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第二十五話 映像 研究室の黒い板とガジェット

 わずか数十秒あまりの撮影映像だったが、冒険の成果はあった。室内の様子がくっきりと映っている。


 トマトーマは俺が勤めているような通常のオフィスとは違っていた。オフィス用のデスクも少しはあるが、大学の研究室にあるような長い作業台が列になってたくさん並んでいる。実験器具、ファイル、書籍が棚にずらりとあった。人は画面に映っているのが四、五人だが、別の部屋にもいるのかもしれない。人間の数に比してPCの数がやたら多い。どれもなんらかのグラフや表の数値データなんかを表示していて、俺らが作成するような文書ではなかった。やはり食品卸の商社などではない。


 ビルのテナントとして、こんな研究機関のようなものが入居していいのだろうか。


 部屋の中央のテーブルには、やはり黒い大きな板切れみたいのが浮いていた。少なくともPCの画面ではそう見える。


「窓から見えたんだ。これなんだろう?」

 俺はその黒い板を指した。

「これって浮いてますの?」と美々さん。

「そう。謎の物体だろ」

「あれよ。きっと機密に関するものだわ」

 とおんは安直に機密だとか陰謀だとかいう不穏な単語を使いたがるが、これに関してはそういう単語を使ってもいいように思えた。


「電磁力か何かで浮いているのではないでしょうか」

「たしかに八木亜門が所属していた大学では超伝導とか電磁波なんかについて研究していたらしいわ。リニアの研究所とも人事交流があったらしいし」

「リニアですか…… 電気磁石ですね。やはり、そういった技術の実験装置と考えるの妥当でしょうか」


「この機械なんですの?」美々さんが黒い板の背後にある機械を指した。

「そういや、どこかで見たことあるような」

 俺も思い出せそうな気がした。

「あ、あれ、空港のあれじゃん。手荷物検査のやつ」ととおん。

 X線でチェックするベルトコンベアーのついた機械だった。


「まさか宅配便とか郵便物を全部チェックしてますの? よほど重大な研究を、しかも秘密裏に行っているってことですわね」と美々さん。


 とおんの宅配便は、この機械で検査され、盗聴器を仕掛けていることがバレたのだろう。

「これは…… ほんとうに陰謀というものがあるのかもしれませんね」と馬都井くん。

「面白くなってきましたわ。わたくしたちの前には巨大な敵が立ちふさがっていますのよ。これこそ…… 吉良守美々が世界征服の端緒についたということではないかしらん」


 美々さん、また世界征服とか訳分かんないこと言っているし。

「ふっ。だから言ったでしょ。優秀な諜報員には常に困難な任務が課せられるのよ。巨大な陰謀を追うというような特別な任務がね」

 ほんとうに優秀な諜報員なら、そういうとき、君みたいなドヤ顔はしないと思うのだが。


 デッデッ、デッ、デッ……

 小さな音でスピーカーから例のスパイのテーマが流れて、その後、八木亜門が窓の外の俺に気づいて一連のやりとりが再生された。画面の中の俺の声はテンパっていてイーサンハントとはほど遠い。がっかりだ。


 八木亜門がカメラをとったせいで、画面の中の風景がひっくり返っている。

 室内のテーブルかどこかの上に置かれて画面が安定する。偶然、部屋の横の方の窓からは見えなかったところが映し出された。


「なにあれっ!?」

「うわっ、なんか変なのが」

「戻しましょう」

 馬都井くんがPCを操作して前の画面で一時停止させた。


 その台の上にごちゃごちゃとよくわからないおもちゃみたいなものが並んでいた。その中に画面では小さいが人間の頭部のようなものが乗っていたのだ。

「拡大してみましょう」


「うわっ!」

 急にアップになった画面いっぱいに人ではないものの顔が映し出されていた。

「なっ、なにこれ!?」

「う、宇宙人?」

「……のマスクかなにかでしょうか?」


 馬都井くんが冷静な声で言う。画面の倍率を少し調整すると宇宙人の頭部のようなものの周囲にあるものの様子も分かる。UFOの模型があった。アダムスキー型と呼ばれる銀色の円盤や葉巻型のもの、光線銃や宇宙怪獣みたいなののフィギュア、ジオラマみたいなものもある。そこには、その筋の方が喜びそうなものがいくつもあった。


「あ~ね、研究者にはへんなやつも多いからオタクっーことね。あんたもこういうの好きなんでしょ」とおんが横目で俺を見た。

「ま、まあ、そうだけどさ……」


「休憩スペースでしょうか。研究の疲れをやわらげる演出ですわね。なかなかいい趣味ですわ」と美々さん。

 そういや、ここにもちょっと変な趣味の方がいた。あなただけですよこういうので疲れがやわらぐのは。

 映像をリアルタイムに戻す。

『おいっ、そのカメラ生きてるんじゃないのか』

 PCのスピーカーから室内の人間の声が小さく再生された。


『え? それがなにか……』

『バカっ。無線か何かでデータ送信しているかもしれんだろうがっ。切れっ、早く切れ』

『あ、は、はいっ』

 白衣を着た男の鼻が大きく映って画面は消えた。

 プツッ


「ちっ、ここまでね」ととおん。

 これだけの短い撮影時間では彼らの研究内容までは分からなかった。それでも食品卸の会社ではなくなんらかの研究をしているということだけは突きとめることができた。それが俺が命がけで得た成果だった。

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