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第百十九話 史跡の碑文

 どうする? とおんがつかまってしまった。

 俺はスクーターを奴らの秘密基地の方から見えないように小さな小屋の陰に停めた。

 そうだ、馬都井くん……


 古い小屋の木造の壁に背中を預け、馬都井くんの電話番号にかける。留守電になってる。くそっ、相談できない。美々さんにもかけたが同じだった。二人は会社のこととかで忙しいんだ。

 壁を背もたれにしたまま地べたに腰を降ろした。

 目の前の立て看板に気づいた。史跡、墜御子おちみこ古墳とある。


 ボロボロの木の板に、ところどころ剥がれかけた碑文が記されていた。

 古墳の形状や大きさの他に、古墳が造営された時代や造営したと考えられている地元の有力な豪族の名などが書かれている。でも俺が気になったのは後段の古墳にまつわる伝承だった。


 天から墜ちてきた古墳の話だった。

 その昔、この地には多くの古墳があったのだという。今もそうだ。あまり知られていないことだが、能美古墳群といって古墳が集積している土地なのだ。

 伝承によると古墳を造るのはただ埋葬するためではなく、死者が神の国へ行くためだったのだという。神々は古墳に乗り、それは空を飛んで天界とを行き来していたのだそうだ。


 神々は、さまざまな魔法を使うことができ、たとえば、土塊つちくれを黄金に変えるような力もあったのだという。

 だが、ある日、この地を侵略し新たに支配した他国の大王おおきみが古墳を手に入れようとしたのだった。それを奪おうと大王の家臣がこっそり古墳に忍び入り、天へ向かう途中で古墳の主である神を襲ったのだ。


 その企みが失敗して古墳はここに墜落してしまった。墜落したこの場所は、神の魔力で付近一体の土が黄金に変わったという。

 神々は墜ちた古墳と神のむくろを取り戻そうと来訪した。だが大王は呪術を操る者に命じて結界を張らせた。神々は結界の内には決して入ることができなかったという。


 ともかく、その時以降、この地に数多くある古墳は抜け殻のようになって決して天へ飛ぶことはなくなったのだそうだ。


 碑文には墜ちた異国の神に関する物語が記されていた。

 それは、波政に聞いた金山が銅山になった縁起譚に連なる、それ以前の話でもあると思った。彼の話とどこか一致している。あの話はこの民話の部分だったのかもしれない。


 浪政の話…… 江戸時代に金山だったこの場所が、採掘を巡って村々が対立した。ある村が相手の村を攻めたときに鎮守の森の要石を動かしていしまう。封じられていた異国の神が目を覚まし光を放って去る。その光に照らされて金鉱脈が銅に変化し、金が採れなくなった。そういう話だった。


 俺は、それがもはや、ただの伝説とは思えなくなっていた。あの手首…… それは史実を下敷きにしているのではないかと思うのだ。


 碑文の内容は荒唐無稽だったけれど、なにかしらの事実を含んでいる気がした。 

 結界から出てしまうと神々に奪われた、あるいは浪政の話では、目を覚まして去ったという話も気になる。


 新幹線のドッペルゲンガー、偽物の新幹線が本物をコピーしマッハを超える速度で去っていったのは、その話とリンクしないか。

 結界を出てしまったことで神々に奪われたのではないか。


 謎を解明したい。

 あの秘密基地の中にはきっと手首の本体がある。それが眠っている。それこそが、天から墜ちてきた神なのではないか。UFOとか超常現象は好きなんだ。だが、危険はごめんだ。好奇心は猫を殺すって言うじゃないか。


 携帯がつながらなかったので、俺は馬都井へくんへメールを打つことにした。緊急、連絡してとメールを打ち終わってから、とおんのメールをもう一度開いてしまった。


『やっぱりデートは無理…… 好みじゃない…… さよなら……』

 裏切りだ。

 でも、さっきの罪のない笑顔はなんだ? とおんの心が分からない。ミッションが成功してうれしそうにデートしようと言った彼女はなんなんだ?

 女子の心はまったく分からない。


 彼女の本心が聞きたかった。

 俺はフラれたのか。

 面と向かってはっきり嫌いだって言われたのならあきらめるさ。でも、それがなければ前に進めない。

 ひょっとしてあの手首に操られてメールを打ったのではないのか。それが希望的観測過ぎることは分かっている。俺とデートなんてしたくないと言うのが彼女の本心なのだろうけど……


 夕闇が迫ってきていた。宵宮とおんの宵というのはこういう時間帯を言うんだ。

「どっちだっていい。けど…… それでも俺はほんとうのことが知りたいんだ!」

 決めた。暗闇に乗じて侵入する。それが出河睦人という素人スパイの最後のミッションになるだろう。


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