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第二十三話 チュウヅリでジュウゲキ

『なにやってんのっ。早く逃げなさいっ』

 とおんの声がインカムに響いた。


「とっ、とにかく、さよならっ」

 あたふたと登攀装置を使って、登っていく。

「ええい、なにをやっとるのだ、あやつ逃げていくではないか。早く追えっ」

「しかし、亜門様、ここからは出られません……」


 そう、狭い窓からは出られないし、そもそも登攀装置なんてものを持っているはずもないから追ってこれないはずだった。

 悪いな。スパイは退散させてもらうぜ。


 キュン!

 甲高い音が響いた。

 えっ!


 銃撃されてる!? うそっ!

 パキュ、キュン!

 ぶわ、わわ、早く逃げなきゃ。登攀装置のスイッチの入り切りを早める。スイッチを入れるタイミングがずれてガラス面に密着せず、落ちそうになる。


 パキューン!

 音がした直後、右手に強い衝撃を感じた。手に当たったのではない。右手の登攀装置に命中したのだ。登攀装置は弾き飛ばされ、俺は左手一本でビルの壁にぶら下がっていた。


「貴様、もう動けんぞっ!」下の窓から顔を出している八木亜門が怒鳴る。

 俺は体重を支えるため、左手の登攀装置に右手も添えた。だが、その状態では身動きがとれない。両手に登攀装置がなければ登れない。


 どうしよ?

 そうだ。この壁面はガラスじゃないか。

 ならば……


「うっしゃーっ、とおーっ!」

 俺は思いっきり勢いをつけてガラスを蹴った。

 ボムンッ。


「くうっ、ひざがっひざがあっ……」 

 蹴破ろうとしたが全然無理だった。こういうビルのガラスは相当丈夫に造ってあるのだ。

 もうダメだ……


『睦人、ロープつかんでえっ!』

 インカムからとおんが叫ぶ声がした。

 へっ?

 ロープが俺の方へビューンと振られた。 さっき外した命綱だ。


 屋上のとおんがしたのだ。

 右手でそれをキャッチする。

 しっかりとした手応えがある!

 次に左手の登攀装置を解除した。

 ロープに体重を預けると、反対方向に猛スピードで空中ブランコのように揺り戻された。


「ひえええええっ! リアルにシルクドソレイユになってるしっ! 」


 勢いがついたロープと身体はビルから大きく離れ、ビルの角のところも超えて大きく振られた。空を飛んでいるようだ。そして、俺はさっきまで宙吊りになっていた西の壁面ではなく90度角を曲がった北の壁面にたどりついて、ガラスに叩きつけられた。


 ダンッ!

 衝撃に息が詰まりながら必死で左手の登攀装置のスイッチを入れて身体を壁面に固定する。

『大丈夫っ!?』

「上に引っ張り上げて。は、はやくっ!」

『美々も引っ張って』とおんの声。


 ロープが上に引っ張られるのを感じて、登攀装置を解除した。ガラス面を引きずられるようにして俺の身体は上昇していった。


 パキュン!

 下の階の窓が開いて、さっきの男が顔を出す。

 銃撃してきたのだ。足の裏にたたかれたような衝撃を感じた。当たったのか。いや、でも痛みはない。かすったのかもしれない。


『美々は、引っ張ってて。敵をやるわっ!』

 屋上からとおんが顔を出す。手には銃が握られていた。

 キュン。発射音がした。


「ぐっ」

 えっ? 俺の肩に小さなアンプルが突き刺さっていた。

『あ、ごめん……』

 とおんだった。

「俺を撃つんじゃねえよおっ!」


 それでも、どうにか俺は屋上へと引っ張り上げられ、コンクリートの上に転がった。

「痛い、痛い、痛い……」

 針の刺さった肩がうずいた。と同時に、なんだか痺れるような感覚が肩からじんわり広がってくる。


「ごめんってば。解毒剤打っとくから」

 とおんが例の注射器を俺の腕に当てる。服の上からぶっすりと挿した。


「痛ってえええええ!」

 こ、こいつ、自分の腕には注射怖いから刺してとか、そっとしてとか言ってたくせに……

「すぐに、あいつら来るかもしれない。逃げますわよ」と美々さん。


 だが、立ち上がろうとして、俺のスニーカーの裏になにかがくっついていることに気がついた。

「あ、なにこれ?」

「アンプル弾、同じだわ」


 とおんが不思議なものを見るような顔をして、その針のついたアンプルをスニーカーの靴底から抜いた。

 それは、女スパイが俺の肩に当てたのと全く同じ形状をしていた。


「やつら何者……」とおんがつぶやいた。

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