表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/128

第十六話 会議テーブルは振り回してはいけません

 ゲコッ。

 水槽のカエルが鳴いて、ぴょんと飛び上がった。

「あら、餌かしら? 待ってて、スパイを倒したら後であげますからね」と美々。


「まだ、あたしを倒せると思ってるの?」

「そうね。たしかに厳しいかもしれませんわ。ん。馬都井、ヤモリ取ってちょうだい。わたくしも餌が必要だわ。パワーアップのためにね」


 馬都井が天井からぶら下がっていた黒ヤモリを外す。

 ユンケルとかより効くとか言ってたけど、そんなもんでどうにかなるのか。

 馬都井が黒ヤモリを投げた。


 その瞬間、とおんは背後の壁を蹴って弾かれたように飛び出していた。壁をランチャーに使って初速からトップスピードを叩き出す。壁がとおんというロケットの発射台になったのだ。


 放物線を描いて美々の手元へと向かう黒ヤモリを途中で追い抜く。音速の寄せが美々との間合いを一瞬でゼロとした。


 とおんが跳ぶ。空中で足の裏を美々へ向けて、そのままミサイルのように美々に命中した。

 美々は吹っ飛んで壁に打ちつけられた。長いウェーブのかかった髪が壁面に広がる。

「ぐはっ」

「美々さんっ」


 だが、これほどの衝撃を受けたというのに、まだ美々は起きあがってきた。


「そろそろ降参してくれるかな? あたしも忙しい身なんだけど」


 美々は自分が打ちつけられた壁面を見た。当たったところがへこんでいた。

 そこを撫でる。


「いいお尻のかたちしてると思わない?」

「ふふん、否定はしないけど、自分で言うなっての」


 美々は床に落ちていた黒ヤモリを拾った。

「たしかにあなたの戦闘能力は図抜けてる。……それでも正義が勝つべきじゃないかしら」

 美々は黒ヤモリの尻尾を持って頭からかじった。


「気持ちわる。よくそんなの食うわ」

「あら、おいしいジャーキーですわよ」

 黒い干物は、結局ボリボリと美しい歯並びにかみ砕かれて、紐が巻かれた尻尾だけ残して、彼女の口の中に入ってしまった。


「フォホワアアアーッ」

 両手を開いて天井の方へ向けたヨガみたいなポーズで、美々は声を出した。血管が浮かび上がり、筋肉が膨れる。黒ヤモリが彼女の身体に変調をもたらしたのだ。目に見えない妖気が立ち昇る。美々の身体がひとまわり大きくなった。


「その槍みたいな長い脚を防ぐには盾が必要ね」

 美々は、会議テーブルを両手で持ち上げると、とおんに向かって構えた。


「これだから素人は…… そんな重量物持って戦えると思ってんの?」

「黒ヤモリをバカにしちゃいけませんわ。ほんとに効きますのよ」


「ターッ!」

 とおんがキックを見舞う。美々が俊敏な動きで会議テーブルを掲げその攻撃を防ぐ。テーブルにひびが入ったが、割れはしない。

 ガッ、ゴッ。とおんのキックを長い板で器用に受け止めていた。


「くっ。なんてバカ力なのよっ! でも守ってばかりいても勝てないわよ」

「そうね、じゃ」

美々は長板を軽々と振り回して、とおんに向けて振りかざした。

 ヴワアン、ヴワワアアン!


 唸りを上げて会議用のテーブルが宙を舞っていた。他のテーブルに置いていた資料やらが風圧で飛ばされる。

「つっ!」

 とおんが板を避ける。


「危険でございますっ」

 馬都井がぼくの頭を押さえつける。その上を重たい板がかすめていった。当たったら身体と頭が離れていってしまう。


 とおんもテーブルの射程範囲の同心円から逃れようとする。

 美々はとおんを徐々に室内の隅の方に追いつめていった。背後には壁しかない。


「ツアーーーッ」

 美々は会議テーブルを横にして、とおんを壁に押しつけた。

「ぐはあっ」

 きゃしゃな女の子が壁とテーブルに挟まれていた。

 テーブルが床に落ちて大きな音を立てた。


「勝負ありましたか?」と美々。

「い、いえ…… まだ、負けてはいない…… スパイのあたしが素人風情に負けるわけにはいかない」


「そう…… 強情ですわね。じゃ楽にしてあげます」

 とおんは追いつめられていた。美々は水晶玉を手に取った。

「おいしい蕪を漬けられる石の重みを味わうがいいわっ」


 ヴウンッ! とおんに向かって、美々は水晶玉を持って殴りかかった。

 そのとき、とおんがテーブルの足の一本を、残っていた力を振り絞って踏みつけた。


 ぐいんと、テーブルが起きあがる。


 美々のパンチは立ち上がったテーブルが受けた。

 バッシャーン。手にしていた水晶が砕け飛び散る。


 美々のパンチは強力で、板を突き破ったパンチは、とおんの鼻先一センチのところで止まった。

 美々の腕はテーブルに穴を開け、はまったままだった。


「おりゃあああああっ!」

 とおんは会議テーブルごと背負うようにして美々を投げる。

 美々の身体と会議テーブルが、とおんの腕を支点に弧を描くように空中を舞った。

 ズダアァァン!

 テーブルとともに美々は床に叩きつけられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ