ! けしからん、けしからんって!


 大変けしからんギリギリのサービスショットの後、とおんは再び通路をモデルウォークして店内の端の方へいった。

「睦人、撮れた?」

 とおんが振り返って聞く。

 はっ!


「どれ、見せて」

 彼女が液晶の端末を再生する。

「ちょっ、なんで、あたしの足撮ってんのよっ! てか、ずっと足じゃんっ! ターゲットは?」

「す、すまん。ミッションを忘れていました」


 ビシッ!

 脳天に空手チョップが入った。

 ぐっ。

「もお! あんたがミニスカ大作戦に引っかかってどうすんのよっ」

「いや、ほんと申し訳ないです。深く反省している次第であります」

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