第百二十六話 飛翔
「時は満ちた。それい、人類の未来へ飛翔せよおおおっ!」八木亜門が両手を天に向かって突き上げた。
地響きのような轟音がして、立ち眩みのようなものを感じた。足元を見る。
今度は床がゲル状になったわけではなかった。ほんとうにこの建物が揺れていた。Gを感じた。一瞬、床が傾いた。
だが、その違和感は一瞬で消え嘘のように静かになった。
「な、なにも起こってないじゃん」とおんが言う。
八木亜門のミッションは失敗したのか?
透視図のように透明な建物だったが、下の階のさらに下方は地層だから真っ暗だった。そこがうっすらと明かりを帯びる。宵闇の群青だ。
その暗い足元の方に光点がいくつも現れた。星のように…… 違う、それは街の灯りだった。
気づかないうちに俺たちはものすごい速度で夜空へと上昇していたのだ。
群青のかすかな地平線、あるいは水平線、イカ釣り漁船のまばゆい漁り火。月は満月だった。とおんとバイクでUFOを追跡した夜の景色が頭をよぎる。
俺たちは地上のだれからも見つかることなく、透明な巨大UFOに乗せられて夜間飛行していたのだ。ぐんぐん上昇していく。
「驚いたかね。動きとGが一致していないだろう。重力を制御するということは慣性を制御するということなのだ。戦闘機に乗るには強烈な重力に耐える訓練が必要だ。だが、この船ならどのような動きをしても重力を制御しゼロに出来る。肉体に負荷がかからないのだ。ま、まだ制御が完璧ではないからわずかながら揺れるのがご愛敬だがな。UFOが超絶的な動きをするというのはこういうことなのだよ」
「面白い趣向を見せよう」亜門が言った。
世界がゆっくりと回転しだした。
月が足元にあった。背面飛行しているのだ。それでも俺たちは落ちていかなかった。そして地球も巨大な惑星となって頭の上にあったが落ちてこなかった。地球の重力が理解できないことになっていた。
八木亜門の造っていたUFOとは、この基地そのものだった。